【有価証券報告書 訂正事例】過年度-日本水産

少し古い案件ですが、自戒・公戒のため、引用させていただきます。

1.訂正の内容及び理由

今般当社にて連結決算の中で繰延税金負債の内訳の確認を行っていたところ、過年度に係る繰延税金負債の処理に誤りがあることが判明いたしました。
当社の子会社であるNIPPON SUISAN (U.S.A.),INC.(以下、NSU)は2001年にGORTON’S INC.及びBLUEWATER SEAFOODS INC.、2005年にKING&PRINCE SEAFOOD CORP.を買収し、これに伴いのれん等が発生しましたが、米国会計基準では、会計上はのれん等を償却することが出来ませんでした。
一方、税務上は償却可能な場合があり、NSUでは税務における償却分を損金として税金計算を行い、会計では税効果会計を適用して概ね15年間に亘り繰延税金負債を計上し税金費用(法人税等調整額)を発生させることで会計と税務の処理を合致させてきました。
一方、連結決算での会計処理では、2008年から在外子会社ののれんの償却が必要となり(実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」)、NSUでの会計処理とは別に、連結決算上においてのみ、のれん等の償却を開始しました。本来は、会計上の償却に対応して、NSUにて計上している繰延税金負債を取り崩すことで税金費用を戻す必要がありましたが、繰延税金負債の取崩額が過少になっておりました。

金額など詳細は会社HPを見ていただければと思います。

貴重な事例でもありますので、ここでは発生原因の分析と、どのようにしたら防げたかについて検討したいと思います。

割とシンプルな話で、その道の方であれば「こんな誤りをするなんて」「私ならこんな間違いはしない」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、訂正事例というのは、実は複雑で難解な話というよりは、「気づけた話」、「勿体なかった話」が目立ちます。そのため他人事ととらえずに、貴重な勉強の機会ととらえ、冷静かつ謙虚に事例を分析することが重要であると考えています。本件に限らず人にのしかかった誤りというのは、自分も起こりやすいかもしれない、と客観的にとらえることが大切です。

まず単体の処理については米国の制度を踏まえ、将来加算一時差異の存在に気づくことが大切だったのだと思います。海外の会計や税務の制度というのは、自社で確認するにも大変なところがあるので、監査法人等の専門家を用いて早期に処理の確認をすることが大切だと思います。特に税務については国によってかなり相違があるし、租税条約の有無によっても処理が異なりますので、早めにインパクトの確認をする必要があります。

さて問題は連結ですが、日本基準に沿った処理を指定する18号の導入時に、のれんの償却について議論になり、これを実行したのだと思います。しかし連結上、将来加算一時差異が消滅または縮小したことまで気が届かなかったということかと思います。こののれんの償却話は費用を増加させる話であり、社内調整などに時間を要し、十分に会計処理を俯瞰的に検討する時間を持てなかったのかもしれません。

これに気付くためには、以下が必要なのではないかと推測します。

✓税率差異分析により、PL上異常な税負担率となる原因が発生していることに気付く

✓特にPLに影響を与える重要な連結修正仕訳を計上するときは、常に「税効果の要否」を吟味する癖をつける。連結上、繰延法や評価性引当等によるケースを除き、連結仕訳に対しても資産負債法に基づく税効果が適用されて連結PL税率は実効税率に近くなっているはず、といった一時的な推定が必要。

私自身、同じような話があったときに気付けるようにできればと戒めたいと思います。