(IFRS16)リース期間の検討実務

  • 2019年6月21日
  • 2020年12月7日
  • 会計

IFRS16のリース期間の検討は本当に難しい

IFRS16の検討にあたり、最も苦労する点は何かと言えば、

リース期間の決定についてですよね。

今回は、IFRS16適用を見据え、またきたるべき日本の新リース基準の導入に備え、

「どのようにしてリース期間を考えていけばいいか」で悩まれる方のため、実務の導入経験や聞きまわった話をもとにヒントを述べていけたらと思います。

断言できますが、ほぼ100%、IFRS16など新リース基準の担当者の方はリース期間で悩むことになります。

そのような頭を悩ませているご担当の方がこの記事を読むと、以下についてわかっていただけるかと思います。

・だいたい実務ではこんな感じで決めているのかなという感触

・経験者が、どこで悩んだのか

でははじめていきます。

リース期間の定義は何よ?

リース期間は、IFRS16において以下のように定義されています。

リース期間(lease term)

借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の両方を加えた期間

 (a) リースを延長するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使することが合理的に確実である場合)

(b) リースを解約するオプションの対象期間(借手が当該オプションを行使しないことが合理的に確実である場合)

(a)はまだわかりやすいのですが、(b)が分かりにくいですね。

(b)のカッコ内が否定の肯定になっているためかと思います。

その理由として考えられるのは、リース期間の定義の仕方にあります。

リース期間=解約不能期間+(a)+(b)という、足し算的な定義になっているからだと思います。

リース期間の定義をイメージ図にすると以下のようになります。

そして定義的には、この(a)と(b)をどのように解釈するかによって、IFRS16でいうリース期間が如何様にも変化してしまうことになります。

実際に、リース期間の検討の中心はこの(a)(b)になってくると思います。

では一般的に、どのような考え方で実務上の検討を進めればよいでしょうか。

”合理的に確実”って何よ?

ここでおさえておきたいキーワードがあります。

それは、「合理的に確実」という文言です。

数値でいうと、一般的に「80%程度」と考えられているようですが、あくまでそれは感覚値のようなもので、絶対的ではない。

英語(IFRS16原文)でいうと、合理的=「reasonably certain」ということですが、

辞書を引けば、合理的とは、「道理や論理にかなっているさま(出典:Goo辞書)」とあります。

要するに論理的で、理屈が通っていなければなりません。

「●●という理由・事情があるから、リース期間は△△年とする」というのが一つの目指す形になります。

しかし、実際これほど難しいことはありません。

特に、不動産リースの検討は大変に難しいと感じます。

なぜなら、解約しない可能性もそうですが、将来延長する可能性(延長する回数)を数的に見積るのは極めて難しいためです。

検討①

個人的には、以下のSTEPで検討するのが、よいのではないかと思っています。

STEP1:基準で明確に記載されている借手のインセンティブを検討する

基準には合理的な確実性についての検討に資する余計な指標ヒントが、例えば以下のようにいくつか記載されています。

企業は、借手がオプションを行使すること又は行使しないことへの経済的インセンティブを創出するすべての関連性のある事実及び状況を考慮する。(IFRS16.B37)

★(a) オプション期間に係る契約条件(市場のレートとの比較で)

★(b) 契約期間にわたり実施された(又は実施予定の)大幅な賃借設備改良 で、リースの延長又は解約のオプション、あるいは原資産を購入するオプションが行使可能となる時点で借手にとって重大な経済的便益を有すると見込まれるもの

★(c) リースの解約に係るコスト(交渉コスト、再設置コスト、借手のニーズに適合する他の原資産を特定することのコスト等)

★(d) 借手の業務に対しての当該原資産の重要度(例えば、原資産が特殊仕様の資産かどうか)

★(e) オプションの行使に関連した条件設定

★借手が特定の種類の資産(リースであれ所有であれ)を通常使用してきた期間に関しての過去の”慣行”

これらは例示されているものであり、実務でも重要なものは個別物件ごとにアンケートなどで検討するのではないかと思います。

しかし、仮にこれらの要素に該当することになったとして、じゃあ延長期間は何年にしますかという問題点が浮上します。

ここが重要で、延長オプションの行使については、最終的には「何回延長するか」という数字に落とし込まねばなりません。

もし上記の借手インセンティブで合理的な延長年数にまで落とし込めたなら、それはそれでOKです。

しかし、この落とし込みには十中八九判断が介入するため非常に難しく、単純に年数に置き換えることが難しいことも多いです。

ましてや、上記の要件からはほとんど何も見いだせない場合には、どうしたらいいのか。

この場合、割り切りが必要になってくると考えます。

STEP2:割り切り=リース契約期間を検討する

結論として、「リースの契約期間」を目安値にすべきかと考えています。

リースの契約期間というのは、貸手と借手が、この年数は賃貸借しますと契約した年数です。

そのため、リース期間の一つの区切りとなります。

このリース期間をベースに延長の会社意思決定がされるはずです。

したがって、

延長の確実性は正直よくわからない

一方でリース期間は契約してしまっている

ひとまずリース契約期間=合理的に確実な期間と考える

というロジックで、リース期間を決定します。

決して消極的ではなく、合理的確実性について客観的に考えた結果という位置づけです。

不動産なら2~3年になるでしょうか。

もちろんこの場合、「バックテスト(事後的見積検証)」にて、実際は3年でおさまっていないぞ!と指摘される可能性があります。

しかし、「だったらどうすりゃいいの!?何年にすれば満足なの!?」と主張したいところです。

個人的に、このリース期間の決め方は非常にいやらしいというか、

ある種の人間の限界を超えた要求である気がすると同時に、このような見積の仕方で財務諸表に計上する場合、数値が見積によって大きく変動してしまうというリスクを感じています。

また、このような難しい会計基準を、それっぽい大義を掲げるだけ掲げて作ることで、企業の長時間におよぶ検討に対する専門家による多くのアドバイス、監査人への相談という工数を強制的に発生させ、会計士がカネ儲けを激しくやっていこうとしているのではないかとすら、思えます。あんまり誰も言いませんが、企業(投資家も含む)にとっては労力のわりに得られるものが少ないように思われるため、ふつうの人間は、そのような見方をすると思います。

企業としては、過大な資産や負債の計上を防ぐとともに、急激なBS数値の変動を避けるためにも、納得感のある期間での計上が”合理的”であるように思います。

ちなみに、日本では不動産の契約期間は2年~3年が多いですが、

国家によっては5年等が主流の場合もあるそうです。

その場合、国家によってリースの計上額が相違することになりますが、

これは国際会計基準の限界でもあるように思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

なんだそんなことか、と思われた方も多かったと思います。

しかし、基準を真面目に読んでしまうと、あんなことも書いてある、こんなことも書いてある、とアタフタすることも多かろうと思います(私がそうでした)。

しかし一度立ち止まって、冷静に基準趣旨から考えると、

基本的に無茶な見積はできないことがわかります。

監査法人も、無茶なことは言えないはずです。

自社にとって、ベストな会計数値算定ができることを目指して、私も情報収集し、書き連ねていけてらと思っております。

(注意)本記事はあくまで筆者の個人的見解であり、実務上の判断を保証するものではありません。会計処理には判断を経ることが必要になるため、何卒ご理解いただければと思います。

★新旧リース会計のポイントについては、こちらもご覧ください!