【公正な M&A の在り方に関する指針 ―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―】(案)

経済産業省は5月14日,「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」の公開草案を公表しています。

これに関連して、経営財務3409号においてもこの内容の記事がありました。

MBOについては,経済産業省が2007年に策定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(MBO指針)があるものの,

記事の中では、以下のような指摘事項とその改善策の提案が紹介されています。

本指針案では,「現在の経営者が全部または一部の資金を出資し,事業の継続を前提として一般株主から対象会社の株式を取得する」MBOと,「従属会社の支配株主が一般株主から従属会社の株式全部を取得する」支配株主による従属会社の買収の2つに着目。

「第2章 原則と基本的視点」において,この2つの取引は買い手と売り手に構造的な利益相反と情報の非対称性があることから,本来は売り手である一般株主が享受すべき利益を買手が享受しているのではないかとの懸念がある点を指摘。このため「特段の実務上の対応」を講じることで,企業価値の向上と公正な取引条件の実現が担保されるべき

この下線部についてどういうことを言っているのか理解を深めるため、「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」本文を読んでみたら、以下のような記載がありました(P.8)。

一般に、相互に独立した当事者間で行われる通常の M&A においては、当事会社の取締役が会社およびその株主の利益のために行動すること、すなわち、会社の企業価値を増加させるか否かの観点から M&A の是非を検討するとともに、会社や株主にとってできる限り有利な条件で M&A が行われるように努めることが期待できる。

これに対して、MBO および支配株主による従属会社の買収においては、それぞれの取引構造上、利益相反の問題が構造的に存在するため、対象会社の取締役が上記のような行動をとることを当然に期待することはできないと考えられる。

すなわち、MBO においては、対象会社の取締役自らが一般株主から対象会社の株式を取得することとなり、買収対価を低くすることに対して直接的な利害関係を有する買い手としての性格を併せ持つという取引の構造上、株式の売り手である一般株主との間で必然的に利益相反関係が生じることとなる。

また、支配株主による従属会社の買収においては、株式の買い手と売り手の関係に立つ支配株主と一般株主との間に利益相反関係が生じるところ 、支配株主が株主総会における議決権の行使や取締役の派遣等を通じて従属会社の経営に一定の影響力を及ぼし得るという関係上、従属会社の取締役が一般株主の利益よりも支配株主の利益を優先してしまうおそれや、支配株主がそうした影響力を背景に自己に有利な取引条件を一方的に決定してしまうおそれが指摘されている。

加えて、両取引においては、一般に、株式の買い手である取締役や支配株主は、株式の売り手である一般株主よりも、対象会社に関する正確かつ豊富な情報を有していることから、買収者と一般株主との間には大きな情報の非対称性が存在し、両者間の自主的な情報の移転も当然には期待し難い。

いずれも既に上場をしている企業の話なので、

例えば個人株主などの一般株主が、しなくていい損をしてしまうリスクについて触れられているということですね。

更に突っ込んだたとえ話が、以下(p.9脚注11)。

例えば、一般株主の立場からは、上記のような情報の非対称性の下で、対象会社の内部情報に通じた取締役や支配株主により、対象会社の市場株価がその本源的企業価値と比較して一時的に過小評価されているタイミングを利用して、企業価値の向上の観点からは必要性や合理性に乏しいにもかかわらず、単に自らの利益追求のみを目的として M&A が行われているのではないかという疑念が指摘されている。とりわけ MBO については、MBO 後に予定されている経営計画等は、必ずしも非上場化をしなくとも、上場を継続したまま経営努力を尽くすことにより実現可能なものも多いのではないかという疑念も指摘されており、このような疑念が払拭されるだけの積極的な意味合いがあるべきとの指摘もある。

具体的にそのような疑念がほぼ確信されているからこのような記載がされているのでしょうね。

要するにこの「公正なM&Aの在り方に関する指針」は、私利私欲で他人(一般株主)の利益を振り回すようなMBO等に対して一定の歯止めをかけたいというのが大きな趣旨であると理解しました。

そのための解決策案も同じレポートにて記載されていますが、長文すぎるので割愛します。