(資産とは何か?)資産について理解を深めるためのポイント

(資産とは何か?)資産について理解を深めるためのポイント

今回は、会計の世界での最重要キーワードの一つであろう、「資産」について解説します。

資産といっても、その内容や意味するところは、非常に多岐にわたります。

この記事は、以下のような方に向けて書いています。

・会計を学習し始めた方で、そもそも「資産」って何だ?と疑問に感じ始めた方
・経理の現場で、上司から”そもそも資産について理解しているか?”と問われた経理マンの方
・監査法人に入所して間もない会計士で、資産の監査実務にあたっては何がポイントになるのか知りたい方

BSにおける、資産

「資産」という用語は、決算書で必ず登場します。

例えば、みんな大好きなトヨタの決算書(単体)を見てみましょう。

さまざまな資産の内訳があるわけですが、ここで今回問いたいのは、「これら資産とは、一体何なんだ!?」というものです。

逆に言うと、「どのようなものであれば、B/Sの左側に載せることができるのか?」です。

決算書を読むときに、「資産とは何か?」をいちいち考えて読む機会は少ないかもしれませんが、それをわかっていなければ、本来決算書の意味は分からないと思います。

資産の定義(かみ砕いて言うと)

資産とは、何でしょうか?
実は、これに対する答えは、会計基準には明記されていません。
バトルドッグ
え!?
あれだけ会計基準で「資産、資産」と言っているけど、ノリで適当に会話していたということ?
決してノリで適当にというわけではないのですが、「資産に関する会計基準」なんかありませんし、ことさら明記されていないのは事実です。
ただし、流石にそれはまずいなということで、日本では「財務会計の概念フレームワーク」という資料にて定義づけしたものが公表されています。2006年の公表なのでずいぶん前になるのですが、それ以降特に大きなアップデートはありません。
このフレークワークは、”会計基準の概念的な基礎を提供するもの”とされています。つまり、会計ルールを理解するための基礎的な知識を解説したものです。
さて、フレームワーク上の資産の定義は、以下のようなものです。

4. 資産とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう(2)(3)。

(2) ここでいう支配とは、所有権の有無にかかわらず、報告主体が経済的資源を利用し、そこから生み出される便益を享受できる状態をいう。
経済的資源とは、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい、実物財に限らず、金融資産及びそれらとの同等物を含む。経済資源は市場での処分可能性を有する場合もあれば、そうでない場合もある。

(3) 一般に、繰延費用と呼ばれてきたものでも、将来の便益が得られると期待できるのであれば、それは、資産の定義には必ずしも反していない。その資産計上がもし否定されるとしたら、資産の定義によるのではなく、認識・測定の要件または制約による。

バトルドッグ
む、難しい・・・!!何を言っているのか!?
文字だけだと分かりにくいので、この定義を図にしてみました。
要するに資産とは、「将来キャッシュを生み出すことに貢献するであろう、いま価値のあるモノ」という意味になります。
「支配」とは、”企業がそれを利用でき、将来のキャッシュを受け取れる”という意味です。どんなに価値のあるものでも、それを保有する企業がキャッシュを受け取れないなら、意味がありませんので。
「経済的資源」とは、要するに”価値のあるモノ”という意味で、目に見えないものも含め、あらゆる形態を含みます。いちいち限定する意味もないので、ここでは広めの定義になっています。
ということで、会計上、「資産」とは、”価値のあるモノすべて”ということになります。現金預金や売掛金、建物や機械設備、有価証券等の投資も含めて、将来キャッシュを生み出す源泉はすべて資産になります。
さて、ここで重要なポイントがあります。それは、資産の「将来キャッシュに貢献」という性質です。
資産は、将来において、キャッシュを生み出すことに貢献するものでなければなりません。
これは、「資産性」と呼ばれる資産の具備するべき性質で、会計上は極めて重要な考え方になります。
こちらについて、次で解説します。

資産性の意味(重要)

資産性とは

さきほど、資産の定義を確認したときに、資産はかなり幅広いものだという印象を持たれたと思います。
しかし、実際にこのような資産のすべてがBSの左側に残高としてカウントされるかというと、必ずしもそうではありません。
どういうことかというと、資産には該当するけど、B/Sの残高としては計上されない」ということが起こり得ます。
というか、よくある話です。
重要なことなのでもう一度言います。資産の定義に該当しても、B/S計上されるとは限りません。
では、どのような理由でBS計上されなくなってしまうのか。
これを決定づける考え方が、「資産性」です。
つまり、資産性があればB/Sに計上されますが、資産性がなければB/Sに計上されません。資産は、①資産の定義を満たし、かつ、②資産性を満たさなければ、BSとしては出現しないのが原則です。

資産性の意味

資産性といえば、よく不動産なんかが例にあげられますね。
「この不動産の資産性は十分でしょうか?」と問われたら、どのような意味を思い浮かべますでしょうか。
私なら、「この不動産は、今売って十分なキャッシュになるでしょうか?将来もちゃんと売れるでしょうか?」という意味を思い浮かべてしまいます。
会計上も、これと同じような意味で捉えていただいて大丈夫です。
つまり、「資産性」とは、「将来、とりっぱぐれなくキャッシュで回収できるかどうか」という指標です。
こちらの例をご覧ください。ある会社が過去の投資によって10億円の不動産を保有していたとして、これは資産です。
この会社が、不動産を売却するシナリオを3つ考えます。将来①~将来③です。
将来①と②では、投資した不動産がいずれも10億円以上で売却(キャッシュ化)できています。ちょうど10億円で売却できた状態も含みます。
これらは、「資産性がある状態」です。
一方、将来③では、この不動産が5億円でしか売却できていません。つまり、10億-5億=5億円だけ、損失が出てしまいました。ということは、5億は回収できたが、5億は回収できていない状態になります。この時、この回収できなかった5億円を「資産性がない」と言います。
現在時点において、将来5億円でしか売れないことが「明確に分かっている場合」、あるいは、「5億円でしか売れなさそうなことが根拠をもって言える場合」には、現在時点のB/S上、この不動産は10億円で計上するべきではありません。
5億円だけ、計上することになります。資産性があるのは、5億円部分だけだからです。
この考え方は、資産全般に言えることです。
何の資産であろうが、変わらないものとご理解ください。

監査の視点

なお、監査でも、この資産性に着目した手続が多く行われます。
というか、資産項目については重要論点は資産性がほぼすべてです。
単純な計上誤りなんかも気を付けるべき点ですが、より難易度が高いのが、資産性の立証です。
例えば、以下のような手続です。
● 現金預金が嘘でないことを確かめるため、通帳との照合や確認状の発送を行う
● 在庫の資産性を確かめるため、販売履歴をもとに販売見込について営業担当に質問を行う
● 不動産の資産性を確かめるため、専門家(不動産鑑定士等)に評価を依頼する
このような監査手続を経て、資産性について十分な検討が行われます。
公表されるB/Sの左側に掲載されている資産の残高は、すべて資産性があることを監査でも検証した結果ということになります。

資産の主な論点

上記のように資産に対しては資産性が重要なテーマになり、これは基本的にすべての資産について言えることです。

しかし、テーマは資産性だけではありません。

それぞれの資産項目で、それぞれ特有の会計的・監査的論点があるものです。

当ブログでは、それぞれの領域で独自にポイントとなるものについて紹介していますので、以下で取りまとめしていきたいと思います。

流動資産

流動資産は、換金性が高く、残高自体の検証が比較的容易なものです。
例えば、普通預金、売掛金、棚卸資産、家賃の前払残高などです。
これらは、概ね1年以内には、キャッシュで回収され、その役割を終えるものです。
そのため、資産性についてのリスクは比較的低いとは思います。
しかし、一部の科目については注意が必要で、当ブログではそれらについて記事にしています。

仮払金

その一つとして、実務では多くの場合、「仮払金」に着目します。
これは要チェック科目です。
その理由や対策については、以下で詳細に記載していますので是非ご覧ください。

仮払金の資産性や、他の勘定科目との違いを理解するためのポイント


主なポイント
● 前払金・立替金・仮払消費税との違い
● 仮払金が開示されている事例
● なぜ仮払金は資産性が問題になりやすいか?

前払費用

前払費用は、”費用なのに勘定科目は資産”というややこしさがあります。

「経過勘定」とよばれるこの項目について図解を交えて解説を行っています。

また、実務でよくある法人税法上の短期前払費用の特例についても触れています。

前払費用の理解を深めポイントがわかる5つのポイント


主なポイント
● 費用なのに、資産であるというわかりにくさは、一体何なのか?
● 前払金・前渡金との違い
● 法人税法上の前払費用

固定資産

固定資産は、一般に流動資産よりは換金性が低く、その稼働能力等を活用して中長期的にキャッシュを生み出す素材をいいます。
いわゆる(設備)投資によって計上され、金額も大きなものになりがちで、したがって会計実務でも重要論点が多数になります。
また、”活用素材”であることから、その活用の程度に応じて減価償却によって費用化するという性質があります。
減価償却や減損会計などは、「どのようなタイミングで費用としていくか」が重要となります。

建設仮勘定

本ブログではその中でも、建設仮勘定に着目しています。

建設仮勘定は一般に仕掛中の固定資産を意味するものですが、会計的に留意するべき事項が多い科目です。

主に、以下のポイントについて解説しています。

建設仮勘定について理解をすすめるための8つのポイント


主なポイント
・ソフトウェア仮勘定(無形資産)との関係

・建設仮勘定の3つの特徴
・会計処理(時系列ごと)
・減損会計との関係
・開示における2つのポイント
・消費税の論点(税込vs税抜)

リース会計

リースは、その実態に着目し、会計処理を変化させる必要がある点がポイントです。
近年IFRSやUSでも改正された重要度の高い領域で、今後日本基準でも改正される予定になっています。
当ブログではこの新しいリース基準に着目し、その改正内容を踏まえてリース会計の本質について解説を試みています。
初心者がわかる新リース会計(IFRS16号)①~旧リース会計とは


主なポイント
● リースとは、一体何をやっている取引なのか、何が実態なのか?(図解あり)
● リースは、会計上はどのように処理されるべきなのか?
● すべてのリースを資産計上するのが正しいのか?
● ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの違いは何なのか!?

初心者がわかる新リース会計(IFRS16号)②~新リース会計とは


主なポイント
● ファイナンス・リース(FL)、オペレーティング・リース(OL)区分 の何が問題なのか?(図解あり)
● 新リース会計=屁理屈だとは思う!(図解あり)

初心者がわかる新リース会計(IFRS16号)③~新リース会計の論点_サブリース


主なポイント
● なぜ、貸手のリース契約だけが旧リース基準の考え方に留まったのか?
● なぜ、サブリースは面倒くさいのか?

サブリースについても本質の理解が促進される領域になっています。
IFRS16号の内容のみならず、USGAAPの考え方についてもおさえておきたいところです。
日本基準の開発においても論点になっているから、今後理解が必要になる可能性が高いためです。

減損会計

減損会計は、日本ではもう導入から20年程度経過しようとしていますが、
現代会計における最重要領域の一つです。
上述の資産会計のテーマである、「資産性」がまさに問われる分野になります。
難易度は、概して高いです。
そもそも基準の言っていることを理解することが難しいです。
本ブログでは、各論形式で、減損会計の基本&本質的な理解を促進できるようなコンテンツを用意しています。
【減損会計】グルーピングに関する理解を深めるためのポイント


主なポイント
● グルーピング手順における留意点は?
● グルーピングの具体的な事例は?
● 共用資産の考え方は?
● グルーピングとセグメントの関係で知っておくべきことは?
● 連結ベースのグルーピングの留意点は?

【減損会計】減損の兆候に関する理解を深めるためのポイント


主なポイント
● 兆候の判定で発生するであろう基本パターンを図解でおさえる!
● 四半期では減損の兆候をどのように捌けばよいのか?

【減損会計】キャッシュ・フローについて理解を深めるためのポイント


主なポイント
● 同じ将来キャッシュ・フローでも、「認識」と「測定」の違いは?
● のれんがある場合の留意点は?
● 将来キャッシュ・フローにおける、減価償却費の考え方は?

遊休資産の減損会計を考えるときのポイント~代替的投資との関連~


主なポイント
● 遊休資産の定義を理解する!
● ”代替的な投資”とは!?何を言っているのか図解で理解
● ”代替的な投資”の理解からの、遊休資産減損

公正価値・時価・使用価値の違いについて解説します


主なポイント
● 公正価値や時価との比較で、使用価値がどのようなものなのかの理解を深めます
● 相違ポイント1:使用価値が出てくる場面は限定的

● 相違ポイント2:市場目線か経営者目線か
● 相違ポイント3:具体的な計算方法

【USGAAP】米国会計基準の固定資産減損会計のポイント


番外編として、USGAAPの減損会計について触れています。
日本基準のベースとなったであろうこの基準では、どのような思考で減損を考えるのか?
興味があれば除いてみてください。

その他

長期前払費用

本来、(企業会計原則的には)長期役務提供契約の経過勘定としての性質くらいしか有さないはずの前払費用ですが、

長期前払費用も含めると、実際にはいろんな内容・論点に派生しているのが実務です。

これに着目し、以下について解説を行っています。盛り沢山です。

長期前払費用について理解を深めるための8つのポイント


主なポイント

・税法上の繰延資産
・一括償却資産
・控除対象外消費税額等
・減損会計
・為替予約
・セール&リースバック
・建設協力金
・事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)