18年6月までの1年間に監査法人を変更した上場企業数は116社と3年連続で100社を上回ったとのこと。
日経新聞より。
結論だけ報道するとこういう感じにはなりますね。
背景について個人的に思うところを書きます。
まず、上場企業は、それが超ビッグな企業でも、そうでない企業でも、大きな不正や誤謬はありませんと言い張れるくらいの管理体制を整えている必要があります。
投資家に正しい情報を提供する観点からは、会社の規模とか体制の整えやすさとか、関係ないからです。
平等の厳密度で、制度対応が求められます。
しかし、大企業には高額な監査報酬や優秀な経理マンを雇うための資金的な余裕があっても、中小規模の上場会社にはそのような余裕が無いことが少なくありません。
何とか制度対応している状態です。
ここに、さらに監査が厳しくなるという時勢が追い打ちをかけます。
制度対応の度合いも、より厳密なものを求められるようになります。
そうすると、もう中小の上場会社では、どうにもこうにもついて行けません。
監査法人は何やらアカデミックな能書きだけを垂れるようになり(というか、独立性を守らなければならないのでそもそも細かな実務アドバイスまではできない)、
もはや制度対応は、経理部にとって、それがどこまで経営に必要なものかわからないくらい、混沌化しています。
特にビッグ4と呼ばれる大手の監査における要求水準はかなりのものになってきています。
中小の監査法人なら、より柔軟な監査をしてくれる、より親身になって相談に乗ってくれる・・・、
そういうニーズの現れが、この記事にある交代劇を生み出しているのかもしれません(もちろん、会計処理を巡って見解の相違など、いろいろな事情は考えられます)。
これを逆の立場から見ると、監査法人としても、手のかかる、採算性の悪い、リスクの高いクライアントは、あまり担当したくないというのが本音でしょう。
双方のニーズの一致により、中小の監査法人移行が加速しているのではないでしょうか。
この状況の何が危ないかというと、リスクの高い仕事を引き受けすぎた中小の監査法人の監査品質が低下することです。人手の不足もあり、どうしても監査品質が損なわれるのではないかという懸念です。
それで、金融庁が目を光らせているというわけです。
粉飾事件が多発すると、金融庁の責任問題にもなりかねないのです。
ところで、この一連のお話の根本になっている問題があります。
それは、会計士の現場対応能力に限界が見え始めている点です。
膨大なチェックリストや監督機関に対する提出書類の対応を必要とされる一方、
実質的な監査の時間をどれだけ増やせているのか。
気づくべき誤謬や不正に、タイムリーに気づききれているか。
クライアントに粘り強く指導して、正しく導けているか。
そしてこれらを実行できている会計士が、社内外から正しく評価されているか。
若手のプロフェッショナルを正しく育成する仕組みが不足している気がしています。
そして、制度対応のための、適切な量の検討時間の確保が必要だと思います。
1人何社も担当して、あれもこれもできるわけがないです。できたとしても、いずれ綻びが出てしまいます。