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グローバル会計・監査フォーラム「AIを活用したビジネス・監査の展望と課題」
6月17日,日本経済新聞社主催・日本公認会計士協会(JICPA)協賛によるグローバル会計・監査フォーラム「AIを活用したビジネス・監査の展望と課題」が開催された模様です。
とても出席したかったのですが、残念ながらできませんでした。
経営財務3413号にて、そこで話された事項が一部だけ記載されていました。
「AIを活用したビジネス・監査に関する課題と,将来的に求められるスキル」とのテーマで討論があったそうです。
「統計的機械学習は,過去のデータに基づいて未来を予測するため,起こっていないことは予測できない」,「データの形式が揃っていないと効率的な分析ができない」等の課題を挙げつつも,
今後の展望として,AI等の先端技術の活用により,「人の長所(臨機応変な対応等)を生かして,重要性の高い監査手続(経営者とのディスカッション等)に人的資源を集中していくようになる」との未来像が描かれているようです。
AIとかやたら言うけどさ・・
AIのことは、以下の有名な書籍を読んで少しですが理解が進みました。
人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書) [ 松尾豊 ] 価格:1,512円 |
当該書籍の中で、松尾教授は、いわゆるシンギュラリティ(人工知能が人間を征服したり、人工知能を作り出すこと)は現時点では起こらない、夢物語であると述べています。
そこまでではないにしても、人間が不要になることはまずないと思っています。
会計や監査でいえば、異常値の感知はAIが得意なところかと思いますが、
それをどのように解釈して、伝え、必要に応じ指摘していくのかについては
結局人間の仕事になっていくと思います。
人工知能が監査意見を出すわけではないですからね(将来、もしかしたらそうなるかもしれないけど、最終責任は人間か、自然人によって構成される組織がそれを担うはず)。
上記で経営者とのディスカッションを重要な監査手続として位置付けているのは、結局発見した異常は経営者と共有し、指摘して修正を促していかなければ、ゴールを達成できないからかと思います。
さすがに人間しかできないですね。それは。
AIに職が脅かされるという話ばかりが独り歩きしている感じがしますが、
判断やコミュニケーションは人間がとっていくということは、疑いないところかと思います。
よく言われる話ですが、将来の変化をむやみに恐れるのではなく、変わらないものは何で、それに対して自分をどのようにアプローチ、成長させていくかについて時間を使った方が良さそうです。
会計人として、どのような能力を磨いていくか
ということで、今回は将来になっても変わらないものについて考えてみたいと思います。
対面でのコミュニケーション力
まずは、対面でのコミュニケーション力です。
例えば監査で指摘事項や発見事項があったとして、それを文書で送りつけてハイお終いというのは、現状の実務ではかなり限定されたケースになります。
人工知能は異常値を発見するのに優れるツールですので、指摘事項や話のネタの量産にはかなりの効果を発揮するでしょう。
しかし、それをどう伝えるか、あるいは、会社の責任者の納得感をどのように引き出すか、あるいは質問にどのように対応するかについては、対面で話をしないと会社も納得できないだろうし、なかなかAIに一任しづらいのでは無いでしょうか。
例えば、過去から会社と合意した会計処理について議論になった時があったとします。
この際、重要なのは会社の感情についても十分に想いを寄せることです。
喧嘩をしたいわけではないので、相手の立場になったときに、その指摘が会計士として適切なのかという点については、会社のキャラや傾向、担当者の変遷、時代や要求水準の変化など、考えるべきことが沢山あります。
会社に対する説明責任とも言えるかもしれません。
通常、そのような事項は、会計基準のようにこうだからこう、という単純なものではなくて、監査チーム内でよく話し合うべきものだし、会社にも誠意を持って伝えるべきものです。
こういう人間臭い業務に、実は多くの時間が割かれてるのではないかと思います。
これは、言うまでもないですが監査に限った話ではありません。
やりとりのベースは人と人とのコミュニケーションになるのではないかと思います。
その辺の捌き方が上手な人、すなわち会社の理解力と指摘力を備えている人は、これからの時代においても高いニーズがあるのではないでしょうか。
新しいものにチャレンジし、例外をおそれない力
次は、初見力です。
何か新しいものにチャレンジする力、例外事項であっても粘り強く対応する力です。
世の中は例外の塊といえるくらいエラーやリスクに満ち溢れていますが、
例外事項があると、それがたった一つであってもルーチンワークに大きく影響することがあります。
システムの処理や、RPAなんかでもそうですし、AIも例外ではないでしょう。はっきりいって過去の延長線上にないものは、AIも苦手だと思います。AIは思考しているわけではないためです。
新しい分野や既存の理屈では説明できない事項は、人が勇気を持って思考判断し、対応する必要があります。
会計で言えば、新たな取引に関する複雑な見積りや、既存の会計処理を変更したときの試算、税務における明確な規定や前例のない有税無税の判断などでしょうか。
ここで気をつけなければならないのは、法律でいうところの判例のように、過去の判断を比較してこれをヒントに結論を出すタイプの判断事項というのは、AIに代替される可能性があることです。
前例が無い若しくは乏しい事項は、このような過去の判断の延長線上からは少し離れたところにいるので、AIは苦手とするのではないかと思います。
考えてみれば、優秀な会計士は、他社事例を頼りにするのではなく、自分の頭で考えて判断する人が多かったと思います。
そのような、判断を他人に依存しない、確かな知識と論理的思考力、判断力を備えることに価値があるのは、これまでも、これからも変わらない事なのではないでしょうか。
そのような能力開発を目指すべきと考えれば、足元にある難しい会計処理の検討は、素晴らしい成長の機会ということになります。
人間力
最後に、人間力に触れておきます。
ここでの人間力というのは、あの人は性格が良いとか悪いとか、話しやすいとか話しにくいとか、話がわかるとかわからないとか、そういうことではありません。
ここでは、責任力のことを指します。
すなわち、業務に対して強い責任感をもち、自分の信念や考えを他者に説得、共感させる能力のことです。
人を動かす力とも言えるかもしれません。
人は、その人の言葉ではなく、その行動を見て信頼感を持ちますが、その根底にあるのが責任感だと思っています。
その人に責任感があるから、正しい業務を行うという行動につながり、出てくる言葉にも説得力が伴います。
会計というのは単なるツールに過ぎませんが、その使い方や判断を誤ると、多くの人が苦しい思いをする可能性があります。
それぞれ業務を担う立場は異なれど、責任感を持って数字を作る、責任感を持って数字をチェックする、責任感をもって説明=アカウンティングをするという所作ができるかどうかというのが、プロとしてとても大切な気がします。
それとは少し逸れるかもしれませんが、悪いと思ったら詫びる、正しいと思ったら正しく主張する、困っていたら出来るだけ力になってあげる、相手の立場になってモノを言うといった、人間臭さのところで、これからは差がついていくのではないかなあと思ってます。