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資産除去債務 履行差額が出るときに気を付けたいポイント(勘定科目等)
今回は、資産除去債務のラストシーン、その支出時・認識中止時について取り上げます。
勘定科目
会計基準適用指針の設例に「費用(履行差額)」という文言があります。
しかし、実際にはどのような勘定科目で開示したらよいでしょうか。
一言に勘定科目と言っても、場合分けができてしまいますので、それぞれのケースについてみてみます。
借方
まずは、履行差額が借方に発生する場合です。
仕訳でいうと、以下のような場合です。言い換えると、この150をどのような科目で処理するかです。
(借) | 資産除去債務 費用(履行差額) |
1,000 150 |
(貸) | 現金預金 | 1,150 |
通常、勘定科目を調べる場合は、金融庁が公表しているタクソノミを参考にしますが、残念ながら履行差額に直接該当する科目名はありません。
事例ベースで調べたところ、以下のような科目が使用されていました。
この科目名は、見ただけで取引内容が理解できるため、個人的には良い名称だと思います。
ただし、当該科目は、事例の数としてはそれほど多くはHITしませんでした。
理由については、以下のようなものが推測されます。
- 別の科目で区分掲記されている
- 「その他」で処理されている
①については、たとえば「本社移転費用」として処理されているかもしれません。本社の賃借物件から退去した際に発生した履行差額損失で、特段巨額でもなければ、あり得る処理です。
この場合、資産除去債務履行差額という名称で独立して記載する場合にくらべて、そもそも何に関連して発生したのかがよくわかるというメリットがあります。利用者が、除去債務の見積の精緻さにそこまで興味がない場合は、なおさらです。
②については、資産除去債務履行差額の重要性が乏しい場合にあり得ます。
日本基準では、これに加えて段階損益(営業外損益にするか、特別損益にするかなど)についても検討が必要な場合がありますが、それは後述します。
貸方
一方、貸方に履行差額が発生する場合の事例科目は、どうすればいいでしょうか。
以下のような仕訳の場合です。
(借) | 資産除去債務 | 1,000 | (貸) | 現金預金 利益(履行差額) |
950 50 |
事例を調べたとこと、まず以下がありました。
段階損益をどうするか
理論と考え方(should be)
資産除去債務の会計基準において、段階損益をどのようにするかについて検討されていますので、以下引用します。
(損益計算書上の表示:資産除去債務の履行時に認識される差額)
56.資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務計上額と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額の損益計算書上の区分について、営業費用又は特別損益(又は営業外損益)のいずれに含めるか検討を行った。当該差額は、固定資産除却損と同様、営業費用に含めて処理するのは適切ではなく、また、過年度における見積りの誤差部分も多く含まれていることから、特別損益又は営業外損益として処理すべきであるとの見方もあった。57.しかしながら、除去費用の総額が固定資産の利用期間にわたって配分され、将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合には資産除去債務の計上額が見直されることを前提とすれば、資産除去債務の履行時に認識される差額についても、固定資産の取得原価に含められて減価償却を通じて費用処理された除去費用と異なる性格を有するものではないといえる。
58.そのため、本会計基準では、資産除去債務計上額と実際の支出額との差額は、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することを原則とした(第15項参照)。
なお、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合等、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理することに留意する。
ここの理解については多少解説が必要です。
まず、56項で言っているのは、どちらかというと伝統的な会計の見方です。
見積差額(例えば、過年度における引当金過不足による前期損益修正額など)については、本来は前期までの損益だったけど、前期までの損益は修正できないので、特別損益で処理するというのが旧来の企業会計原則の考え方でした(企業会計原則注解(注12))。
この考えによれば、見積の塊である資産除去債務についての見積計上額と確定額の差額(履行差額)は、特別損益で処理しましょうという発想になります。
ところが時代は変わり、現代ではこのような前期損益修正について、特有の会計基準が整備されています。
企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」および企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」がそれです。
この会計基準によれば、状況の変化により会計上の見積りの変更を行ったときの差額や、実績が確定したときの見積金額との差額については、変更のあった期や実績が確定した期の損益として、その性質により営業損益または営業外損益として認識するとされています(会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準55項)。
この趣旨を暗に説明しているのが、上記の57項と58項です。
結論として、履行差額は営業損益か、営業外損益で処理することが原則になります。
特別損益とする場合
上記のように履行差額の原則は営業損益か営業外損益になりますが、
では絶対に特別損失や特別利益として表示できないのかというと、そうでもありません。
再掲ですが、58項に以下のような記載があります。
58.(略)
なお、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合等、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理することに留意する。
”異常な原因”により生じたものであるかどうかは、判断になります。
単に見積りが不十分だった場合は、異常な原因とはいえない可能性が高いです。特別損益で表示されたい場合は、注意が必要です。
金額的重要性が乏しくない場合、監査人への相談は必須になるでしょう。
この基準に示されたオフィシャルの例示としては以下になります。
これだけだと感触を掴めないので、いくつか事例を調べました。
(例2)地震の影響により、連結子会社が保有する賃貸資産について、賃貸取引満了前の売却を方針決定をしたケース
(例3)事業用定期借地権設定契約変更契約に関し覚書を締結し一部事項の明確化を図ることに伴い、資産除去債務に関する見積りを見直したケース
(例4)営業終了に伴う解約合意書に伴い戻入益が発生したケース
消費税の取り扱い
資産除去債務自体は見積の塊ですから、基本的に課税対象となりません。
会社の見積りに基づく費用は,税法に特別の規定のない限りは損金算入ができないからです。
そのため資産除去債務は、消費税的には基本的に「税抜」価格で計上することになります。
ただし、履行時(確定、支出時)は別です。
債務が確定している状態ですから、法人税や消費税について考慮が必要になるでしょう。
たとえば、以下の仕訳を考えてみましょう。
(借) | 資産除去債務 費用(履行差額) |
1,000 50 |
(貸) | 現金預金 |
1,050 |
この場合、貸方の現金預金は、資産を除去するためのコストとして、業者に工事代金の支払いを行う場合だとしましょう。
この時点では、消費税は発生しているはずで、課税仕入れを行っている場合、仮払消費税を計上することになります。
そのため、仮に業者に課税仕入れとして1,150(税抜1045、消費税105)を支払っているが、資産除去債務は1,000(税抜ベース)で見積もっていた場合、実際の仕訳は以下のようになります。
(借) | 資産除去債務 仮払消費税 費用(履行差額) |
1,000 105 45 |
(貸) | 現金預金 | 1,150 |
キャッシュ・フロー計算書の表示
資産除去債務の履行によって支出が生じますが、こちらについてのキャッシュ・フロー計算書上の取り扱いについては、「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」にて、以下のように指定されています。
(資産除去債務のキャッシュ・フロー計算書上の取扱い)
12.資産除去債務を実際に履行した場合、その支出額についてはキャッシュ・フロー計算書上「投資活動によるキャッシュ・フロー」の項目として取り扱う。13.重要な資産除去債務を計上したときは、キャッシュ・フロー計算書に「重要な非資金取引」として注記を行う。
12項のとおり、営業活動ではなく、投資活動によるキャッシュ・フローとなるため、注意が必要です。
また13項は、将来の資金繰りの分析のために重要な情報です。「重要な」については判断が必要ですが、注記漏れとならないように注意が必要でしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
できるだけ実務の内容を織り込みましたが、どうしても各社によって状況が異なるため、実態判断が必要になります。
検討漏れがないように、注意したいところです。
★こちらの資産除去債務についての記事についても参照してみてください。