2017/9/14の日経新聞より。
未来の会計
著者は「棚卸資産の評価基準」を例に挙げて会計制度の再検討を指摘しています。
会計の前提が異なれば、論点も異なってくるようなことを仰りたいのかなと。
個人的には、会計上の見積に影響しそうだなと。ビックデータや統計学的な見積方法により、より客観的な、精度や説明可能性の高い見積ができるようになれば、より低コストで見積をこなしていくことができます。
あとこの話を見て思ったのが、上記とは少し異なるかもしれませんが、ビットコインの会計処理や、マイナス金利の会計処理です。フィンテックの発展や想定されなかった経済事象の変化により、「一体これは何なんだ?どうすべきなんだ?」に対して即答できない取引が今後も出てくる可能性があります。会計基準による規制はどうしても後追いになりがちですので、「金儲け=ビジネスの仕組み」から考え、時間軸をさらに長くして基準化する視点をもつことも必要になると思われます。
未来の監査
一方、監査における未来像は、JICPAによりIT委員会報告(こちら)のように語られている状態です。
この未来の監査像には個人的には概ね同意および期待しますが、たとえここで紹介されているベンフォード分析は、そのようなアプローチ自体は周知されているものの、期末監査実務では時間の制約等の関係であまり定着しなかった部分もあるのではないかと思っています。ですので、委員会報告の言うとおり、期中監査の考え方の重要性がこれまで以上に増してくるのではないかと思います。その前提として、クライアントが保有する資料のデータ化とこれら膨大なデータを安全にかつ適時に授受できる環境は当然に必要です。
あと、このIT委員会報告では、統計学的素養がCPAに求められるようになると予測していますが、これは正にそのとおりだと思います。
しかし思いかえすと、たとえば統計学的なアプローチである回帰分析を用いた監査手続についても、そこまで実務では定着していないように推測します。監査の要求水準等の関係で、分析的手続に回帰分析を利用して推定値を算定したとして、相当な相関関係があったとしても、許容値を超えて心証を形成できない、といったことが起こるためと推測しています。(あるいは、まさに会計士に統計学的な発想が欠落しているから、心証の形成を妨げているのかもしません。)
これでは、統計学が実務に定着しませんので、こういった点も踏まえて、監査基準を見直したいものです。本件はデータ分析の手法にフォーカスしていますが、ビックデータの時代だからこそ、「何をどうやったら十分な監査証拠を得ることになるのか」をはっきりさせていかないと、何が何やらよくわからなくなると思います。この点は、IT委員会報告では「心証形成アプローチの移行(Ⅲ 7.)」として指摘されています。
たとえば、IT委員会報告が予想するような「データ分析により異常値を見つけたらそれに対応、見つけなかったらスルー」という考え方では、虚偽表示をいかにも適切に計上したように見せかけた不正取引があった場合、異常値とならない可能性があり、監査の失敗に繋がる可能性があります。当然、証憑が偽造されたり誤りがあれば証憑突合でもリスクに対応しきれません。
結局、上記で述べた、「何をどうやったらいいのか」という判断が求められるのです。監査基準がその判断を個別に後押しすることは難しいにしても、具体的な事例やパターン分析を共有していかなければ、実務としても取り組みにくいと思います。
新時代の監査基準にはそのような役割も期待せずにはいられません。