インセンティブ報酬(役員報酬)①_有償新株予約権

役員のインセンティブ報酬を知りたい

インセンティブ報酬は、コーポレートガバナンス強化政策としても、某自動車会社の事件があったことからも広がりを見せつつあり、法律や税制も巻き込んで世間的に話題になっています。

しかし会計処理については実は制度が追いつき切っていないこともあるようです。

我々会計戦士は常にインセンティブ報酬の論点に出くわすわけではないですが、時代に取り残されないように公表資料をベースに理解を深める記事を書こうと思います。

ソースは、「実務対応報告第 36 号」、「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告(JICPA)」や「「攻めの経営」を促す役員報酬~企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引~(2019年5月時点版)(経済産業省)」をベースにしますが、

適宜個人的な経験やその他の要素を織り込んでいきます。

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概要と論点のスピードキャッチ

概要

スキーム名

権利確定条件付き有償新株予約権(ストック・オプション=以下SO)

特徴

・通常のSOと異なり、役員又は従業員が、権利確定条件等を考慮したオプション価格算定モデルによって算出された金額を払い込む。(∵有償で任意の投資を行わせ、動機付けの効果を高める)

・業績条件の付されていない通常のSOにおいては二項モデル又はブラック・ショールズ・モデルを使用するが、モンテカルロ・シミュレーション*1の評価モデルにより業績条件を加味した価格を算定する。

*1 様々な行使条件を付したストック・オプションを、乱数を用いたシミュレーションにより評価する手法

・勤務条件、業績条件が付されているのが一般的

日本基準の会計処理

・要件満たせば、原則的に費用処理

・実務対応報告第 36 号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」にて設例あり(権利確定が見込まれる権利確定条件付き有償新株予約権の数量について払込がなされるケース)。

日本基準_会計上の論点(投稿日時点)

①業績条件の一種である、ノックイン条項(一定水準以上の株価を超えると行使可能)、ノックアウト条項(一定水準以下の株価を下回ると行使不能)がある場合
(1)条項を満たした時点で会計処理を行う方法、または、(2)条項の達成可能性を見積もり、毎期見直しを行って権利確定までの期間で会計処理を行う方法

②発行会社が未公開企業の場合の論点(単位当たりの本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことができる特例)→実務対応報告第36 号第8項からすれば適用できるのではないか

税務処理

① 会社
損金不算入(有償分について税務上は新株予約権を公正価額で発行。新株予約権を付与した場合の費用に関して定めた法法第 54 条の 2 第 1 項に該当しないと考えられている)

② 個人
無償ではないので適格要件を満たさないが、そもそも税制適格or非適格の検討不要(∵SOを公正価額で発行していると考えるため何ら経済的利益を受けていない)。

→所得税は課税されず、新株予約権行使後の株式売却時に有価証券譲渡所得として課税されるのみ。

IFRSの会計処理

・基本的には実務対応報告第36 号の考えと同様。しかし、以下の差異の可能性あり。

・業績条件*1(ノックイン/ノックアウトのような株価条件)について、IFRSでは資本性金融商品の数で調整するのではなく、付与日公正価値に反映させる形で調整を行う(見積修正不可)点が異なる。

*1:IFRSでは、業績条件には「株式市場条件」と「その他の業績条件」の2つがある。これらの条件の達成/非達成の織り込み方法は、「株式市場条件」=付与日の公正価値に織り込む、「その他の業績条件」=権利確定見込数量を事後修正するという点で差異がある。

→そのため、株価条件が「株式市場条件」と解される場合、権利確定条件が達成されない見込みについて、日本基準では会計処理上ストック・オプション数を事後修正するがIFRSではしないという差異が出現してしまう。

・権利確定後に失効した場合、日本基準のように費用の戻入れはできない(いったん計上した費用の修正・戻入は禁止)。ただし、資本の部に計上したSOを資本内の他の勘定に振り替えることは禁止されていない(IFRS2.23)。例えばこの場合は、利益剰余金で取り消すなどの方法が考えられる。

 

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