揺れる監査法人

  • 2017年7月7日
  • 2017年7月7日
  • 会計

揺れる監査法人 誕生半世紀の岐路(3)企業との蜜月に陰り 審査厳格化、増えるコスト

2017/7/7付の日経新聞より。

書いていることは事実に基づくのでしょうが(そうでなかったら大変)、少しコメントしたくなりました。

報酬5割増し?

たとえば報酬が5割増で突きつけられたという、極めて異例なケースが例としてあげられています。

確かに契約解除の布石として監査報酬を突然値上げすることはあり、この「突然」というのが確かに果たしてどうかという気もいたしますが、何も監査法人が悪い組織で、突然顧客を見放すようなことを平気でするような会社になった、ということではないと思います。ぞんざいに扱うという言い方が正しいのかについても疑問です。

監査は公益性が高い事業であるとはいえ、経営は営利企業である監査法人自体にゆだねられており、基本的に利益が出ない監査契約であれば何とか利益が出るようにしなければなりません。

しかしたとえば、顧客の監査対応を含めた経理体制が脆弱で、異様に会計士の手間が多くかかっていて、他社様への業務や会計士の業務量が異常に多くなっており、健康管理面からも労務署から指摘されかねないような場合、どのようにすればいいでしょうか。

一つの方法として、顧客の経理体制改善業務と称して何らかのコンサル業務を提供することが考えられますが、実際監査法人は監査先に対して強い独立性が求められますので、自ら仕訳を切るような業務は提供できず、提供できるサービスには限界があります。またそもそも人員が逼迫している中でそのような余裕はないかもしれません。

要するに、極端な話、「監査対応を含めた経理体制が極めて脆弱であるにもかかわらず、お金をかけてでも何とかしようとしないorできない会社」は、「監査的に非常に手がかかる」会社であり、多くの時間が取られてしまう。監査法人としても限られたリソースを適切に全顧客に配分するため、やむを得ず実質的に契約を打ち切らざるを得ないこともある。

そのため、監査法人としても自社と他の顧客の利益のためにはやむを得ず報酬の増額交渉という形でふっかけることもあるというのが実情ではないかと推測します。

これって、最近話題になった某運送会社と某通販会社の交渉、つまり通常のビジネスにおける合理的な交渉と類似している部分があるのではないかと思います。

つまり言いたいのは、監査法人は会社の出入り業者ではなく法律に基づいて業務を遂行するプロであって、「自社ができないことをサービスで何とかしてくれる人たち」ではなく、会社(特に上場会社)は法等で要求される監査に耐えられる水準の経理体制を維持しなければならないということです。

社長等からすれば、経理といえば所詮は間接部門であり、コストセンターであり、ましてや監査対応など二の次三の次で、なんとなく軽視してしまっている場合もあるかもしれませんが、この記事の背景にある事情からすれば、上場会社で経理体制にしっかりお金をかけられないような経営をしている限り、「市場法則」に則って監査法人から契約解除を要求される会社は増えていくのではないかと思います。

何も「本業よりも経理が大切」とか、「監査法人を擁護しろ」と言いたいわけではありませんが、昨今のように市場が監査法人に要求するレベルが厳しくなるということは、会社の経理に対して要求されるレベルもあがることを意味しますので、「経理のレベルアップ、意識改革」がこの記事の真のテーマではないかと私は思いました。

ただ、経理側の人員も逼迫しているのが昨今の実情です。そこで、独立の第3者に経理を委託するとか、専門性の高い業務については個別に会計士にサポートしてもらうとか、経理含めた管理体制をそもそも見直したいとか、そういった動きが活発化していますし、これからしばらくは続くのではないかと推測します。

その中には、「経理の役割とは?」「管理するとは?」「上場するとは?」などの重要なテーマが潜んでいます。経営者がこれらを正しく理解し、経営のアクセルに変換できれば、監査対応を超えてより強い会社へ成長する糧になるのだと信じています。

大手か中小か?

一長一短で難しいです。

記事の中には、中小監査法人のほうが小回りが利いて良いといったコメントがありましたが、物事は多面的に見るべきです。

要は、グレーな会計処理で、10人の専門家中8人が黒だと言っている処理について、単に検討不足であることや過去の経緯など本質とは関係な理由で白にしてしまっているだけかもしれません。

確かに大手や準大手はグレーな処理だと思えば専門部署に問い合わせるなどして時間がかかることもありますが、これこそが監査の品質といえる部分もあります。昨今の要求水準からして認められない処理を知らず知らずのうちに採用していることになっていないか、気をつけたいところです(必ずそうだと言っているのではありません。ただ、大手であるほど、品質管理には相当お金をかけて対応している部分がある側面を理解しなければならないとも思います。)。

これまでグレーだけどはっきり基準に書いてないからOKとされてきた会計処理が時代にあわないものになっている場合等は、残念ながら処理を変更せざるを得ないケースも増えていくような気がします。

ただ監査法人側の判断があまりに遅いのは、それはそれで問題であって、それが交代理由に繋がっているのも事実かとも思います。

監査法人交代アンケート

記事を理解する前提となる情報として、JICPAが監査法人の交代に関して面白いアンケート結果を公表しています。

これによると、クライアント(特に規模が大きめの会社様)の事情からすれば、「グループで監査法人を統一したい」というニーズが大きいようですね。これは決算や監査の効率化という面からも、合理性のある判断かと思います。