経営研究調査会研究報告第65号「近年の不正調査に関する課題と提言」の公表

日本公認会計士協会(経営研究調査会)が、経営研究調査会研究報告第65号「近年の不正調査に関する課題と提言」を公表

「不正調査ガイドライン」は、主に公認会計士に企業等から不正調査業務の依頼があった場合の、一連の業務に関する概念や留意事項等について体系的に取りまとめたものであり、不正調査業務を実施する際に、十分に尊重し参考にすることが期待されています。

しかし、不正調査業務において、「不正調査ガイドライン」が不正調査人に十分尊重されていない事例もあるため、本研究報告が作成されたというのが背景のようです。

確かに、”第三社委員会報告書格付委員会”(委員会の委員会みたいでわかりづらい)なるものがあるように、

最近流行りの不正などに関する調査報告書は、それ自体に疑念を持たれることも珍しくないようです。

今回の研究報告は、そのような時代の流れを受けてのものだと思います。

具体的に何がイケてないと言われているのかについて興味があったので、少し中身をのぞいてみました。

結論から言うと、得るものがありました。

豊富な事例

一体何がいけてないと言われているのか、いまいちピンとこなかったのですが、事例を見ると、『確かに』の連続でした。

今回は、印象的だった事例について、ピックアップして引用記載したいと思います。

事例1-1 第三者委員会の独立性・中立性等の欠如

上場会社A社において、役員の関与が疑われる会計不正が発覚した。この会計不正に関し、同社の役員は、自身の誠実性をステークホルダーに示すため、第三者委員会を組成することとし、その委員として、長年会計コンサルティング業務を依頼してきたB会計事務所の公認会計士を選任した。これを受け、当該公認会計士は第三者委員会の委員になることを受嘱した

ぱっと読んだだけだと、読み流してしまいそうですが、明らかに独立性が損なわれているのではないですかという指摘です。

長年お付き合いのあった会計事務所という時点で、普通は利害関係があるのではということで、”第3者”ではなくなってしまってますよね、ということですね。

事例1-3 不正調査の範囲の縮小

D社の外部調査委員に任命された不正調査人及び当該不正調査人が所属する会計事務所(調査補助者を担当)は、不正調査の依頼者である経営者から調査範囲を限定してほしいという不当な圧力を受けた。その結果、多額の報酬と引換えに、不正調査の範囲を不当に狭め、D社の現経営者に責任が及ばないように配慮した。

”本事例の場合、障害となる問題点を除去するよう依頼者と検討・協議に努める必要がある。それに努めてもなお障害を除去できない場合、業務委託契約を中途で解除することとなる。”

ということで、最終的には選択肢は存在しない状況になっています。

こういう場合、さすがに契約を切りましょう。

事例1-6 会計監査人との相互のコミュニケーション

H社は、決算発表後、有価証券報告書提出前に比較的多額な粉飾決算が判明したため、急遽社内調査を開始した。社内調査は適切に実施されたが、会計監査人への情報共有が遅れたために、追加的な監査手続が実施されることとなり、結果として、H社は有価証券報告書の提出を期限内に完了させることができなかった。

会計監査人に相談すると、いろいろと面倒な手続が増えるのは事実ですが、

監査法人に対しては、有事においてこそ相談すべきだと思います。

目的は事実を解明して通常状態に回帰することですから、有報も期限内に提出するに越したことはないし、それが一つの目標とされるべきですよね。

これは、確かに言われてみればそうなのですが、実際に調査する側になると、陥ってしまいがちな罠です。

事例1-7-1 不適切な計画管理

I社から不正調査の打診を受けたJ会計事務所は、事案の複雑性に比して報告期限が近い案件で、かつ、不正調査の経験豊富な人員が他の案件対応のため関与できない状況であったにもかかわらず、若手に経験を積ませたいと考えて当該不正調査を受嘱したため、若手の不正調査チームは試行錯誤しながら不正調査を実施することになった。結果、報告書の提出期限に間に合わず、I社の適時開示は延期されることになった。

J会計事務所の若手が気の毒過ぎますね・・・

見る感じ、相当残業させられてそうですが・・・。

会計事務所ってこういうところがありますね。正直、よく聞く話です。

事務所のトップの仕事の見極めというのは非常に重要だと痛感します。

つまり、できもしない仕事は取らない。

あらゆる事故のもとになりますので。

事例2-1 インタビューの結果に過度に依存した結論付け

T会計事務所は、インタビュー対象者を選定するに当たり、調査委員であるS社役員によりインタビュー候補者を通知され、これに従ってインタビューを実施し、その結果のみに基づいて不正行為はない旨結論付けた。
これに対し、U会計事務所の調査においては、インタビューのみならず、書類の査閲・分析、取引先に対する反面調査等の調査手続を追加で実施した結果、実態を解明することができ、不正行為の特定に至った。

これは実は監査でもあるあるですね・・・。

ヒアリングの証拠力は弱いので、かならずエビデンスを確認しましょうという話。

”不正の手口に有効な複数の手続を実施し、仮説を検証することが想定されており、インタビューの実施のみで結論を得ることは到底できない。”という指摘は、胸に響きます。

同様に、”サンプリングされた抽出取引の調査のみによって結論を推定することは妥当ではない。 ”とも指摘されており、

不正調査=仮説検証アプローチによる実態解明目的、監査=リスクアプローチによる保証目的という根本的な相違があるため、不正の調査においては通常サンプリングにより推定して結論を形成するものではないため、十分に気を付けてくださいというメッセージが込められています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回のは、一部の事例にすぎません。ぜひ報告書をご覧になってみてください。

近年企業不正が起こるたびに、第3者委員会が立ち上げられ、その結果は公表されることになります。

そこで得られた結論をもとに物事が動いていくわけですが、

再調査を余儀なくされたりする事案や、第3者の体をなしていないと指摘される案件もチラホラ聞きます。

明日は我が身ではないですが、いつどこでそのような業務にアサインされないとも限らないですので、今回の研究報告の内容は、肝に銘じておきたいところです。