企業結合(のれんの償却等)に関するDP

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いわゆる、のれん償却等に関するDPが公表

国際会計基準審議会(当審議会)は、2020年3月、企業が事業の取得に関して、改善に関するディスカッション・ペーパー(DP)を公表しました。

いわゆる、のれんを償却アプローチを再度採用するのか、あるいは現在の減損アプローチを維持するのか、

この決定は、企業結合の会計処理だけの問題ではなく、企業のビジネスの実行そのものにインパクトを与える事項であるため、多くの方が関心を寄せています。私もその一人です。

のれんの償却の要否について気がとられてしまっていたのですが、DPを読んでみると、いろいろと気になることが記載されていました。

結構本質的なことも書かれていて、勉強になります。

ちなみにこのDPの概要(全体感)は、こちらのスナップショットを参照いただけると、全体感がよくわかると思います。

 

結局、のれんの会計処理はどうなりそう?

現行の減損テストの枠組みでは、減損損失の認識が「少なすぎる、遅すぎる(too little, too late)」ことがとにかく問題でした。

経済危機が発生した場合(まさに今、ウイルスによる恐慌が懸念されている状態です)に、いきなり巨額の減損が発生する場合、会計基準としてどうなのかという信頼性の問題が懸念されるということです(基準設定主体が責任を負いたくないという話?!)。

そんなわけで減損アプローチを改良しようとに現行基準にいろいろ手を加えようとした(ヘッドルーム・アプローチ)のですが、コストの面からしても正直限界があって、それでのれんの償却モデルが注目されていたという状況です。

結論

で、結局IASBボードが出した暫定結論は何なのか。

In the Board’s preliminary view, the impairment‑only model should be retained. In the view of the majority of Board members there is no compelling evidence that amortising goodwill would result in a significant improvement in financial reporting.

ボードのメンバーの中では、減損のみのモデルが維持されるべきであるという暫定結論のようです。

理由は、償却モデルを採用したからといって、財務報告が大きく改善されるわけではないため。

具体的には、usuful life(償却年数)を見積もるのが難しいとのことです。

ステークホルダーの意見

ボードメンバーだけではなく、議論をするうえでステークホルダーからも意見聴取しています。

以下のように償却説、減損説、それぞれの根拠があります(DP3.88など参照)。

要旨 償却必要説 減損のみ説
償却費用のシンプルさ のれんは巨額になりすぎている。償却費は、取得したのれんに対して直接的にシンプルな情報提供ができる。 確かに償却はシンプルだが、償却費は(耐用年数が恣意的で)独善的な数値であり、多くの投資家や企業から無視され、業績指標から除外される。
減損テストが機能している? 減損テストはBoardが意図したように機能しておらず、のれんの価値が下落したときに常に減損されない 適切に適用されさえすれば、減損はBoardの意図したとおりに機能され、のれん等の過大計上にはならない。
のれんの価値は下落するのか? のれんは価値が下落する資産であり、便益が消費されるとともに減少する。償却は、このようなのれんの消費を示す唯一の方法である のれんは価値が下落する資産ではない。便益は無期限で維持される。
減損テストのコスト のれんの償却は最終的には減損テストを簡便化し、減損の頻度も下げるため、コストがかからない。 償却しても、特に買収後最初の数年間は減損のコストは大きく減少しない。

のれんの議論は昔からありますが、相変わらず議論がかみ合っていない。

個人的に、特に3つ目が重要かと思っていまして、のれんの価値が下落しないという考え方は難しいのではないかと思います。技術やビジネスの前提が目まぐるしく変化する世の中なので、価値が保たれているという前提の説明が非常に難しいのではないでしょうか。それこそその前提に対するエビデンスが必要ですが、一体誰がタイムリーにコストをかけすぎることなく準備できるのでしょうか。

暫定的な結論として減損のみアプローチが維持された点も含めて、個人的にこの論争で感じるのは、

結局政治で決まるのではないかということ。

 

本音は何だ!?

ところで、こういった類の開示資料は、もしかしたら本音が語られていないリスクがあります。

難しいことを、難しい言葉で説明している場合というのは、えてして本質が覆い隠されていたりします。

そこで、私がもし議論の当事者だったらと仮定して、本音ベースの償却説、減損説、それぞれの根拠を以下のように妄想してみました。

(これはあくまで個人の妄想であって何の根拠も無い点、ご了承いただきたいと思います)

要旨 償却必要説 減損のみ説
減損テストのコスト (企業)減損テストは外部に委託するといちいち価格が高すぎるし、時間がかかる。毎年いくらを会計士に支払えばいいのか。

*参考:FASBコメント募集「識別可能な無形資産及びのれんの事後の会計処理」

(会計士)会計はある程度複雑にしていかないと儲からない。

価値評価業務は、特にリカーリングで儲かる。

のれんの価値は下落するのか? (日本などの学者)減価しないことは考えられないので、償却しないという考え方は到底受け入れられない。

というか、正直言ってのれんは実際は単なる差額でしかなく、資産として考えること自体、怪しい。

(経営者・ファンド)のれんは価値が消耗される資産であることは認める。

ただ、償却されると、買収後のパフォーマンスの説明が厳しくなる。投資家がPLから影響除外してみてもらうのは構わないけど、PLが大きく痛むのは何かと都合が悪い。リスクを取った買収もできない。

ファンドの立場から言わせれば、IPOは、PLからのれん償却費を排除できるからこそ高値がつく。

また償却に振り戻すことの影響 実態により適合した処理をするわけだから、仕方ない。

減損モデル導入時の検討も甘かったのではないか。

(経営者)過去の判断の否定などできないし、企業に顔向けできない
金融危機時 現在の資本主義を前提とすると、膨れ上がった株価というのは、そもそもフェイクマネーであり、いつか必ずバブルがはじけることになる。もしくはそれを繰り返す。

それを誰もが分かっているならば、金融危機時にまんまと吐き出した巨額の減損発生の責任は、会計基準設定主体にあると言われてもおかしくないのではないか。

正直そんな責任は負いたくないし、負えたものではない

*参考:第 411 回企業会計基準委員会資料

そのとおりだが、減損モデル自体が悪いわけではない。というか、減損テストを正しく実行していれば問題ない。

明確な手続きを経て基準化しているわけだから、責任を問われる筋合いはない。

 

企業結合の事後成果の開示(DP2.1-2.9)

のれんの償却にばかり目がいってしまいましたが、個人的にはこの注記には注目しています。

これは、買収後のパフォーマンスについて、投資家への情報提供が不十分であると考えられることから、新設が予定されている注記です。

現行の注記で不十分と考えられている点です。

  • 現行IFRS3の開示では、企業結合による収益や損益について開示されているが、それが経営者の要求水準を満たすものなのかどうかわからない
  • 減損損失が発生しないからといって企業結合が成功しているとは限らない。逆に、減損が外部市場要因で発生するような場合には、企業結合の失敗を意味するとは限らない
  • セグメントは個々の企業結合より大きい単位となる傾向があり、また取得した事業は複数セグメントにまたがることがあるため、ビジネスのどの部分がそれぞれのセグに紐づくか、投資家視点でわかりにくいことがある

これを踏まえて、以下の4つの観点から暫定結論を検討したそうです。

# 疑問 暫定的結論
1 企業結合の目的について、どんな情報が提供されるべきか?
  • 戦略的な根拠(全体の経営戦略との関係性)
  • 取得日における買収目的
2 企業結合目的が達成されたかどうか示すために、何が開示されるべきか? マネジメントアプローチに基づく、何らかの測定基準(metrics)
3 企業は、すべての重要な企業結合についてこれらの情報を開示するべきか? マネジメントが実際にモニターしているものに限定する
4 企業は、どの程度の期間にわたってこれらの情報を提供するべきか? 事業セグメントの最高意思決定者が企業結合の目的達成をモニターしている期間

この注記って、結構本質的だと思いました。

むしろいままで何故なかったのかとさえ思います。

企業によっては、注記というよりはむしろIRで語ってきたことなのかもしれません。

減損はしていないけど、この事業どうなんだという投資家の懐疑心、

減損はしているけど、本質的な理由でないのではないかという投資家の判断をかきたてるのが趣旨だと理解しました。