東芝の件をネタに、一体何本の記事が生み出されたのでしょうか。
それを紹介している私も私ですが、ビジネスジャーナルの記事を読んでいると興味深いことが書かれていました。
なぜ不正に加担するというリスクを冒すのかといえば、会計士がサラリーマン化しちゃっているんですね。そうすると、監査法人内での評価をものすごく気にするようになる。
⇒昔の話ではないのでしょうか。今もそうなんでしょうかね。しかし他の会計士が言うように、個人的には「監査先企業がお客さんだから不正を指摘できないということは、ない」と思います。少なくともこれからはこのような事象は無くなっていく方向性だとは思います。
会計士のサラリーマン化は随分前からです。出世できなければ辞めるしか無いので、生き抜くには出世するかどうかが全てです。しかしこれは最も会計士らしくない生き方だと私は思います。
本来の会計士スピリットに戻りつつあるということで、それ自体は(制度利用者目線では)良いことだと思います。
東芝の米・原子力会社ウエスチングハウス(WH)買収による巨額減損の場合は、処理が微妙でした。先々のことを見積もる材料が東芝のほうが豊富なので、会計士も東芝側の意見を通さざるを得なかったというのはあるでしょう。原発事業の実情など会計士にはわかりませんから、そこがウィークポイントだと思います。東芝が「儲かります」と言っているのを、会計士が「いや、損するでしょう」と言えるわけもない。
⇒会計上の見積は本当に難しいと思います。監査基準とかに記載されている手続を通り一辺倒に実施したからといって、見積ったとおりに着地するなどということはあり得ません。
そのため、現場では(言い方は悪いが誰かの言い方を拝借して)アリバイ作りに必死になります。
監査人がOKと言うと会社はあとで都合良く「○○先生がOKと言った!」と主張するし、監査人がNGと言うと会社は「何でそうなるのか?おかしくないですか!」と説明を求める。
どちらの結論を出すにせよ、論理的で妥当な判断だったと示すための十分な根拠を残しておく必要があるのです。
将来の見積りなどというのは結局わからないのだから、「明らかに大きな見積り誤りだったのかどうか」が争点となるのですが、会計士がリスクを回避して異様に保守的になると厳しい監査になるので、徒労に終わるリスクがあります。顛末など結局わからないので。
しかし、会社の説明に明らかに矛盾があったり、情報収集が足りてなかったりということがあるとそれはそれでリスクになるので、事業がわからないなりにでもあらゆる可能性を考慮して、監査では会社の盲点を突きにいく必要があります。
このあたりを見極めて、十分な手続に落とし込んでいく必要があるので、非常に判断の要素が大きく、幸か不幸かこの領域には監査のやりがいを感じられる部分ではあります。
会計士は、会社が予算を取っていないとか、急に言われても困るとか、あまりそういう本質的でないところは気にしないようにはなってきているように思います。
企業実務への配慮は必要でしょうけど、基本的に投資家目線ではそれでいいと思います。
というかそうするしかない。
実は意識改革を求められているのは企業サイドなのではないかと思います。昔のようにはいきませんよという意味で。
会計士の嗅覚が重要になってくる。どこが危なそうで、どこが危なくないのか嗅ぎ分ける能力ですね。危ないと思ったところは徹底的にやりますが、そうじゃないところはいい意味で手を抜く。ここが腕の見せ所です。こうした実情を踏まえると、ローテーション制度は明らかに後退です。過去の例でも、ある会社の監査法人が交代して、前の監査法人はリスクを感じていたのに、新しい監査法人がそれに気がつかず不正を見落としたというケースもあります。
会計士は、この嗅覚を身につける必要があるのだと感じています。
センスと呼ばれるのかもしれませんが、これをトレーニングで身につけさせる制度的なサポートが必要なのだと思います。
これほど口でいうのが簡単で実際には難しいものは無いですが、そのような付加価値の高い研修制度が求められる時代になってきていると思います。研修だけでは無く、個々の会計士が強く意識していかないと身につかないと思います。
ローテーション制度は、メリットデメリットがあるのですが、正直今の状況でそれをやったら、本来やるべき上記のような付加価値の高い仕事はどんどん後回しになると思います。
1つの会社を監査するにしても、初年度と2年度ではクオリティが全然違います。初年度は何もわからない状態ですから、情報収集しながら監査する。年を重ねるごとにクオリティが高くなってくるのですが、それが一旦スタートに戻ってしまうということが、ローテーションのデメリットの1つとしてあります。金融庁が今やろうとしていることは、現場の経験者が考えた方法ではなくて、現場を一切経験していない人々が外国のやっていることを全部持ってこようとしているということだと思います。
これは本当におっしゃるとおりですね。現場の会計士は小さなところから大きな所まで、やるべき順序や顧客への言い方・タイミングまで諸々考えながら仕事をこなしていて、しかもそんな現場が幾つもある状態なので、もう正直制度的な間接業務に負われるのは辛いだけだと思いますね。