(株)UKCホールディングス(東証1部)は、2017年7月25日にて、第三者委員会の調査報告書の公表と当社の対応に関するお知らせを発表しました。
本件、まさにエキセントリックで事実は小説より奇なりです。読み応えがありました。
いつものとおり、我々会計士・経理マンが血肉として次に活かすべく、以下に要約と気付事項を記載します。かつてないほどに長文ですので、時間のないかたは、最後のまとめだけでもどうぞ。
Contents
◆本件概要
✓UKCホールディングス(以下UKCHD)は、大手のエレクトロニクス商社。
✓不正の発生は海外子会社(UKC香港)にて。ただしUKCHD経営者が実質的に加担。
✓UKC香港はテレビ取引等に関する商社的な帳合取引を行っていた。その過程で仕入先b社に前渡金を支払う(後の仕入時に仕入勘定に振替⇒この時同時に売掛金/売上計上)が、顧客c社の与信管理をほとんどできておらず、突然経営(資金繰り)が厳しくなった顧客企業を支援するはめに。
✓顧客c社はもともと仕入先b社からの紹介で取引しており、UKC香港はb社とも懇意な関係であった。c社が倒産してこの帳合ビジネスがなくなるのは嫌(∵割と儲かる)なので、UKC香港がb社に支払う前渡金を迂回させてc社への支援金とするスキームが始まった(時間が経てばc社が復活すると見立てて)。すなわち、以下のようなイメージで処理。
①UKC香港が仕入先b社に前渡金を100支払う。仕入計上と同時にUKC香港は売上計上
UKC香港 前渡金 100/現金 100
仕入 100 /前渡金 100
売掛金 110/売上 110
②仕入先b社はUKC香港の顧客c社に100支払う。
③c社はb社(もとはUKC香港)からの資金をもとにUKC香港に仕入代金として100支払う
UKC香港 現金100 /売掛金 100
✓それでも回収は進まず、回収サイトを伸ばしたりしていた。この後、ペーパーカンパニーを介在させたり、売掛金残高を転換社債化するなどいろいろと小細工をしていたが、結局上記売掛金の偽装回収スキームは継続された。
✓前渡金および売掛金の回収は難しくなるばかりであったが、貸倒引当金は僅少な額に留まっていた。監査法人から全額貸倒引当金を計上せよとの指摘を受けるのを避けるため、HDも監査法人に対しウソの説明をしていた。
✓結局、回収できない資産である前渡金や売掛金、転換社債はその多くを減損するべきであったため、過年度訂正することとなった。
◆発覚理由
明確には触れられていませんが、17年3月期決算中にて流石に監査法人か何かが異常に気付き、社内調査が進むことになったと推測します。
◆影響
最初に決算遅延についてプレスした際には、前渡金40億円の一部の回収可能性が・・・と触れられていますが、結果的には累計190億円の修正(前渡金、売掛金、転換社債)となっています。
UKCHDの経常利益は40~50億円程度ですので、直近2期は一気に大赤字になりました。これにより無配にもなり、株主としては茫然とする結果だったと思います。
◆発生原因
第3者委員会の調査報告書で熱く語られていますが、明確な経営者不正ということで、上場企業としてのモラル/体制が不足していたようです。経理担当者は貸倒引当金を適切に計上すべきだとして相談していたようですが、経営者はこれをもみ消した形になります。詳細は報告書をご覧あれ。
◆教訓
さてここが重要ですが、我々としては何を教訓とし、どう活かせばいいのか、です。
まず前渡金による資金還流スキームは、それ自体はこれまで何度もやらかされてきた典型的な粉飾手法になりますが、途中監査法人からの質問に対し、会社から得られたのはウソの回答でした。そうなると監査人としては見抜くのが難しいものがありますが、それを前提に、以下会社と監査法人の接触ごとに考察します。
・2015年3月期において、監査法人は売掛金の滞留(サイト60日が経っても回収されていない)について質問しています。そこで会社からは「c社への直近売上について、UKC香港の承諾なくサイトが75日で発注されたから」と回答されました。
⇒このウソを見抜くことはなかなか困難かもしれませんが、偽装されてるかもしれないけど、まずは75日を証した発注書を依頼・入手することが一つの切り口でしょう。また売主の承諾なく長いサイトで契約すること自体、ある種不自然なので、ここで違和感を感じ、与信管理について詳細を質問できたのかもしれません。実際監査法人もこのような手続を実施していたのかもしれません。けど、修正はされませんでした。
・2016年3月期において、c社へのサイトは270日に延長されており、流石にこれは異様に長いため監査法人が指摘をし、後付けで説明資料が作成されていました。そして結局3月末には未入金であった債権(270日に延長してもまだ回収できずにいた)が、4月に入金進捗した(実際は迂回資金だが)ため、貸倒引当金を計上しなかったようです。
⇒弁済期間の延長は、「貸倒懸念債権(経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権)」のトリガーになるため、貸倒懸念債権としての議論がされたのだと思います。ただ、入金実績があるように見せかけていたので、そこでだまされた格好になります。
⇒思うに、サイトを延長しなければならないほど資金繰りが厳しいのにいきなり4月になって回収されるというところで、「迂回資金取引」の可能性を脳裏によぎらせねばならなかったのでしょう。もちろん先方の経営努力で改善することもあるでしょうけど、「迂回資金取引でないこと」を証拠づける手続が必要だったのでしょう。この時点で粉飾に気付くにはそれくらいしかないのではないでしょうか。調査委員会はUKC香港とC社の銀行取引記録を調査し、前渡金の迂回取引の事実を確かめていますので、そういった追加手続が必要だったのかもしれません。こんなのは普通の監査手続ではないので、完全に有事の対応ということになります。
・2017年3月期における、1Q、2Q時点においてもまだ回収遅延が発生していたため、ある程度の貸倒引当金を計上していました。実際はもっと計上すべき状態でしたが、監査法人としてOKを出していました。
⇒1Q時点の6月末の未入金については、8月に回収されて回収遅延が解消されるという、上記16年3月末と同じ様な状態になっていました。2Q末では直近3年の実績率を使用して貸倒引当金を計上しましたが、これは一般債権の貸倒引当金計上方法であり、結果的には一歩足らずでした。
・その後、会社は売掛金の転換社債化を監査法人との相談もなしに進めましたが、そのバリュエーションの前提となる事業計画の重要な部分について根拠が無いことが明らかになっており、また担保設定についても同様に根拠がないと、調査委員会から一蹴されています。
⇒転換社債スキームという、なんだかよくわからないことをやろうとしていますが、結局、発行体がヤバい状態なので、何をやってもヤバい(資金は生成されない)ということで、このシナリオ/ストーリーにどこまで近づけたかが、監査人にとって正念場だったのだと思います。具体的な監査手続は不明ですが、調査委員会の実施したような手続をできたのか、どこまでやれたか、というのが争点なのだと思います。
◆まとめ
以上、超長い文章となりましたが、総合すると以下が重要かと。
✓回収遅延があった場合、前渡金等を利用した資金還流スキームの可能性に気付き、仮説をたてる。「そのスキームが存在しないこと」を立証するための証拠を納得できるまで集める(会社の説明は受け入れつつも、具体的な不正スキームの可能性に思いをはせ続ける)。
✓上記仮説を念頭に、回収サイトの延長、なぜか4月とか8月に売掛金が回収される事実とその理由、転換社債化、などの特殊な事象の発生について、その意味するところを吟味する。
✓経理が弱い体質、重要事項であるにもかかわらず取締役会での検討が薄いこと、与信管理体制が一般的な商社に比べて弱いこと、海外グループ会社の管理体制が弱いことなど、「海外の管理が弱そう」という前提の把握(全社的なリスク評価)にもアンテナを張っておく
結局、「こういうスキームがありうる」という不正リスク評価をどこまで出来たか、そしてその可能性は少ないというのをどこまで説明できたか、どこまでの追加手続を実施できたかというところが勝負の分かれ目かと思います。
言うは易しというのは重々承知していますが、一つの不正のパターンとして、頭に入れておくべき事例だと思います。