【有価証券報告書 訂正事例】ディー・エル・イー(DLE) 曖昧な収益認識基準と前倒計上

【発行体カテゴリー】

東証1部

【監査法人カテゴリー】

Big4

【訂正箇所】

有価証券報告書 全般

【訂正事実】

・本件は不正事例になるので、第3者委員会による調査報告書が公表されています。合計171ページにおよぶ超大作になっています。

・本案件における不適切な会計処理は、売上前倒しをはじめとして合計13個紹介されております(P.31)。

もの凄い数ですので、個人的に伝えたいと思った案件について、学びを深めていきたいと思います。

【訂正内容詳細(推測含む)】

1.DLEのビジネスの理解

①概要

・DLE は、IP (Intellectual Property:著作権等の知的財産権) の新規開発から、キャラクター等の IP を活用した事業を展開。

・これは2つにわかれていて、(1)ソーシャル・コミュニケーション領域 と(2)IP クリエイション領域になります。

→(1)では IP を利用した広告・マーケティング・課金・ライセンス・イベント収入、(2)ではIP の映像コンテンツの企画開発・制作と展開プランの策定・実行等による、制作・ IP プロモーション収入が収益になるようです。

→要するに、DLEはキャラクターというコンテンツを用いて個人消費者へ直接または間接的に商品や映像を届ける課程で収益を得るビジネスモデルを展開している会社であると理解出来ます。

②製作委員会ビジネスとは

・DLE の映像制作にかかる収益は、主として案件ごとに組成される製作委員会方式の下での売上になります。本案件を理解するためには、この製作委員会という特徴あるビジネスモデルの理解が必要になります。

・製作委員会とは、映像作品の制作のための資金調達や複数の関与者間の利害調 整を円滑に行うためなどの目的で組成される民法上の組合で、一般にテレビ局や配給会社等 が製作委員会の出資者となります。

・複数の出資者が存在することから、委員会の円滑な運営や分配金の収支報告等のために、出資者を取りまとめる幹事会社が置かれますが、幹事会社は決定すべき事項を単独で判断できるのではなく、原則として出資者全員の同意が求められます。

・映像製作の過程は、大きく「企画」→「製作準備」→「製作」→「編集」で、このうち最初の「企画」は、”映像作品の原点となるものであり、コンテンツの土台構想を発案して、その実現のために、予算や資金調達の方針を策定し、原作者や監督等の交渉を行うなど映像作品を制作することの決定、及び当該企画についての主たる他の出資者との合意を得るまでの一連の活動”と説明されています。

→なんだか難しいですが、「企画」はプロジェクトの成否を決定づけるための最初の重要な過程であると理解出来ます。

→製作委員会はよく映画やアニメなどで見られる方式ですが、要するに原作コンテンツをもとにしてこれを広げていくためのプロ集団が委員会で、1次利用や2次利用に基づく収益を発生させ、稼いだ資金を分配する機能があると理解できます。

→製作委員会の出資者は、出資額を資産計上し、組合員として分配金を受領する際にこれを収益計上することが多いです。

2.DLEが採用していた会計処理方針

 (1)企画売上

会社の採用する日本基準では、収益を認識するためには①「財貨の移転又は役務の提供の完了」、及びそれに対する現金又は現金等価物その他の資産の取得による②「対価の成立」が必要となります。

①認識時点

・DLE の映像制作事業においては企画業務の役務提供が完了したと判断した時点(=で企画内容の合意 に至った時点)において、企画・制作費総額の20%相当額を企画売上(DLE では「プリプロ売上」と呼称することもある)として計上していました。

・その根拠は、製作委員会の共同出資者となる会社との間で結ばれる「合意書」にあったようですが、これは企画売上計上時ではドラフト段階にとどまることもあり、その都度100%役務提供の事実を示すものではない(または証拠として弱い)可能性があったようです(そもそもDLEが制作委員会の出資者=発注者であると同時に、受託制作業者であったことから、証拠足りえるのかという点にも触れられています。)。

 ②収益の測定

・DLEは、”合意書等で企画に対する対価の額が定められていなくとも、相手方は企画に対して価値を認めており、DLE の過去の実績に照らすと企画・制作費の20%相当額の代金の支払義務の成立が認 められる”、または”合意書等に合意解除時に20%相当額を相手方に支払う旨の違約金条項がある場合には、これを収受できることが担保されており、同額の企画売上を計上するこ とが認められる”という立場であったようです。

・しかし、調査委員会は、”DLEの企画に価値が認められるとしても、相手方との間に代金を支払う旨の合意が成立しなければ代金の支払義務は生じ得ないことから、合意書等において代金の支払義務が定めら れているなどの事実によって、かかる合意の成立が認められない限り、少なくとも「対価の成立」の要件を満たさないと言わざるを得ない”と、これを否定しています。

また”違約金条項は損害賠償額を予定するものであり、企画業務の提供に対する対価であるとは認められない”としています。

→これに関しては、過去の実績云々を根拠にするのは、やはり弱い気がしますね。相手方と金額(支払義務)に関して完璧には合意ができないという状況は業種によってはあり得ますが、やはり収益認識の足元で金額の合意ができていないというのは、相当いい加減な状況だと評価されたようです(IFRS15でも注意が必要だと思われます)。

(2)制作売上

 ・企画売上を計上している案件→企画・制 作費総額のうち企画売上金額相当額を除いた金額を、企画売上を計上していない案件→企画・制作費全額を、納品時に制作売上として計上。

・当該売上は、製作委員会又は制作の委託者の納品受領書に記載された受領月に計上さ れている(例:テレビ放送→放送前に納品された話数ごとに売上が計上、映画上映→上映開始日またはそれに先立つ試写会や上映前のプリセールスイベント前に成果物が納品され、制作売上計上)

・DLE の映像制作事業においては、制作を担う DLE が製作委員会の幹事会社となる場合が大半であり、その場合、制作受託者として納品書を発行し、同時に、製作委員会の幹事会社として、納品受領書を発行する。

そのため制作売上計上日は、プ ロデューサーの判断や処理によって必ずしも統一されておらず、納品日基準は、形式上は委託元である製作委員会の納品受領書によって根拠付けられているものの、 実際の納品日/成果物の完成日と乖離していることもあった。

3.各案件の考察

以上の理解をもとに、代表的な不正案件について以下概要のみ記載します。案件の数が多いので、他にも是非目を通してみていただきたい。

No.は、調査報告書中の案件番号です。

✓企画売上

・製作委員会の出資者の一部が企画日の金額を契約書類に記載することに難色を示したなど、契約上20%で支払うことが確認できないにもかかわらず、20%相当額を収益計上した事案(No.1,3,5,6,8,9)

✓その他

・意図的な費用の繰り延べ(No.2)

・別案件への外注費の付け替え(No.3)

【発生理由(推測・仮説)】

調査報告書において、以下が挙げられています。

1.事業計画達成の重視と、これに向けたプレッシャー(マザーズから東証1部への昇格に対する強い意欲とプレッシャー)

2.内部統制の不備(特権IDの濫用ができる環境)

3.曖昧な企画売上の計上基準

このうち特に、やはり1.の要素は大きかったようです。不正の直接の原因になる事象です。何気に、2.もショッキングでした。

【教訓/コメント】

・製作委員会という、会計の世界でも曖昧色の強い領域において、曖昧な会計方針にて収益を計上する環境が特徴的な案件。曖昧さの残るビジネス環境においては、会計処理にも要注意と思料しました。

・エビデンスや証拠無き収益計上は、基本的にNG。エビデンスと矛盾する事象には、要注意です。しかし、だったら本件において、監査などでどのように対応すればよかったのかという点を具体的に考えると、極論すれば「20%など具体的な数値記載のない合意書では、企画売上を収益認識できない」との結論になるかもしれません。このとき、「遅すぎる収益認識」の程度が問題になるかもしれませんが、一般に収益は確実性の高い状態で認識すべきですので、実際はあまり問題にならないと思われます。

・本報告書でも多用されていますが、現代のフォレンジック技術は凄いですね。eメールのログは簡単に取得されます。現代ではeメールやコミュニケーションツールを利用しない取引のほうが少ないのではないかと思われるため、そもそも粉飾しようなどと思わないほうがよいと思いました。結局、すべてバレます。

本調査報告書においては、非常に生々しく当事者間のやりとりが再現されています。万人が不正を行うことによって自分に跳ね返ってくるリスクを、強く認識すべきです。