Contents
記述情報とは?
金融庁HPにて、平成30年6月公表の「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を踏まえた、記述情報の充実に向けた取組みに関する情報のサマリーを閲覧することができます。
「何だか急によくわからんものが公表されているな・・・また仕事が増えるのか・・」
と思われた有価証券報告書作成ご担当の方もいらっしゃるかもしれません。
私も最初そのように思ったところがありました。
しかし、記述情報の充実に関する公表資料は、今後の企業開示実務をどのようにこなしていくべきかを考えた際に、重要なヒントであふれていると感じました。
ということで今回は、記述情報の開示に関する原則の中身を、簡単にみていきたいと思います。
記述情報の開示に関する原則
記述情報とは(定義)
「記述情報(非財務情報)」とは、開示書類において提供される情報のうち、財務情報以外の情報を指す(一般論としての定義)。(参照:金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告)
言い換えれば、「記述情報」は、一般に、法定開示書類において提供される情報のうち、金融商品取引法第 193 条の2が規定する「財務計算に関する書類」において提供される財務情報以外の情報を指す(参照:記述情報の開示に関する原則)。 |
要するに財務情報以外の、文章とか図で表現される定性的な情報も含めた情報という整理かと。
記述情報は、財務情報を補完し、投資家による適切な投資判断を可能とする。また、記述情報が開示されることにより、投資家と企業との建設的な対話が促進され、企業の経営の質を高めることができる。このため、記述情報の開示は、企業が持続的に企業価値を向上させる観点からも重要である(記述情報の開示に関する原則1-1より)。 |
建設的な会話を促進というのは、事実や判断、分析を客観的かつ論理的に行うことで、企業と投資家双方が意味のある行動を取れるようになっていくことを促進するのを意図しているのではないでしょうか。
「誤解」を防ぐことで、適切な株価が醸成され、これが企業価値につながるっていくというロジックと理解しています。
実際、これまでの有報の記述内容というのは、確かに通り一辺倒であたりさわりのない文章で表現する、「やらされ開示」であった部分はあると思います。
良いか悪いかは別にして、これは正直、あったかと思います。
時代背景、あるいはコストベネフィットの観点からすると、やらされ開示はむしろある意味合理的だったとは思いますが。
しかしながら金融庁は、このような「やらされ開示」を、「やる開示」へシフトさせ、有報の記載情報を意味のあるものにチェンジさせていこうとしているのだと思われます。
以下、引用部分はボックス表示し、下線は当方で加筆しています。
Ⅰ.総論
2-1. 記述情報は、投資家が経営者の目線で企業を理解することが可能となるように、取締役会や経営会議における議論を反映することが求められる。
この実現のために、記述情報の開示に関する原則では、①開示についての方針を早めに決めること、②関係部署が適切に連携し得る体制を構築することが必要であろうとされています。
上場会社の経営者は、これまで以上に目線を高め、投資家目線で情報発信していく必要がありますね。
2-2. 記述情報の開示については、各企業において、重要性(マテリアリティ)という評価軸を持つことが求められる。
投資家の投資判断における重要性は、企業の業態や企業が置かれた時々の経営環境等によって様々であると考えられる。 このため、記述情報の開示に当たっては、各企業において、個々の課題、事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性(マテリアリティ)に応じて、各課題、事象等についての説明の順序、濃淡等を判断することが求められる。 |
投資家に出す情報として本筋ではない話は、書かないことが大切かと思います。
下手をすると全部重要になってしまいます。そうなると重要な情報とそうでもない情報が混在し、情報の受け手が混乱します。
これは言うは易しなのですが、実際は都度判断していくしかないと思います。
内部監査や監査法人(KAMを想定)の重要性も意識せざるを得ないと思います。
2-3. 記述情報は、投資家に対して企業全体を経営者の目線で理解し得る情報を提供するために、適切な区分で開示することが求められる。
これまで以上にセグメントごとの情報を意識する必要がありそうです。
2-4. 記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、分かりやすく記載することが期待される。
・図表、グラフ、写真等を効果的に使えば、確かにわかりやすくなります。「記述情報の開示の好事例集」をみれば、金融庁がどのようなものを求めているかがわかります。
・第三者が作成した図表、グラフ、写真等を用いる場合には、その出典も併せて記載
・適切な見出しや表題を付すことや、関連する情報を整理して記載 ・セグメント情報や KPI 等といった過去の開示内容と比較する上で継続性が重要な事項について変更が生じた場合には、変更内容を記載した上で、変更の影響についての説明を記載 |
各論
1-1. 経営方針・経営戦略等
経営方針・経営戦略等の記載においては、経営環境(例えば、企業構造、事業を行う市場の状況、競合他社との競争優位性、主要製品・サービスの内容、顧客基盤、販売網等)についての経営者の認識の説明を含め、企業の事業の内容と関連付けて記載することが求められている。
セグメントの記載に当たっては、各セグメントにおける具体的な方策の遂行に向け、資金を含めた経営資源がどのように配分・投入されるかを明らかにすることが望ましい。 |
1-2. 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題の開示においては、その内容・対処方針等を経営方針・経営戦略等と関連付けて具体的に記載する。
課題の重要性を明らかにするため、経営方針・経営戦略等との関連性の程度や、重要性の判断等を踏まえて記載する |
1-3. 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等(KPI)
客観的な指標等(KPI)には、ROE、ROIC などの財務上の指標(いわゆる財務 KPI)のほか、契約率等の非財務指標(いわゆる非財務 KPI)も含まれる。
開示に当たっては、企業は経営方針・経営戦略等に応じて設定している KPI を開示に適切に反映する。 KPI を設定している場合には、その内容として、目標の達成度合いを測定する指標、算出方法、なぜその指標を利用するのかについて説明することが考えられる。 合理的な検討を踏まえて設定された経営計画等の具体的な目標数値を記載する場合には、有価証券報告書提出日現在において予測できる事情等を基礎とした合理的な判断に基づくものを記載すべき |
2. 事業等のリスク
一般的なリスクの羅列ではなく、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を具体的に記載することが求められる。
その際、取締役会や経営会議において、そのリスクが企業の将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性に応じて、それぞれのリスクの重要性(マテリアリティ)をどのように判断しているかについて、投資家が理解できるような説明をすることが期待される。 |
3. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(Management Discussion and Analysis、いわゆる MD&A)
(過去の振り返り)
結果である当期の経営成績等の状況について、経営者の視点による振り返りを行い、経営成績等の増減要因等についての分析・検討内容を説明する (過去から未来へ) MD&A の開示により、投資家は、企業が策定した経営方針・経営戦略等の適切性を確認することや、経営者が認識している足許の傾向を踏まえ、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが可能となる。 MD&A は、財務情報の単なる記述的記載ではない。認識している重要な傾向、事象、需要、コミットメントや不確実性を分析するとともに、それらの理由、影響、関連性、重要性等を説明すべき 例えば、前期と比較して、売上高が減少した場合、MD&A において、なぜ売上高が減少したかを分析すべきである。その分析においては、例えば、製造過程の問題や、商品の質の低下、競争力や市場シェアの喪失など、背景にある原因を明らかにすべきである。同様に、重要な事業再編や減損の影響や、工場等の収益性の低下が財務諸表に表れている場合、MD&A において、例えば、想定していた規模の経済が実現できなかったこと、主要な顧客との契約を維持できなかったこと、設備の老朽化により稼働率が落ちたことなど、背景にある理由を分析すべきである。 |
→増減分析について記載があって、こちらが本当に重要だと感じます。
監査で行われる増減分析は、財務諸表の正しさを確認するためのものなのですが、例えば売上や仕入、棚卸資産などのビジネスの根幹に関する勘定科目については増減理由を個別に質問しても、いまいちピンとこないこともあります。
それは一般的に、監査人のビジネスの理解が不足していること、企業側の分析や説明が十分でないことによります。
背景にある理由は、これも言うが易しで多種多様にわたることも多いですが、「必ず原因があったうえで結果(数字)が出ている」ことは間違いありません。
この情報整理・分析力は、今後の会計界においても非常に重要なスキルなのではないかと思います。
特に企業側や作成者側では、時間もないから「数字を作って終わり」ということが多い。
これでは不十分です。必ず増減分析などをかませて、全体を俯瞰しながら矛盾がないか確認する必要があります。
3-2. キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
経営方針・経営戦略等を遂行するに当たって必要な資金需要や、それを賄う資金調達方法、さらには株主還元を含め、経営者としての認識を適切に説明することが重要である。
資金需要の動向に関する経営者の認識の説明に当たっては、企業が得た資金をどのように成長投資、手許資金、株主還元に振り分けるかについて、経営者の考え方を記載することが有用 成長投資への支出については、経営方針・経営戦略等と関連付けて、設備投資や研究開発費を含めて、説明することが望ましい。 株主還元への支出については、目標とする水準が設定されている場合にはそれも含め、考え方を説明することが望ましい。その際、配当政策など、他の関連する開示項目と関連付けて説明することが望ましい。 緊急の資金需要のために保有する金額の水準(例えば、月商○か月分など)とその考え方を明示するなど、現金及び現金同等物の保有の必要性について投資家が理解できる適切な説明をすることが望ましい。 銀行借入、社債発行や株式発行等による調達が必要なのかを具体的に記載することが考えられる。また、資金調達についての方針(例えば、DE レシオを定めている場合には、併せて記載する キャッシュ・フローの状況等の説明については、企業において様々なアプローチが考えられるが、例えば、貸借対照表を踏まえた記載 |
3-3. 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、それらと実績との差異などにより、企業の業績に予期せぬ影響を与えるリスクがある。会計基準における見積り要素の増大が指摘される中、企業の業績に予期せぬ影響が発生することを減らすため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定について、充実した開示が行われることが求められる。
経営者がどのような前提を置いているかということは、経営判断に直結する事柄と考えられるため、重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、経営者が関与して開示することが重要 |
こちらはIFRSでは開示するところですので、IFRS開示適用企業の開示を参考情報とできます。
記述情報の開示の好事例集
こちらは数も多いので詳細は割愛しますが、上記”原則”だけ見ていても、結局文字だけでよくわかりません。
具体的な開示例(ベストプラクティス)を国が率先して選んでいますので、是非確認するようにいたしましょう。
金融庁がどういう感じの開示にしてほしいのか、見ればよくわかります。