あくまで誤謬ですが、訂正内容が非常に惜しい(気づいて訂正を防げた可能性があった)事例ですので、我々も肝に銘じておく必要があるかと思い取り上げます。
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■訂正の経緯・理由
・従来、税効果会計において、土地の繰延税金資産(DTA)は計上していなかった。
・H27年3月期末(2015年3月末)においても、ある土地について減損損失を計上したが、このDTAは計上しなかった。
・しかし今回、当該減損損失の対象となった土地の中に、以前合併に伴いDTLを計上した土地(土地再評価益とは異なると思われます)が含まれており、正しくはそのDTLを取り崩すべきであった。
・これを是正すべく(借方:DTL / 貸方:法人税等調整額)、訂正した。
■発見のきっかけ
不明
■本件のポイント
ポイント1 税効果会計の考え方
この論点自体が、会計監査六法のどこかに直接記載されていたかといえば、そういうわけでもないと思います。しかし、この場合に適用するべき考え方は、以下の箇所から理解可能です。
・減損会計適用指針 設例10(土地再評価差額金のある土地を減損した場合の税効果)
この説例より、過去の評価益に対応するDTLは取り崩すことで減損損失と対応し、減損時のPL上の税率が適正化されると理解できます。資産負債法であり、減損損失はPLを経由するので、対応する法人税等調整額が計上されなければ差異解消時において税効果の目的は達成されません。
また、上記で誤っていれば、以下も誤ることとなります。
・税率差異調整
上記のように税効果が実施されなければ、税率差異の箇所で「謎の差異項目」が出現するはずです。ここで2015/3月期の有報を見てみると、当初訂正前は「評価性引当の増減」として調整していたようです。
評価性引当の増減は、将来減算一時差異のうち、税効果を計上できないものの増減なので、当初加算一時差異になっていた部分は、いわば「将来加算一時差異の増減=合併により評価益となった金額(減損でゼロとなった)」であり、評価性引当としての集計からは除外すべきでした。
税率差異分析は、ハマるとめんど臭く、場合によってはその他とか評価生引当の増減でごまかされる事があるかもしれませんが、これはかなり危険です。虚偽表示に気づき、訂正報告を防ぐチャンスを自ら放棄していますので、瑣末なものを除き、必ず内容は詰めていく必要があります。
大きな差異の原因が分からなければ、上司に相談してみるとか、図で考えてみるとか、監査人に相談するとか、とにかく人を巻き込んででも解決しましょう。
ポイント2 過去のDTLに気づけたか
今回減損の対象となった土地については、過去合併時にDTLを計上していたわけですが、この事実の把握が抜け落ちていたため、訂正に至ったと推測できます。
ここが一番のポイントなのですが、土地等を減損したときに、その対象物件が「過去税効果の対象となり当初税務簿価と会計簿価にズレが生じている物件であったかどうか」の確認は、必ず必要になります。その物件のパーソナリティを把握するのです。ここで抜けがあると、そのあと気づかないリスクは高まります。
減損するときには、これらを含め情報収集しつつ、①当初取得原価(税務簿価)、②再評価等で税効果が発生した時の会計簿価、③減損後の会計簿価、④減損後の税務簿価 あたりを、整理して図示することをおすすめいたします。めんどくさくても、図にすれば一目瞭然ですので。
ちなみに、会計簿価を集計する際は、帳簿上の土地勘定だけを頼りにするのも実は怖いです。昔は、何らかの減損項目については管理目的等のためたとえば「土地××引当金」のような勘定で起票していたケースもあるので、これらの勘定も集計しないと、正確な会計簿価を集計できません。場合によっては簿外資料を見ないとわからないこともあるかもしれません。担当者は、引継情報に不安があるなら、簿外情報も含めなるべく網羅的な確認を心がけるべきでしょう。
■まとめ
・固定資産(有価証券も)を減損するときは、過去の税効果にも注意!
・税効果の考え方もさることながら、より根本的なお話として、減損対象となった固定資産の税務簿価および会計簿価の「履歴情報」を正しく収集することを忘れない!