【有価証券報告書 注記の訂正事例でわかる作成/記載要領】ファルテック 滞留在庫評価損等

Contents

概要

株式会社ファルテックは、平成30年3月13日において、「特別調査委員会の調査報告書受領と今後の対応に関するお知らせ」を公表しています。

本件は不正により過年度遡及修正となったものですが、その調査報告書は130ページを超える大作になっています。非常に丁寧に記載されており、経理部・監査役・会計監査人・内部監査人など関係者が認識しておくべきヒントで溢れています。

今回も、予防策を考えるためのエッセンスのみを抽出し、この記事や報告書を読まれた方が同様の事例に対応できることを目指したいと思います。(毎回のことですが、私見まみれですのでご容赦を)

 

内容

1.長期滞留在庫の棚卸資産評価損隠し

手口

(1)評価損のルール

会社には以下のような長期滞留在庫(営業循環過程外のもの)の評価損に関するルールがありました。

1. 部品・用品・電装の区分けなく以下の方式を採用する
2. 「1 年間動きのない物(=移動以外の在庫受払がない物)」の原価を90%減、2 年目95%減、3 年で100%減する

※受払とは、在庫の入出庫のことを意味し、それぞれ、「受け」が入庫、「払い」が出庫を意味する。

※受払の代表的な例は、「販売」による出庫である。

2.は、仮に在庫Aに関して1年間動きが無かった場合、営業循環過程外にカテゴライズされ、記載のとおりのルールで評価減が計上されるものです。

 

(2)手口

このルールがある中で、以下の手口によって評価損を過少計上することが行われたようです。

①1個廃棄

会社は上記2.適用にあたって「受払」の内容を定義していましたが、その中には販売(出荷による払い)以外にも、「在庫品(死蔵品)廃却」や「製造中廃棄および品質状態変更廃棄」が含まれていました。

これは、出荷による払出がなくても、廃棄の実績が1個でもあれば、営業循環過程内にあるものとして扱われることを意味します。

ここが盲点でした。

会社は「在庫品(死蔵品)廃却」等が受払の一つに含まれていることを利用して、実際には廃棄をする理由がないにもかかわらず、低価法の適用を免れるために、1個又は少数の在庫を本件システム上で廃棄の受払を発生させる(本件システム上の処理で済むため、実際に廃棄が実施されるかは問題とならない。)ことで、残りの在庫が低価法の適用対象となることを免れ、評価損を計上しないという処理を行っていたようです。

言い換えると、意図的に在庫の受払を生じさせることにより、長期滞留在庫が営業循環過程にあるように偽装し、長期滞留在庫に対する低価法の適用を不当に免れたということになります。

②仮装経費移管

手法・考え方としては①と似ています。

つまり、実際には移動させる理由がないにもかかわらず、低価法の適用を免れるために、意図的に、本件システム上の処理として、在庫の一部を生産管理部に移動させたことにして出庫扱いとし、「受払」を生じさせていたものです。

この場合、処理をした月の翌月に、再度本件システム上の処理として「経費移管」の処理を行い、当該在庫を本社の生産管理部から元々の保管場所に戻したことにして(再度実際にある場所と本件システム上の保管場所が一致することになる。)、実際の在庫の数と帳簿上の数量とが合致するように調整していたようです。

 

③仮装工場間移動

これも②と基本的に同じです。実際には移動させる理由がないにもかかわらず、低価法の適用を免れるために、意図的に、本件システム上の処理として、在庫の一部を他の工場に移動させたことにしたものです。

上記は要点になりますので、詳細は同社HPの調査報告書をご覧ください。このルールに至った生々しい経緯も記載されています。

発生原因と対策考察

上記いずれも、ルールの虚を突いた手口だと思います。

直接的な発生原因としては、「ルールの虚があり(機会)、それを利用するインセンティブが実行者にあったこと(動機)」でしょうが、

大量の在庫を保有する企業においては、このように社内ルールにて在庫評価を実施しているケースは多いと思います。

普通、「1年間動きがない」と聞くと、「販売がない」ことを連想してしまいがちですが、実際の規程をくれぐれも確認する必要があります。

本件に限った話ではないですが、思い込みほど恐ろしいものは無いです。

在庫の受払を発動条件とする場合は、実際に不正が行われ得るということを覚えておきたいと思います。

そもそも何のためのルールなのかという点を常に考えて、実態を評価に反映させることができているのか、常に考えていくべきですね。

具体的な対策としては、以下を思いつきました。

・「受払」が発動条件になっている場合における、在庫の移動、振替などの実質的でない受払への対処

・そもそも動きの少ない在庫が怪しいとの観点から、推移のグラフ化や増減分析を試みること(∵動きが僅かな在庫について評価損が十分に計上されていないとしたら、ルールがおかしいのではないか!?という発想を持つために)

・実地棚卸立会の際に、廃棄予定との説明を受けた在庫を発見した場合、その追跡・アフターフォローをする。もし放置されたままになっている在庫がある場合、さらに追跡する。

(⇒実際に監査役が過去と同じダンボールが廃棄されないままになっていることに気付き、その端緒の追跡から本件発覚に繋がっています)

棚卸についてはまたどこかで別に書きたいと思っていますが、滞留在庫についてはくれぐれも目を光らせましょう。拠点は忙しい中で棚卸の準をしていますので、注意深く観察すれば、大小別にしてなにかしら発見事項は出てくるものです。

2.棚卸差異を避けるための不適切な在庫操作

手口

会社は年に何回か棚卸を実施していましたが、在庫の廃却入力処理が適時にされていないことなどを理由として実際在庫数量が適時に把握されず、毎回棚差が非常に多く多額になるという特徴があったようです。

その中で、会社内のプレッシャーなどいろいろな要素が働いて、実際残高が帳簿残高より少なくなる棚差を隠すために、システムに入力する実際棚卸数量を改ざんして多く見せかけることが行われていたようです。

拠点によって細かい手法は異なるようですが、一例としては以下のようなものです。

実地棚卸を行うに当たり、①製造課の棚卸実施者が、実地棚卸数量記入表に記載されている数量を本件システムの棚卸数量欄に入力し、全ての棚卸のカウント及び実地棚卸情報の登録作業完了後、②管理課において集計し、棚卸確定処理を行うまでの間、管理課担当者は、社内コンピュータ端末を使用して、本件システムのオンライン画面から、実際には在庫数量が存在しない又は少ないにもかかわらず、経理部から実地棚卸前に配布された追加棚札(手書き棚札)のうち実地棚卸の際に使用しなかったものの整理番号を使用して、架空の棚卸数量を入力した。

発生原因と対策考察

棚卸結果の入力者と確定処理者が異なるという意味での職務分掌はされていましたが、肝心の確定処理者(管理課)の側に隠蔽のインセンティブがあったためか、改ざんを働いてしまったようです。

ここで、個人的に仕組みとしてまずいと思ったのが、「②の管理課が架空の数量をインプットできる仕組み」です。

追加のインプット権限はあくまで①製造課やシステム部に限定するなどの仕組みづくりは必要だったのかもしれません。

実務的には面倒ですが、入力者とチェッカーを分離して、入力者が入力と修正作業を担うべきです。他の誰かが修正できるとなると、改ざんのリスクを含め、責任の所在や実務プロセスがよくわからなくなるリスクがあります。

このあたりは、実務的な採用の可否を含めて、内部統制を検討する際に、考えていかなければなりません。

3.売上の調整(中国子会社)

こちらは簡単に記載します。

財務部が作成・管理している売上高や売掛金残高については営業部からの情報に依存せざるを得ないが、営業部が管理する売上データ自体に誤りが多数発生している(∵エクセル手入力)。また、財務部が売上計上処理を行う際に、エクセルシートに誤った計算式を入力することによって売上計上処理に誤謬が生じてしまうことがある上、営業部から財務部への連絡漏れによって、営業部が管理する売上データと財務部が管理する売上高や売掛金残高に差異が生じてしまっている。

売掛金の残高が、客先に請求可能な売掛金の残高に比して、過大であることが財務部の売上計上の担当者によって発見された。

売上高を毎月10万元ずつ、過少に計上することにより前年度の売上高過剰計上を減額するという不適切な処理を行った。

 

上記のように、エクセルによる正確な管理が徹底されていないことにより誤謬が発生し、その誤謬を穴埋めするために不正な調整を行ったというものです。

 

なお上記3つの案件に共通した発生原因として、「マネジメントからの厳しい現場への叱責」について触れられています。

ビジネスにおいては、「結果を求めるが、具体的な手当ては現場に一任する場合」があります。

そのような厳しい環境を経て、従業員は強くなっていく側面はあります。

しかし、「できないことを求める」と、不正のインセンティブになることがあります。

現場への要求水準が過度に高まるほど非違事例の発生リスクが高くなることを見越して、行動しなければなりません。

「できないこと」がある場合、どうすればできるようになるのか、マネジメントの主導のもと、冷静に考えていくことも必要なのだろうなと思います。

 

まとめ

まとめるのも難しいのですが、汎用可能な実務でのチェックポイントをあらためて記載します。

・在庫評価のルールにおいて、「受払」が発動条件になっている場合における、在庫の移動・振替などの実質的でない受「払」への対処はできているか?!

・棚卸の入力結果を改ざんできる仕組みとなっていないか!?

・中国子会社などにおいて売上の管理をエクセルでやっている場合に、顧客都合などが相俟って誤りが頻発していていないか!?していたとして、その誤謬が隠蔽されていないか!?(元資料の入手を試みるなど)

本案件も貴重な情報になると思いますので、情報の受け手として、これを活かしていきたいと思います。