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調査報告書(中間)開示
株式会社ドミーは、店舗に係る固定資産の減損処理方法に関し、監査法人より、仕入先からのリベート・協賛金の会計処理について、一部の店舗へ不適切に傾斜配賦処理が行われており、この事実の解明には社外の有識者からなる調査委員会による調査が必要であるとの指摘を受けました。そのため第三者委員会を設置し、調査報告書(中間)を受領したので、平成30年2月1日に全文開示した模様です。
今回の内容も示唆に富んでいると感じますので、固定資産の減損に関する作成/監査を担当する方はしっかりと把握しておいて損はない内容になると思います。
不適切処理の内容
今回の案件は、基本的に「恣意的な減損損失の回避」がテーマになっているようです。
具体的には、採算性の悪い店舗について、意図的に「リベート(収益の増加)」などの利益要素を計上し、減損損失の計上を回避するために一部の担当者等が動いていたというものです。
ただし、その手口の種類は一つではなく、複数の手口によっていたことが調査報告書(中間)にて触れられています。
調査は現在も継続中で、今後は全容解明のため、会社と利害関係のない不正会計の調査を専門に行う調査会社を補助者とし調査体制を強化する方針のようです。
今回は、不正の手口とその発見方法、また今後我々が経験として持っておくべきと感じたことを記載していきます。いつものとおりですが、当方の予測も加味していますので、その点踏まえてお読みください。
不正の手口
リベート及び協賛金
(1)事実関係
食品第二事業部におけるリベート及び協賛金の各店舗の累計額を比較すると、明らかに減損懸念がある店舗に多額のリベート及び協賛金が計上されていた。
リベート及び協賛金は、いろいろな名目で仕入先から支払われているが、いずれにしても仕入先から受け取ることができる収益としての性質を持っている。
(2)本来のリベートの処理ルール
会社において、各種リベートは、原則として本社勘定に計上したうえで、各店舗の部門別の売上高に応じて決算時に配賦されるルールとなっている。
そのため、直接、各店舗に計上されるリベート及び協賛金は、例外的なものとなる。
また、リベートに関する伝票を起票する場合、いわゆる赤伝を作成するだけでなく、そのリベートの明細が記された会社作成の「リベート取引明細書」と、仕入先から提出される「エビデンス」を添付するルールとなっている。
(3)不自然な点
減損の懸念がある特定の部門(商品部)の商品について、リベートが集中していた。
(おそらく、上記の処理ルールに照らして異常性を疑わざるを得ない傾斜配分だったのだと思われる)
(4)具体的な手口と調査結果
「リベート取引明細書」と、「エビデンス」を照合したところ、「エビデンス」が改ざんされ、金額の調整や、減損の懸念がある店舗の店舗名が追記されたりしていた(本来はそのような店舗に帰属しないものなのに)。
要は、証票の改竄!
特に減損の懸念のあった「a店」、「b店」及び「c店」に計上されていたリベートの約9割が不正であることが判明した。
→(参考)再発防止策案
・原則として、各店舗にリベートを計上することを禁止し、本社勘定に一括して計上すること。
・仮に例外的に各店舗にリベートを計上するとしても、厳格なルールを定め、変造または偽造のおそれがないような仕入先からの「エビデンス」を付されたもの以外は、各店舗にリベートを計上することを認めない社内ルールを確立すること。
(5)発生理由と背景
不採算店舗について、責任者は相当程度のプレッシャーを受けており、具体的な不正指示もあった模様(詳細は報告書参照)。本質的には、社風の影響や、ガバナンスの不十分さについても指摘されています。
(6)会計監査人の監査では何をしていたか?
報告書を読む限り、監査法人(新日本)の監査の中発見された模様です。明らかにリベートの配賦計算結果がおかしい(業績の悪い店舗に有利な計算になっている)とか、そのようなところを端緒に突き詰めていった結果だと思います。
この際、一般的に会社からの反論として推定されるのが、「仕入先と商談して、各店舗の値引き販売の原資として、リベートを支払ってもらっただけで、不正ではない。むしろ正しい。」というもの。
今回、そのような主張がどれだけあったのかは分かりませんが、仮にそのような主張がされていたならば、結局これは大きな嘘だったわけで、このあたりが不正発見の難しいところなのです。
監査を経験された方であれば想像していただけると思いますが、(組織ぐるみで)嘘を通されると、会社に追加調査の依頼を突き通すにはかなりエネルギーが必要になります。この監査チームは(本部への相談や本部からの指示もあったのかもしれませんが)諦めなかったということだと思います。本当にお疲れ様でしたと言いたいです。
広告宣伝費に関する不正
広告宣伝費のうち、新聞の折込チラシによる広告宣伝費については、各家庭へのチラシ配付枚数に応じて、各店舗に広告宣伝費を配賦してい
る。会社は、ドミナント戦略(チェーンストアが地域を絞って集中的に出店する経営戦略)を採用しているため、店舗の場所が近いことも発生しており、新聞の折込チラシの配付枚数を、どの店舗に何枚付けるかについて、会社の裁量が働く余地がある。
→会計監査人は、それまで広告宣伝費の配賦方法が恣意的に行われていたことから、広告宣伝費の配賦方法を改善するように指摘していたが、改善されず、むしろ減損の懸念がある店舗のチラシ枚数を付け替えることにより、広告宣伝費の一部を操作する不正を行っていたことが新たに判明した。
→全容解明のため追加調査が必要とされている。
社内販売に関する不正
会社は、従業員に対する福利厚生の一環として、従業員に対して店頭価格よりも安価に、クリスマスケーキ、おせち料理等を社内販売してい
る。各店舗の従業員が購入した社内販売分については、各店舗に計上している。
→会社はこれに関し、あるべき店舗への計上ではなく、減損の懸念がある店舗に恣意的に収益計上していた模様。
→全容解明のため追加調査が必要とされている。
人件費に関する不正(?)
会社はそれぞれのエリアで「エリア・チーフ」という担当者を置いている。この「エリア・チーフ」は、エリア内の各店舗を巡回して、各店舗の業務を手伝ったりしている。
この「エリア・チーフ」の人件費は、本社費として計上され、一定の基準に従い、各店舗に配賦されることになっている。
しかしながら、この「エリア・チーフ」について、勤務時間の大部分を減損の懸念がある店舗で稼働しているという指摘が会計監査人からあった。
→短時間の調査では、全容解明に至らないため、さらなる調査が必要
まとめ
いくつかの手口があったようですが、いずれも共通していることがあります。
それは、「減損が危うい店舗の利益を良く見せるために、改ざんや不正な配賦計算を試みている」ということ。
一般的に配賦計算により収益・費用を配分する場合、恣意的配分のリスクがあります。
(これとは別に、明らかに直接費のように配分するべきものを間接費的に配分するのが非合理となるケースもあると考えられますので、ケースバイケースで見ていくことが大切ですが)
監査法人の監査でもそのあたりをよく見極めてリスクに対応した手続をした結果、今回の指摘に繋がったのではないでしょうか。
減損の回避を目的とした手口に仮説をたてるとすると、店舗ごとの損益の計算をゆがめること、とりたてて決算で簡単にぽんと伝票を入れるリスクや配賦計算を操作することが思い浮かびます。
いずれにしても今回で共有しておきたいのは、「配賦計算の怖さ」です。
「そもそも」の計算に合理性がないことによって、本当は減損すべき店舗なのに、減損を回避し続けている可能性があるのです。この「そもそも」をないがしろにせず、しっかりと検証をしていかなければなりません。「昔決まったから」「ルールだから」という理屈とはいったん切り離して、常に妥当性について納得して思考し、進む必要があるのです。
監査というのは、こういうところに時間を配分できるように組み立てていく必要があるとは思いますが、内部監査部や経理部などによるレビューの視点・ポイントの一つにもなると思います。
非常に参考になる事例でした。追加の調査結果についても確認をしていきたいと思います。
なお、この一連の影響によって、会社は過年度5期に遡り業績数値及び財務数値を修正する予定だそうです。赤字化するなどして減損処理が必要な店舗が17 店舗程度となることが見込まれ、相当な影響を与える可能性があるとのことです。
誤謬ではなく不正を原因とする訂正なので、訂正作業に追われる経理部の方は気の毒だと思います。