リース基準の統一

国際会計基準は2019年から、リースの機械もすべて資産とみなす。買っても借りても同じルールが日本にも適用されれば、リース本来のメリットはなくなる。手元資金の乏しい中小企業の投資意欲に水を差すと懸念する声が出ている。

日経新聞より。

中小企業がどこまで巻き込まれるかは何とも言えませんが、適用される上場企業にとっては、IFRS16はかなり面倒な基準です。

これはIFRS16の適用準備をしている担当者であれば、誰しも思うことかと思います。

ファイナンスとオペレーティングの区別

そもそも区別は難しいとは思う

オペレーティング・リースとファイナンス・リースの区切り・境目は、確かに微妙なものです。

結局は、企業の判断によって分かれてしまいます。特にどちらとも取れるような微妙な契約では。

ともすれば、企業の判断とその結果としての会計処理が、実態を表していないと指摘されることもあるかもしれません。

日本基準・米基準 vs IFRS

一方で日本基準や米基準のリース会計では、比較的ルールベースで区分けがされますので、これらの基準を適用する会社間で比較・分析する分には、特に問題にはなりません。

しかし。時代はグローバル。

多くの国家で採用されているIFRSを適用した企業との比較ができないと、有用性が低い。

ところが、IFRSは前提が異なる多くの国家で採用されることなどを理由に、所謂”原則主義”を貫いていて、日本基準のような実務的なルールや線引きは提供してくれません。

結局、旧リース基準では、IFRSでは企業の個々の判断で会計処理されるが、日本基準ではある種画一的なルールで処理されるため、会計基準の異なる企業間の業績比較ができない(かもしれない)。

まあこれも問題と言えるのかもしれません。

新基準(IFRS16)

ということで、旧リース基準をそのままにしておくことは良くないということはわかる。それはまあわかる。

見積要素の取り扱いが難しい

しかし、その解決方法がアグレッシブ過ぎるのではないかなと、個人的には感じます。

なぜなら、オペレーティング・リース契約の原則すべてを資産計上するというのは、それはそれで非常に困難な話だからです。

たとえば、リース期間が自動更新される仕組みとなっている契約については、リース期間を見積らなければならないのですが、これが非常に難しい。

IFRS16では、リース期間に「合理的に確実な延長期間」を加えなさいと言いますが、

自動更新契約が付された不動産契約などの取引では、これを”合理的に”見積ることが非常に難しいのです。

例えば本社の賃借ビルにいつまで入っているかについて見積れと言われても、移転計画で話が片付く場合は別として、一般的には困難な場合も多いでしょう。

そもそもそんな見積もりをさせてどうするのか・・・!?

多額の見積差額が出たら、それこそ財務諸表の信頼性が揺らぐと思います。

監査人としても、企業の判断や見通しを証明しろといわれても、非常に困難ではないかと思いますが・・・。

結局は企業の見積り精度に依拠せざるを得ないので、程度の差はあるでしょうが、見積差額の発生は避けられないと予測してます。

どうしてそうなることが予想されるのに、注記対応でとどめなかったのか。

どうしてリース期間=確定しているリース契約期間を原則とした方法としなかったのか。

これらはIFRS16を開発する中で呈された疑問です(基準書にもそのような内容の記載あります)が、

少数意見だからか、あるいは”営業妨害”になるからか、最終的には考慮されきってはいないと思われます。

新リース基準に対する考え方

結局、新リース基準は、企業の仕事がすごく増える割には利益にならないし(制度会計ってそういうとこがあるけれど)、

また投資家にとっても信用できる情報が確実に計算・提供されるとは限らない話ですので、

どうしてもポジティブに対応する気になれない企業は多いのではないでしょうか。

個人的な予想としては、既に米基準がそうであるように、将来的には日本基準もIFRS16ベースに修正されていくとは思いますが、

この日経記事にあるように、「ほとんどリースを採用している上場企業は無くなった」となれば、”会計基準が取引を変えさせた”ともなりかねず、果たしてそれが全体として正しいことなのか、疑問です。

監査法人や会計事務所にとっては大きなビジネスチャンスかもしれませんが、

はっきり言って企業側からしたら、この改正自体はネガティブに受け取らざるを得ない部分があります。

こう書くと非常に後ろ向きな愚痴になってしまいますが、

一方で逆の発想として、企業側がIFRS16によって得られるメリットを十分に享受する意識や体制を作り上げていく必要があるのかもしれません。

新リース基準が制度として走ってしまうことは企業からすればある種仕方の無いことです。

それを嘆くばかりではなく、企業が新リース基準によるメリットを得るために何をどのように考えたらいいのかという視点で取り組むことが必要なのかもしれません。

 

P.S. 新リース基準による大きな変化点として、EBITDAへの影響があります。

新リース基準では、リースによる費用はほとんどが償却費として考えられますので、EBITDAを減額しません。

これは、リース費用としている日本基準においては当該費用をEBITDAからマイナスしている点と比較すると大きな相違になると思います。

全く同じことをしている企業が2社あったとして、会計基準の相違でEBITDAが大きく変わるのです。

話はわかるのだけれども、EBITDAは企業間比較のために編み出された指標であるならば、

何だかなあ・・・という気がしています。