(IFRS15)収益認識 進捗度を合理的に算出できない場合

(IFRS15)収益認識 進捗度を合理的に算出できない場合

今回はIFRS15(収益認識)の中から、収益を一定期間で認識するのか/一時点で認識するのか、および一定期間で認識する場合の

進捗率について考えたいと思います。

一定期間vs一時点

まず、収益認識で主要な論点の一つとなるであろう、収益の認識についてです。

IFRS15では、収益の認識時点について、大きく2つのタイプを想定しています。

①一定の期間にわたり充足される履行義務

②一時点で充足される履行義務

このいずれを適用するかの判断にあたっては、以下のようなルール(順序)があります。

IFRS15.31

企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものではない場合には、当該履行義務は一時点で充足される。

すなわち、まず①一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかどうかを検討し、該当しなければ、②一時点で充足される履行義務として扱うという順序です。

一定期間に該当するための要件

では、①一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するかどうかについては、具体的にはどのようにして検討するのでしょうか。

基準上、その要件ははっきりと示されています。以下です。

35 次の要件のいずれかに該当する場合には、企業は財又はサービスに対する支配を一定の期間にわたり移転するので、一定の期間に わたり履行義務を充足し収益を認識する。
(a) 顧客が、企業の履行によって提供される便益を、企業が履行するにつれて同時に受け取って消費する。
(b) 企業の履行が、資産(例えば、仕掛品)を創出するか又は増価させ、顧客が当該資産の創出又は増価につれてそれを支配する
(c) ①企業の履行が、企業が他に転用できる資産を創出せず、②かつ、企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している。

ポイントは、(a)-(c)のいずれか要件であること。どれかに該当すれば、一定期間で認識することになります。

しかし書きっぷりがとっても抽象的です。

条件(a)

それでも、(a)はまだわかりやすい。

(a)は、履行義務がサービス提供に該当する場合を想定しています。

よく清掃サービスという例が使われます。

掃除を外注する場合、担当者の方が、掃除をすることで部屋なり施設なりが奇麗になっていく。

つまり場所を奇麗にするという履行によって、顧客が部屋を奇麗にしてもらえるという意味での便益を得る。

その便益は、部屋を次々に掃除するたびに、それと同時に受け取っていると考えることができます。

このようなサービス提供型の履行義務であるのに、収益がすべての部屋の掃除が終わらないと計上できないというのであれば、実態にあわない可能性があります。収益認識が遅すぎるからです。

なので(a)はまだわかりやすい。

条件(b)

では、(b)はどうか。

こちらは、建設業や、顧客の工場やラインで、モノの製造を行う場合を想定するとわかってきます。

仕掛品(未成工事支出金)は、建設途中の建物を例にすると、”企業(建設会社)の履行による資産の創出・増価”と捉えられます。

このような仕掛品の増加(工事の進捗)が行われるにつれ、顧客はがその建設物に対する支配を高めていくといえるなら、この要件は満たされます。

この”資産に対する支配”とは、”当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを獲得する能力”、すなわち「その資産を何らかの形で利用して、キャッシュ・フローを得る能力」と考えられると思います。

工事が病院の建設の場合、工事が進むにつれて、病院という成果物に近づいていきますが、それは逆から言うと、その建築物がますます顧客の想定する病院以外の使用がしづらくなっていくことを意味します。

この場合顧客は、ゼネコンの履行によって、日々工事が進捗するにつれ病院を利用してキャッシュを得る能力を高めていくことになります。

このような取引に該当するかどうかが、(b)における検討事項になります。

条件(c)

さて最後が(c)です。

これが一番わかりにくいのですが、一度目的にたちかえりましょう。

ここでは、収益を一定期間で認識するべきかどうかを検討しているのでした。

つまり、企業の履行義務が、最終段階ではなく、その前段階から果たされているかを確認するのでした。

①”企業の履行が、企業が他に転用できる資産を創出せず”というのは、企業の製造した仕掛品に、その企業にとっての価値がないことを意味します。企業が頑張って資源を投入した中間生産物は、その企業にとって転用可能な資産ではなく顧客にとってしか価値がないものであれば、履行の都度、価値が顧客に運ばれているイメージができます。

これが①のイメージ。

②”企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有している”という意味は以下の通りです。

まず①で企業が、その企業にとって価値のないものを作らされているのであれば、せめてやった分は売上として回収しようとするでしょう。

その回収の確実性が、確保されておりますか?というのが②の要件です。

売上金の回収が確保されていないなら、その取引は企業にとって単なる価値の浪費になります。

それが事実だとすれば、回収できないかもしれない金額を収益に計上はできませんので、”収益を一定期間で認識するのではなく、ただ費用が計上されていく”というのが実態にあった処理になるでしょう。

長くなりましたが、この3つを検討することで、収益を一定期間で認識するか、一時点で認識するかが検討できます。

収益を一定期間で認識する場合、各期の収益の測定は、対価総額×進捗率となります。

要件満たしても一定期間で収益認識できない場合

ただし、です。

仮に一定期間の上記3要件のいずれかを満たしたとしても、収益を一定期間で認識できない場合があります。

それが、”進捗度を合理的に算出できない場合”です。

44 企業は、履行義務の完全な充足に向けての進捗度を企業が合理的に測定できる場合にのみ、一定の期間にわたり充足される履行義務についての収益を認識しなければならない。企業は、適切な進捗度の測定方法を適用するために必要となる信頼性のある情報が不足している場合には、履行義務の完全な充足に向けての進捗度を合理的に測定できないこととなる。

45 一部の状況(例えば、契約の初期段階)においては、企業が履行義務の結果を合理的に測定することができないが、当該履行義務を充足する際に発生するコストを回収すると見込んでいる場合がある。そうした場合には、企業は、当該履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまで、収益の認識を、発生したコストの範囲でのみ行わなければならない。

進捗率=分子÷分母であらわされます。分子=足元実績量、分母=総見積量です。

通常、分子である各月の実績時間や実績コストを把握することはできるはずです。

問題は、分母である総予算や、総時間数などが適切に見積れない場合です。

この場合、赤字にならないと合理的に見込まれる(発生したコストを回収できる)のであれば、発生したコストと同額で収益計上できますが、

そうではない場合(回収できるかわからない・・・という場合を含む)、費用だけが先行して計上され続け、収益は最後のタイミングで計上されます。これは、履行義務が一定期間にわたって果たされていることが明らかでも、対価×進捗率の計算がウソッパチになってしまうなら、そんな計算結果は収益の計上額としては意味がない(むしろ有害)からだと思います。

「進捗度を測定する際の目的は、企業が約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の履行(すなわち、企業の履行義務の充足)を描写することである(IFRS15.39)」というのは、そういう趣旨を含む意味だと思います。

進捗率が嘘なら、想定している描写は不可能です。