IFRS15の開示で悩んだポイントの一つ
IFRS15を検討していて、開示事項として悩ましい項目があります。
それは、収益の分解の開示です。
IFRS15では、以下のように記載されています。
新基準では、顧客との契約から認識する収益について、収益及びキャッシュフローの性質、金額、時期及び不確実性が、経済的要因の影響をどのように受けるのかを描写するような区分に分解する(IFRS 15.114, B89)。
企業は、収益の分解開示と、企業のセグメント開示との間の関係も開示する(IFRS 15.115, B87-8)。
区分の例としては、地理的区分、財またはサービスの種類、財またはサービスの移転のタイミング、流通チャネル、市場または顧客の種類、契約の種類などが例示されています。
しかしこれだと例示の視点が多すぎて、何でもいいんじゃないかと思ってしまうわけです。
もちろん、トップラインの説明として最もふさわしいディスクローズを考えていくものと思われますが、実際IFRS適用企業はどんな内容を開示しているのか?
現在検討されている、日本の新収益認識基準の開示実務も見据え、
実際に事例としてどのような開示がされているのか、
公表されているIFRS適用企業の有価証券報告書をもとに研究していきたいと思います。
業種別の研究をしたほうが差異がわかりやすいので、今回は業種:化学で比較してみます。
それでははじめていきます。
各社事例
1.花王㈱
(1)収益の分解
当社グループは、コンシューマープロダクツ事業部門を構成する4つの事業分野(化粧品事業、スキンケア・ヘアケア事業、ヒューマンヘルスケア事業、ファブリック&ホームケア事業)及びケミカル事業部門の5つの事業を基本にして組織が構成されており、当社の取締役会が、経営資源の配分の決定及び業績の評価をするために、定期的に検討を行う対象としていることから、これらの5事業で計上する収益を売上高として表示しております。なお、物流受託業務で計上する物流受託収益は、上記5事業に含まれないため、その他の営業収益に含めて表示しております。
当社グループは、顧客との契約から生じる収益を顧客との契約に基づき、コンシューマープロダクツ事業を化粧品事業と化粧品事業以外に区分するとともに、ケミカル事業を区分して分解しております。また、地域別の収益は、販売元の所在地に基づき分解しております。これらの分解した収益とセグメント売上高との関連は、以下のとおりであります。
なお、当社グループは、2018年1月1日付の組織変更に伴い、当連結会計年度よりセグメント区分を変更しており、前連結会計年度については、変更後の区分方法により作成したものを記載しております。セグメント区分の変更については、「6.セグメント情報 (1) 報告セグメントの概要」に記載しております。
ということで、分解の視点としては、事業(財またはサービスの種類)×顧客の所在地(地理的区分)の2軸で開示されています。
なお少し脱線しますが、物流受託業務で計上する物流受託収益は、売上ではなくその他の営業収益勘定で処理しているようです。こちらは顧客との契約により生じる収益ではありますが、組織構成や取締役会評価の対称軸からは、基本5事業から外れるという理由のようです(全体に対する金額的重要性は乏しい模様)。
地域別の収益は、販売元の所在地に基づき分解されています(顧客の所在地になるとは限らない)。
なお、収益の分解の話からはそれますが、返品負債について以下の通り説明されておりました。
コンシューマープロダクツ事業における製品のうち、化粧品の販売にあたっては、製品の改廃に伴い顧客から一定の返品が発生することが想定されます。顧客が製品を返品した場合、当社グループは当該製品の対価を返金する義務があるため、顧客に対する予想返金について、収益の控除として返品に係る負債を認識しております。当該返品に係る負債の見積りにあたっては過去の実績等に基づく最頻値法を用いており、収益は重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲でのみ認識しております。なお、顧客が製品を返品する場合、当社グループは顧客から製品を回収する権利を有しておりますが、返品は主に改廃に伴うものであるため、返品される製品に資産性はなく当該資産は認識しておりません。
2.ウルトラファブリックス・ホールディングス㈱
分解の視点としては、用途のみというシンプルな仕様になっています。
同社はセグメントは単一になっているため、さらなる分解の視点として用途が選択されたと理解出来ます。この用途の意味は、以下のように有報(事業の内容)においても説明されています。
これにより、情報に無駄が無く、開示上の負担は最小限に抑えられている印象ですね。
セグメントとの関連については、以下の通りセグメント注記の箇所で触れられています(地域別=顧客の所在地別)。
なお、新基準のもとでの開示のレベルは、最高経営意思決定者が企業の業績を評価し、資源を配分するのに用いる情報に限定されない点に留意が必要です。
*業績を評価し、資源の配分に関する決定を行うために用いられるその他の類似の情報も考慮する。その結果、企業は新基準の開示目的を満たすために、セグメントのレベルよりも低い、特定の収益趨勢を開示することが要求される可能性がある。
(引用:図と設例による解説IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(2016年改訂版)より)
3.日本ペイントホールディングス㈱
7.売上収益
(1) 分解した収益とセグメント収益の関連
こちらもやはり事業(財またはサービスの種類)×地理的区分となっています。
セグメントについては、以下のように記載されています(セグ=地理)。
当社グループは製造・販売体制を基礎とした地域別のセグメントから構成されており、「日本」、「アジア」及び「米州」の3つを報告セグメントとしております。
そのため、セグメント収益との関連も一つの表で表現されているという形になります。
4.ユニ・チャーム㈱
当社グループの売上高は、一時点で顧客に移転される財から生じる収益で構成されております。また、各報告セグメントの売上高は、連結会社の所在地に基づき分解しております。これらの分解した売上高は以下のとおりであります。
「パーソナルケア」「ペットケア」「その他」の3つを報告セグメントとしていることから、基本的にセグメント軸×地域軸で分解している形になります。
地域軸は、連結会社の所在地に基づく分類になっています。
セグメントに、地域別の分解を織り込むことによる分解とも言えると思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
分析する業種によっても異なるでしょうが、化学業においても、事業・地域・セグメントの関連で収益を分解して開示している例が確認できました。
会社によっては、かなり省力化している部分もあり、実務的には参考になります。
業種ごとに串刺しで見るとよくわかるので、別の業種でもやってみたいと思います。