「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」

日本公認会計士協会は、会計制度委員会研究報告第16号「偶発事象の会計処理及び開示に関する研究報告」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」を公表しています。

本研究報告は、企業活動の複雑化に伴い、企業が責任や損失負担を求められる可能性が増加している現状を踏まえ、偶発事象に関する会計上の取扱いの考察や偶発事象の開示又は認識時点の適時性に関する検討を行い、当協会における調査・研究の結果及び現時点における考えを取りまとめたものとされています。

ざっと読みましたが、いつもながら完成度が高いですね。

読み物としても、会計知識の整理としても、使える資料になっています。

日本基準における、「偶発債務」ってそもそも何だっけ!?というところから始まり、その開示に関する事例分析から、いつものとおり提言(今回であれば新たな会計基準の開発)に繋げていくという、流れになっています。

最終的に引当金を計上することになる事象については、「開示不要→偶発債務の注記→引当金計上」という開示の時系列的流れがあることが自然ではないかと考えることもできなくはないですが、

実際はそのようなケースは稀で、引当金の計上前に偶発債務の注記を記載した事例は少数であったようです。

この原因としては、「発生の可能性」についての判断に実務上の幅があり、偶発債務の引当金の計上や注記の開示のタイミングについての判断が企業によって異なっている可能性が、示唆されています(事例的には情報が限られているので、断定はできない)。

指摘事項の一つとして、この「判断の幅」について企業間の目線が異なると、比較可能性が損なわれるではないですかという点が挙げられています。そのため、「ガイダンス」を作るべきだと主張されております。

有報の経理の状況以外で訴訟案件を記載することがあるのに、経理の状況では何ら記載されていないとすれば、経理の情報の意味が薄れてしまうことを危惧しているのかもしれません。

いろんな意味で、ルール化する意義はありそうですね。というか、あると思います。

 

あと、今回の研究報告においても、IFRSとの比較の観点が多く盛り込まれています。

これは、GAAP差異をあらためて抽出して、日本基準に足りていないところは積極的にブラッシュアップしていく趣旨ではないかと推測しています(JICPAの立場としても、日本基準がIFRSに対して大きく劣後する会計基準だといわれるわけにはいかないのではないでしょうか)。

何にしても、読みごたえがあり勉強になりますね。