経営財務3412号に、時事談論 vol.11「会計情報の有用性」なる解説記事が出ていました。
①最近の会計基準が複雑でよくわからんから、シンプルにしてくれという意見があるが、それは本末転倒ではないか(”複雑な会計処理はけしからんといった批判は見当違いといわざるを得ない。”)
②会計基準の十分な理解のないまま,財務諸表を利用するケースが増えてくると,決算数値をそのまま開示するだけでは,会計情報の有用性が損なわれる。そのため、経営者は自ら頑張って説明すべきだ。
というのが筆者の意見であるように読めました。
②は概ね同意です。会社にもよりますが、確かに現状よりもう少し経営者からの分析やメッセージが前に出てもいいかなとは思います。
ただ最近はIRで出される資料のレベルも上がってきている気がします。
所謂会計数値の説明のみならず、ビジネスモデルの根本についての説明を付加したりといった事例も多くなっているのではないでしょうか。
会社も会計士も、投資家のために働いていると考えられる部分があります。
財務報告をどのように投資家に向けて発信していくかというところについては、実はあまり学習する機会がありません。
私自身、興味をもって学習が必要があると強く感じています。
一方で、①については仰りたい趣旨の部分について概ね同意はする一方で、同意しかねる部分もあります。
確かに、ビジネスの複雑性と会計処理の複雑性はリンクするのかもしれませんし、日々経営環境は複雑化しています。
それにともなって出現する金融商品や退職給付、税効果やストックオプションといった制度の表現は、理解に時間がかかることもあり、
やはりある程度は取っ掛かりが難しくなってしまうところかと思います。
しかし、シンプルさを追求しない場合、大して大きな数値の乖離がないにもかかわらず、投資家目線でみた些末な話に対して膨大な時間とコストをかけて検討しなければならないリスクがあると感じています。
例えば、日本の税法上の減価償却費は、かなり複雑なパターンを経て計算される性質がありますが、これは会計的には理論的には受け入れられないものになります。
そのため、まともに考えると、細かな計算のやし直しに追われる羽目になり、会計上の減価償却費の計算を全てやり直すような話になってしまいます。
しかしこんなものは投資家に影響を与えないものもあるわけです。
そのため、日本基準では税法上の減価償却費をそのまま受け入れるというシンプルなスタンスになるわけですが、これは極めて合理的な判断です。
シンプルさを追求して、投資家利益を確保しつつも実務負担の軽減が図られています。
会計処理のシンプルさは、実務では非常に大切かと感じます。
また、数値の意味を理解するのに、内容が複雑であるほどどうしても理解が追い付かなくなります。
収益認識の新基準の説明を受けた投資家が、企業会計原則時代に比べて企業活動や収益の根本をより理解することになるのかどうか、甚だ疑問です。
同様に、IFRS16で計上されたリース資産・リース負債によって、どれほど投資家の意思決定に影響を与えることになるのか知りたいですね。
特に現状IFRS16については各社・各国でリース期間の判断がバラバラになっている可能性がありますが、比較可能性という意味ではむしろ投資家を混乱させてはいないでしょうか。
投資家利益を置き去りにして、いたずらに制度を複雑にしている側面は本当に無いでしょうか。
確かに、一見収益のようでただの不正な資金還流だったということもあるため、企業取引の実態を反映するというのは本当に難しいことだとは理解していますが、
会計が複雑なのは仕方がないという意見には、どうしても素直に首を縦に振れない気持ちです。