【会社法】計算書類とは?その意味内容等について解説します

(会社法)計算書類とは?その意味内容等について解説します

こんにちは、アカウンティングファイティングコンピテンシーの哲です。

株式を保有したことのある方ならわかるかと思いますが、

招集通知に決算書が添付されてくると思います。

しかしこの決算書は、「決算書」という名称でもなく、「財務諸表」という名称でもありません。

「計算書類」とか「連結計算書類」とか書かれています。

今回は、そんな計算書類について解説していきます。なお、特に断りが無い限り、株式会社を前提に記載します。

定義

計算書類

計算書類とは、「①貸借対照表、②損益計算書③その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」をいいます(会社法435条2項を筆者加筆)。

第435条  計算書類等の作成及び保存
2 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。

計算書類とは、①BS,②PLと、③その他を指すようです。

では、この「③その他」とは何なんでしょうか。

それは、法務省令(会社計算規則)に記載されています。

つまり、③その他は、株主資本等変動計算書(”株変”)及び個別注記表(”注記”)になります。

(各事業年度に係る計算書類)
第五十九条 法第四百三十五条第二項に規定する法務省令で定めるものは、この編の規定に従い作成される株主資本等変動計算書及び個別注記表とする。
法令上の定義はわかりました。
でも、計算書類の内容は何なのでしょうか。
こちらは要するに、「決算書」です。
ただ、決算書といっても、会社法上の一定の作成ルールがあるので、そのルールで作成されたものは「計算書類」と呼称しましょうということですね。

呼び名はどうでもよい

計算書類という名称は、正直重要ではないです。呼び名は何でもよいと思います。
重要なのは、会社法が、会社法独自の決算書を計算書類と呼んでいて、独自の規制(ルール)を敷いているという点です。そしてその規制は、金商法(財務諸表)よりも弱いことが多いのです。
この、ルールの縛りの「弱さ」は、重要です。
例えば、仮に会社法が計算書類を定めることなく、金商法で定める財務諸表とその注記の作成を、すべての会社に義務付けたとしたら、どうでしょうか。
結構、キツイです。
なぜなら、金商法の財務諸表は、その財務諸表を必要とする潜在的な投資家すべてに向けての情報ですので、作成のレベルは高く細かくなり、分量も増えるためです。平たく言うと、上場会社レベルなのです。
ですので、計算書類という考え方を取り入れることで、上場会社よりはるかに多い中小企業含む日本の会社の便宜を図っている側面があると考えられます。
なお、金商法と会社法の違いについては、こちらでもまとめていますので、ご覧いただければと思います。

計算書類「等」

ここから、少し細かい話です。

計算書類の定義を上記で触れましたが、実際に目にするときは、「計算書類等」というように、「等」の文字が付されていることがあります。

この等は何を指すかという話です。

答えは、「事業報告と、附属明細書」です。

事業報告は会計面だけにとどまらない会社からの情報提供資料です。

附属明細書は、その名の通り、附属的に説明をする文書です。

まとめると以下ですが、附属明細書は計算書類と事業報告、それぞれに作成されるという点がポイントになります。

「連結」計算書類

一定の要件を満たす会社は、「計算書類」とは別に、「連結計算書類」を作成することになります。

会社法444条
1 会計監査人設置会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る連結計算書類(当該会計監査人設置会社及びその子会社から成る企業集団の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)を作成することができる

3 事業年度の末日において大会社であって金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、当該事業年度に係る連結計算書類を作成しなければならない

上記3項のように、規模の大きい上場会社会社は、連結計算書類の作成が義務になっています。

そして、連結計算書類が何を意味するかというと、以下(一部筆者加筆)の通りになっています。

会社計算規則
第61条 法第444条第1項に規定する法務省令で定めるものは、次に掲げるいずれかのものとする。
一 この編(第120条から第120条の3までを除く。)の規定に従い作成される次のイからニまでに掲げるもの
イ 連結貸借対照表
ロ 連結損益計算書
ハ 連結株主資本等変動計算書
ニ 連結注記表

二 第120条の規定に従い作成されるもの(国際会計基準で作成する連結計算書類)

三 第120条の2の規定に従い作成されるもの(修正国際基準で作成する連結計算書類)

四 第120条の3の規定に従い作成されるもの(米国基準で作成する連結計算書類)

ポイントは、以下の2つです。

  • 連結計算書類とは、(個別)計算書類とは別に、連結BS、連結PL、連結SS(株変)、そして連結注記表で構成されるものであること(1号)。
  • 連結計算書類については、IFRSやUS基準での作成が、会社法上認められていること(2~4号)。

株式会社以外

株式会社以外の持分会社

会社法は、株式会社だけではなく、持分会社と呼ばれるスタイルの会社についても規定しています。

合名会社、合資会社又は合同会社と呼ばれる会社です。

例えば外資系企業なんかでは、合同会社形式はよく見られますね。

これらの株式会社以外の会社でも、計算書類を作成しなければならないのでしょうか?

答えは、YESです。

根拠は以下の通り。

第617条 
2 持分会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表その他持分会社の財産の状況を示すために必要かつ適切なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)を作成しなければならない

ただし、ここで注意点があります。

持分会社は、計算書類の中身が異なる

持分会社の場合は、計算書類は、BS+その他で規定されています。株式会社の場合は、BS+PL+その他でした。つまり、PLがデフォルトで計算書類に含まれていません。

この点を更に深堀りしていきます。

株式会社と同じように、計算書類の中身が定められていますが、記載っぷりが異なっています。

(各事業年度に係る計算書類)
第71条 法第617条第2項に規定する法務省令で定めるものは、次の各号に掲げる持分会社の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 合名会社及び合資会社 当該合名会社及び合資会社が損益計算書、社員資本等変動計算書又は個別注記表の全部又は一部をこの編の規定に従い作成するものと定めた場合におけるこの編の規定に従い作成される損益計算書、社員資本等変動計算書又は個別注記表
二 合同会社 この編の規定に従い作成される損益計算書、社員資本等変動計算書及び個別注記表

つまり、合名会社・合資会社は、PL・社員資本等変動計算書(※株式会社ではないので、株主資本等変動計算書という名前ではない!)・個別注記表を作成すると決意したなら、計算書類とすることになっています。

一方、合同会社では、株式会社と同様に、PL・社員資本等変動計算書・個別注記表が計算書類に含まれています。ただし、附属明細書はありません(不要)。

まとめると、以下の通りになります。〇=必要、×=不要。

計算書類の範囲 株式会社 合同会社 合名会社/合資会社
BS
PL 作成すると定めた場合は、〇
SS(資本等変動計算書) ×
個別注記表 × ×

合同会社、合名/合資会社のほうがラクな設計になっていますね。

これは当然で、そもそも持分会社は株式会社よりも閉鎖的な会社を想定していますので、会社のコンセプトがそもそも異なるためです。

英語名

結論からいいますと、「Financial Statements」で表現している会社を多く見かけます。

情報ソースは、各社の計算書類の英訳版です。

計算書類という文言のために別の表現を使うことのほうがややこしいと思われます。なので、良い訳です。

ところで、ここでクイズです。

会社法上、計算書類等で使用できる言語については特に言及はない。〇か×か。
答えは、×。原則は日本語ですが、不当でない場合は、英語などその他の言語でも表示可能であると、会社計算規則に記載されています。
条文は、以下です。

会社計算規則 第57条 
2 計算関係書類は、日本語をもって表示するものとする。ただし、その他の言語をもって表示することが不当でない場合は、この限りでない。

この「不当でない場合」の例としては、利害関係者に外国人が多い場合などが想定されます。
例えば外資系企業であれば、日本の子会社の計算書類を英語やフランス語で作成することもできるわけですね。
ちなみに、この条文にある「計算関係書類」は、厳密には計算書類等とは異なる意味を持ちます。
すなわち、次に掲げるものを指しますが、通常はロとニが対象になりますね。

イ 成立の日における貸借対照表
ロ 各事業年度に係る計算書類及びその附属明細書
ハ 臨時計算書類
ニ 連結計算書類

色々と用語があって大変です。

ひな形

計算書類を作成する際に、是非参照したいのが、ひな型です。

ひな形を参照することで、百聞は一見に如かず、ゴールのイメージを掴みやすくなります。

経団連

最も有名でよくみられているのは、経団連が公表しているものかと思われます。

ご参考までにこちらにリンクを貼っておきます。

以下が目次になりますが、専門家がこの作成に関与していることもあり、内容的にも、守備範囲的にも、実務的には非常に助かるツールになっています。

Ⅰ 事業報告
Ⅱ 附属明細書(事業報告関係)
Ⅲ 計算書類
Ⅳ 連結計算書類
Ⅴ 附属明細書(計算書類関係)
Ⅵ 決算公告要旨
Ⅶ 株主総会参考書類
Ⅷ 招集通知
Ⅸ 議決権行使書面
Ⅹ 監査報告

我々会計士も、特に更新があった際には必ず確認しますので、実務を行う方は利用しない手はありません。

 

(追記)
2021年3月9日において、経団連のひな型の最新版が公表されています(詳細はこちら)!
修正点に関する説明は、以下の通りです。

2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則等が改正されたこと、「時価の算定に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準」「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の策定に伴い、会社計算規則が改正されたこと等から、所要の修正を行いました。

株懇

経団連以外では、株懇が有名ですが、こちらは会員でないと見れない情報が多いので、参考までに名前だけご紹介しておきます。

日本公認会計士協会

計算書類の附属明細書に限ってですが、日本公認会計士協会(JICPA)がひな形を公表しています。こちらをご参照ください。

追加情報

定義と参考情報

ここでは、計算書類の一つである、個別(連結)注記表の話をさせてください。

個別注記表に記載する事項は、会社計算規則100条~115条にて定められています。

しかし、続く116条にて、以下のような記載があります。

(その他の注記)
第116条 その他の注記は、第100条から前条までに掲げるもののほか、貸借対照表等、損益計算書等及び株主資本等変動計算書等により会社(連結注記表にあっては、企業集団)の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要な事項とする。

これは、「追加情報」と呼ばれるものです。

要するに、いちいち会社計算規則で記載しないけど、「会社の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要」な情報は、追加情報として出してくださいねということですね。

では具体的にどのようなものが追加情報になるのかと言いますと、こちらは「監査・保証実務委員会実務指針第77 号 追加情報の注記について」を参照するのが、有益です。

そして、問題は、この追加情報の開示が義務なのかどうかという点です。

この点、上記「追加情報の注記について」においては、以下のように解説されており、会社法であっても、重要なもので開示すべきものについては、「義務」であるとのスタンスのようです。

20 (略)会社計算規則で明記されていないものであっても、計算書類又は連結計算書類の利用者が会社の財産又は損益の状況に関する適正な判断を行うために必要と認められるもの(会計基準等が要求している注記事項、規則等が求めている注記事項を含む。)については、会社計算規則第116 条に規定する注記が必要と考えられる。

つまり、追加情報は、該当事項があった場合には「できる」規定ではないことに注意が必要です。記載しなければ、正しくないということになります。

なお、以下の書籍では具体的な事例にまで突っ込んで紹介・解説しています。

会社法決算書の読み方・作り方 計算書類の分析と記載例 [ EY新日本有限責任監査法人 ]

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 コロナウイルスの影響

追加情報でトピックとなった一つの事象に、コロナの影響があります。

コロナの影響で営業停止など稼働が減少し、減損会計で大きな影響を受けることがあります。その場合、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の適用においては、会計方針の記載場所などにおいて、「どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示」するために、「追加情報」として記載されていました。

しかし、企業会計基準第31号の適用は、企業会計基準第31号で求められる開示に含まれることが多いと想定されています(第 451回企業会計基準委員会(2021年2月9日開催) 議事概要より)。そのため、コロナの影響は、追加情報としてではなく、企業会計基準第31号の開示とされる実務が想定されています。

ちなみに、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」については、こちらもご覧ください。

「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の理解を深めるためのポイント

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まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は計算書類について敢えて基礎の基礎から解説してみました。

論点は他にも沢山ありますので、また別の視点でも解説を試みたいと思います。