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はじめに
新聞紙上なんかで会計士が話題にされることも多い昨今、社会やクライアントに対する責任の重さがのしかかる反面、その責任の達成に向けて情熱を燃やしている会計士の方も多くいらっしゃるのではないかと思います。
私もその一人です。
自分にできることは、すべてやっていこうと思っています。
しかしその情熱とは裏腹に、新聞紙上で書かれる会計士に関する内容と言えば、いわゆる「悪口」が多い気がしてなりません。
これは良い風に解釈すれば、世の中からの期待の裏返しであるとも理解できますが、
いずれにしても会計士は自らを鍛え上げていき、世の中に貢献することが期待されています。
今更言うのも何ですが、完全な実力社会です。
では、そのような社会の期待に応えられる実力を身につけるには、どうしたらいいでしょうか?
その答えは、実は各会計士によって異なります。
なぜなら、会計士の戦うフィールドはむちゃくちゃ広く、「やれること」が極めて多岐にわたるためです。
どこで勝負をするのかによって、身につけるべき実力は変わるのです。
ただ、ここではそれを言っていたら筆が進みませんので、
私がこれまでの10年以上の会計士ライフで感じた、厳選した「3つの身につけるべき素養」について筆をとらせていただきます。こんなものは、数え始めれば10個も20個もありますが、私は項目数が多いのが好きでは無いので、あえて厳選します。
この記事が、これからこの業界に入ってくる、あるいは入ってきたばかりの若い会計士の卵の方に届き、その血と肉になればとてもうれしく思います。
頑張っていきましょう!
①自分の意見・見解を持つ
これが最重要です。
世のプロフェッショナルと言われる人々は、皆この気概を持って業務をこなしていることに気付いて下さい。
わからないこと・悩ましいことだらけ
昨今の高度に複雑化した社会においては、知らないこと・わからないことだらけです。
どんどん新しい技術やビジネスが出現しては消えゆき、法や制度も複雑化していきます。
例えば最近では仮想通貨なんかが挙げられると思います(基準化される前の混沌状態を思い出して下さい)。
会計はビジネスや経済の実態を反映するための道具ですから、おおもとが変われば会計も変わっていく必要があります。
そのため、会計はビジネスの後追いでキャッチアップしていく関係にあることが多く、実務では必ずしも会計基準や適用指針で記載された事項ばかりが出てくるわけではありません。
むしろ実務の世界では基準に書いていない事象だらけです。
というか、新しい技術やビジネスが出てこなかったとしても、例外的な処理や判断に迷う事象が多々発生するものです。
制度やルールが日々変わっていく
また、我々の業界ではJ-SOXのように制度が大きく変わったことによる対応を迫られることも多いです。
例えば監査であれば昔は精査をしていたけど、取引の複雑化でリスク・アプローチという考え方や取り組みが理にかなうようになった。内部統制を利用するというロジック、内部統制自体を監査するという制度も出現した。
しかしこれからはAIの時代ですから、監査のアプローチもAIを利用することを前提としたものに変化していくと予想されます。
そうなると、リスクアプローチの具体的手法も変わらざるを得ません。
会社の経理方法も、昔はすべて紙でやっていました。
それがいつしかPCを利用するようになり、これからはRPAやAIを利用していくフェーズになります。
変化への対応の必要性と解決策
このような「変化」に対応すべく、クライアントは日々悩んでいます。
我々会計士は、クライアントのこれらの変化によって生じる悩みに対して、ダメなことはダメと言いつつ、解決策を助言していく立場にあります。
それは、意見・考え方をアウトプットするということです。
何事もそうですが、判断する事象というのは、解釈がわかれます。
選択肢はいろいろあるでしょう。Aでいくべきか。Bでいくべきか。あるいはCでいくべきか。
会計でいえば、基準にはっきり書いていないけど、AからC案、どれかで処理する必要があります。
どれかしか無い。選択するしかないことが多いです。
その中で、基準やルールの根底にある考え方に沿って、結論を出す必要があります。
ここでは「結論と論理を結ぶ筋道を自分なりの解釈で導き出すこと」=「自分の意見を持つこと」と定義してよろしいと思います。
財務会計に関連した話で、この意見を導くためには、会計基準がどのような理屈で作成されているかを理解する必要があります。
この理解のためには、(人によりますが)時間をかけて努力することが必要になります。
受験生からシニアクラスまでであれば、実務指針や専門学校のテキストに書いてあることや、インターネットで入手できる情報など、基本的な情報で解決できる問題が降りかかってくることと思います。
実はこれが結構難しいところもありますので、修了考査の勉強も兼ねて、これはこれで真剣に勉強する必要があります。
さらに、マネジャーなどそれ以上の職位になると、ビジネスの理解が必要になってきます。
ビジネスの理解というのは、経済合理性という言葉でも表現されることもありますが、クライアントがその取引をなぜ、どのように、誰と、何を目指して実行しているか・意思決定しているかということを理解するということです。
法規制の理解や、そのクライアントが置かれている背景、取締役会などボードの考えていること・経営ビジョン、これらすべてを理解して咀嚼していく必要があるのではないかと思います。
そのうえで、合理性が伴わない取引については、徹底的に会社とディスカッションする必要があるでしょう。
ただし、別にクライアントとケンカをしたいわけではありませんし、する必要はありません。
そして、難しく考える必要はありません。
「なぜそうなるのですか」という基本的な質問を考えていけば、大きな筋道は見えてきます。
臆すること無く、かつ自惚れること無く、知識と論理力をバランス良く身につけていきましょう。それをアウトプットすることで上司先輩やクライアントからもフィードバックがかえってきて、その結果として知恵がついていきます。
結局、「勉強しなさい」としか言っていませんが、勉強して適切にアウトプットしないと市場に対してバリューを出せないことが多いのも事実です。
知識や経験で飯を食わせていただいているわけですから、当然かもしれませんが・・・。
②責任感を持つ
「この人、すごいなあ」と思う人がいます。
会計士業界でも、必ずいます。
それは、知識の量やスキル、あるいは頭のキレ・回転の早さであったりもしますが、
何より尊敬する人に共通するのが、「責任感の強さ」です。
監査基準では、職業的懐疑心というものがあります。
これは、プロとして保持すべき健全に疑う心であるといわれますが、
個人的にそれと同じくらい重要と思うものがこの「責任感」になります。
例えば、業務のクオリティです。
顧客が望むもの、あるいはそれ以上のものを提供することに対して、どれくらいコミットしているか。最終成果物から逆算すると、すごく工程が辛いプロセスになることもあります。
あるいは監査であれば、”資本市場の番人”として、適切な根拠に基づいて顧客を説得できているか。作成すべきドキュメントを作成しているか。発見すべき事象をすべて発見し、顧客にフィードバックしているか。
責任感の高い人物は、これらの要求事項に対して非常に合理的かつストイックに任務遂行していきます。
別に誰も遅くまで仕事をしたいと思っていません。
でも、達成するべきクオリティを超えるのに時間がかかるのであれば、遅くまで仕事をすることもあると思います。
最近は、時代の流れ的に残業を減らさなければならない風潮がありますが、これが会計士の責任感を崩壊させるものであってはなりません。
働き方改革が難しいのは、業務のクオリティを下げてはいけないし、責任感をなくしてはならない部分があるからです。
責任感から生じるバリューは多いと思います。責任感がパワーを、やる気を、巻き込む力を、行動を生んでいます。
あなたは、何に対して責任感をもって生きますか?
あるいは、周囲の人物は何に対して責任感をもっていますか?
プロフェッショナルとして行動していれば、きっとその答えが見つかる日が来ます。
是非積極的にトライし、あなたなりの答えを見つけてください。
③見直す・考え抜く⇒気付く
具体的な行動の話になります。
例えば、監査であればクライアントの会計処理誤りを見つけるという重要なタスクがあります。
監査手続は、虚偽表示の発見のために行われるためです。
そしてこれは、実は顧客からの要求事項でもあるのです。
クライアントも、間違ったものは世に出したくありません。誰かにチェックしてほしいのです。
どうかこのニーズに気付いてください(私自身、クライアントの立場で仕事をしたことがあるので、これは基本的には間違いないと思っています)。
監査人の実務面での最も重要なタスクは、この誤りを発見するという作業になります。
この誤りを見つけるために、監査人はあらゆる手続を経ます。
証憑との突合、増減などの分析、質問による矛盾把握・・・。
状況によって違いはあるでしょうけど、基本的にはこれらの組み合わせでしょう。
しかしここで重要なポイントがあります。
それが、「見直す」・「考え抜く」ということです。
見直す
「見直す」というのは、いったんやった作業を見直してみるということ。
監査では、「査閲」という方法により行われることが多いでしょう。レビューというやつです。
作業内容のレビューは非常に重要です。
上司がレビューレビュー五月蠅く言うことも多いと思いますが、それはレビューが重要だからです。
見直すことで、実はおかしいってことが見つかることがとても多いのです。
ただ今は人手不足。マネジャーも忙しい。査閲を適時に受けられないとかいうことも多いと思います。
そんな場合、自分で見直すこと=セルフレビューを是非やってみてください。
そのための時間を取ってください。取れなくても取る努力をしてみてください。
別の視点で見るように心がけましょう。
例えば監査手続としてクライアントの計算の後追いをやっただけの手続では、リスクにもよりますが不十分なこともあると思います。この場合、増減分析をやって理由を腹落ちするまで突き詰める必要があるでしょう。あるいはその逆、単になんとなく増減を分析するだけでは不十分なことも多いです。その場合、たとえば代表的なサンプルに対して証憑突合をやってみる必要があるのかもしれません。
何をどうやるかについては、リスクに対する判断や監査基準や事務所の細かいルール、期中に時間をかけて考えたチームの方針があろうかとは思いますが、現場で手続をするのは皆さんです。皆さんが虚偽表示を発見するために適切だと判断する手続は何でしょうか。自分の頭で考えてこのような問いに回答できることは重要であると思います。決してチームの方針等に従うなと言っているのではありません。最初は言われたことをこなすことが重要ですが、どうせ考えられるようにならないといけないなら、早めに自分の頭で考えたほうが成長は早いと思います。
話は戻りますが、レビューです。上司がいないなら同期や部下と相談するとかでもいいです。
もしやった手続によっても誤りが見つけられなかった場合、クライアントが後から間違いに気づくかもしれません。もっと悪いケースでは、間違ったまま世に出てしまいます。
この事象を避けるためにできることがあれば、すべてやりましょう。その最たるものが、セルフレビューということを言いたいです(セルフレビューのコツについては、またどこかで筆をとりたいと思います)。
考え抜く
もう一つ、考え抜くこと。
これは主査クラス以上で求められることになると思いますが、「本当にこれでいいのか」ということを、常に考えましょうということです。
主査以上ともなれば、自分の判断で物事を動かす必要がある局面が増えるためです。
些末な事象であるほど、自分の判断が最後の砦になります。
最初Aだと思っていたけど、実はBだったということが無いように、あるいは実はBであっても取り返しがきくうちにBであると訂正できるように、常に自分の考えが正しいのか、考えるくせをつけていく必要があると思います。
一番怖いのは、思い込みとか過信の類です。大丈夫だと思ってたけど、基準とか読んでみたら違ってた、あるいはトーンとか趣旨が違ってたということはよく聞く話です。
不安なら人に聞けばいいのですが、
その他人に聞く行動を発生させる源として、「考え抜く」ことを実践してみてください。
自身がないことほど、です。
考える時間は捻出できるはずです。忙しくてなかなか時間は取れないと思いますが、そう信じましょう。最後の最後まで、考え抜いていきましょう。
今になっても、これは難しいことだと思います。けど、最後の最後までやりきって、それでおかしい点に気付いたということが経験上何度もありました。なので、私としては考えることを繰り返すことは必要なことではないかと思います。
なおうまい人は、自分で考えるだけでなく、情報を同期や先輩等からよく引き出します。
同じような論点で悩んでいる人がいれば、シェアすればいいのです。もしかしたら他人はうまく解決しているかもしれません。これはコミュニケーション能力ってやつです。
変なプライドのせいか、人に聞けない人がたまに居ますが、それは損だと思います。損というか、自己中心的で部分最適になってしまっていませんでしょうか。クライアントの便益も含めてトータルで得になればOKなのです。視野を広げて、自分の目的・やるべきことを正しく把握しましょう。いくらでも自分を変えられます。コントロールできます。
また、繰り返しているとだんだんコツがわかってきますので、最初は考えることで時間がかかっていたことでもスピードアップしていきます。
まとめ
会計士はまじめで、良い意味でもプライドや向上心が高い人が多いです。
努力家なので、基準等もよく学習しています。
しかし能力や成長速度は人それぞれですし、書物では得られないノウハウやコツというものがあります。
できる範囲でそのようなものを伝授していけたら、と個人的には思います。
自分の知っていることなど、たいしたものではありませんが、それでも経験して感じたこと、失敗したことはこのブログを通じてでもシェアしていけたらなあと思います。
ここに記載した3つ以外にも、沢山のTIPSがあります。
人気があれば、シリーズ化、あるいはもっと深く掘り下げていきたいと思います。
今回も読むのに時間をつかっていただいてありがとうございました。