Contents
公正価値・時価・使用価値の違いについて解説します
こんにちは。哲ンドーです。
今回は、紛らわしい会計用語である、公正価値、時価、使用価値の違いについて解説していきます。
定義
まず、それぞれの定義を見ていきましょう。
- 公正価値
「公正価値」とは、測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格(IFRS13.9)
- 時価
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価の算定に関する会計基準5項)。
- 使用価値
使用価値とは、資産又は資金生成単位から生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいう(IAS36.6)。
使用価値とは、資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値をいう(固定資産の減損に係る会計基準注解1)。
公正価値と時価の違い
さてまずは公正価値と時価との違いを見ていきます。
結論としては、上記の定義から見てもわかるとおり、公正価値と時価は、その内容が同じです。
ただ単に、言い方が異なるというだけです。
ではなぜ、わざわざ言い方が異なるのか?公正価値もしくは時価で統一する方法もあったはずです。
そこは、「時価の算定に関する会計基準」において、以下のように説明されています。
IFRS第13号では公正価値という用語が用いられているが、時価算定会計基準では、我が国における他の関連諸法規において時価という用語が広く用いられていること等を配慮し、時価という用語を用いている(25項)。
実は、”時価”という言葉は、昔から日本の法律や会計基準で浸透してきた言い方なのです。
そのため、これらのルールは既に「時価」という言い方でもって統一して法律等が制定されています。
一方で、IFやUSでは、同じ内容を”公正価値”という言葉で表現しています。
日本基準に「公正価値」のルールを持ち込む際に、会計基準だけを「公正価値」と呼称することに変更してしまうと、かえって日本国内で混乱するでしょうということで、日本基準の中では、「時価」という呼び方をそのまま継続することになったのです。
公正価値と使用価値の違い
使用価値の定義は、IFRSでも日本基準でも似通っています。
では、公正価値と使用価値は何が異なるのでしょうか。
相違ポイント1:使用価値が出てくる場面は限定的
公正価値は、IFRS基準の中の、さまざまな基準で使用される言葉です。
一方で、使用価値という言葉は、いわゆる「固定資産の減損会計」で使われるものです。
たとえば、金融商品の公正価値を考えるときに、「使用価値」という言い方はしませんし、「使用価値」は使用しません。
使用価値は、あくまでもその会社が保有する固定資産等の価値を、将来その企業が使用し続けるという想定の下で算定したものです。
そのため、たとえば「使用価値」という言葉を聞いた瞬間に、「減損会計の話をしているな」ということがわかります。
これが「公正価値」とう言葉で話されていても、それだけでは何の話をしているか、明確ではありません。
相違ポイント2:市場目線か経営者目線か
上記の定義からもわかりますが、公正価値は市場目線、使用価値は企業(経営者)目線であると言えます。
言い換えれば、公正価値はより客観的、使用価値はより主観的な側面があります。
IAS36.53Aにおいては、以下のような説明があります。
公正価値は使用価値とは異なる。公正価値は、市場参加者が当該資産の価格付けを行う際に使用するであろう仮定を反映する。これに対し、使用価値は、当該企業に固有で企業一般には適用可能でないかもしれない要因の影響を反映する。
例えば、公正価値は、次のいずれの要因も、市場参加者に一般的に利用可能でない限り、反映しない。
(a) 資産のグルーピングにより得られる追加的な価値(異なる地域にある投資不動産のポートフォリオの創出など)
(b) 測定する資産と他の資産との間のシナジー
(c) 当該資産の現在の所有者のみに固有の法的権利又は法的制約
(d) 当該資産の現在の所有者に固有の税務上の便益又は負担
そして使用価値の計算上、この概念の相違が如実にあらわれるところの一つが、「将来キャッシュ・フローの見積り」であると考えられます。
基準では、使用価値の将来キャッシュ・フローについて以下のように説明しています。
日本基準
使用価値の算定において見積られる将来キャッシュ・フローを、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る((減損会計基準 二 4.(1))IFRS
使用価値の測定にあたっては、企業は次のようにしなければならない。
(a) キャッシュ・フロー予測は、合理的で裏付け可能な仮定を基礎としなければならず、これには、当該資産の残存耐用年数にわたり存在するであろう一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する。外部の証拠により大きな重点を置かなければならない(IAS36.33)。
使用価値の算定においては、将来キャッシュ・フローをその企業の固有の前提に基づき、予算などを出発点として見積ることが多いです。これは使用価値の定義に照らせば、何ら問題ない妥当なものです(経営者の予測について合理的な理由を説明できることが前提)。
しかし、仮に固定資産を使用価値ではなく公正価値で測定することが必要となった場合、これらの企業固有の予算ベースによるキャッシュ・フローが、市場参加者のそれと整合していることを確かめる必要があるでしょう。
例えば、予想される企業固有の将来のキャッシュ・フローが市場参加者の見解と整合していることを確認するためには、経営者の内部予測と、外部情報(業界に関する業界アナリストの予測、競合他社の情報、第三者の経済予測、その他の関連するマクロ経済データ)を比較することが必要になると考えられます。
その結果、企業固有のキャッシュ・フローを修正する必要性が生じる場面も想定されます。
例えば、企業が固有のシナジーをもっていたとしても、市場参加者がそのシナジーを得られない場合はその前提は使用せず、その代わりに市場参加者が持っているシナジーを反映するべきです。
また、関連当事者取引による有利な価格での将来キャッシュ・フローを前提としており、それが企業固有の事情になっていると判断される場合、これをあらためて市場参加者目線と整合した取引価格等に修正するべきでしょう。
相違ポイント3:具体的な計算方法
使用価値は、「将来キャッシュ・フローの現在価値」ですから、DCF法(インカムアプローチ)による計算を前提としています。
一方、公正価値は、DCF法などのインカムアプローチで算定することもあれば、マーケットアプローチ、コストアプローチといったDCFとは全く別の方法によることもあります。
つまり、公正価値は、その算定方法が使用価値に比べてより広いものであると言えます。
また、使用価値は、DCF法ではあるものの、具体的な計算ルールが会計基準で明記されているところも、その特徴の一つです。
例えば、以下のような計算指示です。
- 使用価値の算定のために将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数とする
- 将来キャッシュ・フローの見積りには、利息の支払額並びに法人税等の支払額及び還付額を含めない
- 使用価値の算定に際して用いられる割引率は、税引前のものを用いる(実際は、CFを税引後のものを用いて、割引率を税引後のものにすることもあるが)
- 経営者が承認した直近の財務予算・予測を基礎とした予測の対象期間は、原則として、最長でも5年間としなければならない(IFRS)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
特に使用価値と公正価値は似ていますが、全く異なるものです。
以下にまとめておきましたので、理解を深めるのにご利用ください。
公正価値(=時価) | 使用価値 | |
---|---|---|
相違1:使用領域 | 会計基準全般 | 固定資産の減損会計 |
相違2:目線 | 市場参加者(客観的) | 企業・経営者(主観的) |
相違3:計算方法 | DCF法以外も含む | DCF法(割引現在価値) |