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直近における開示すべき重要な不備
経営財務3414号にて、2018年4月期から2019年2月期決算の上場会社が提出した内部統制報告書において,19社が「開示すべき重要な不備」があり,内部統制は有効でない旨を開示していたことが調査報告されておりました。
多かった不備の内容は「会計処理の誤り等」(9件),「不適切な会計処理等」(5件),「人材不足」(4件)だったようです。
人材不足自体が不備になる状況は昔からある話なのですが、
経理が複雑になりすぎているので、制度対応するためにも多くのコストがかかるようになっていると感じます。
上場会社に求められる要求水準はずっとあがっているなあと感じます。
事例をもう少し詳細に見たい
さて、今回は上記のうち、「会計処理の誤り等」、「人材不足」について、一体具体的には何が起こっていたのか、もう少し詳細な内容を知りたいと思ったため、
実際に内部統制報告書を検索して、そこに記載されている文章を確認することにします。
事例
事例1(東証1部以外)
・当事業年度において事業統廃合や組織再編が行われましたが、その過程で関連部署間の情報伝達・情報連携が不十分であったこと。
・適切な経理・決算業務のために必要かつ十分な専門知識を有した社内の人材が不足していたこと。
・決算業務に関して社内のチェック体制が不十分であったこと。
・これら決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備及び運用の不備に起因して重要な誤謬が発生し、監査人から指摘を受けたこと。
当事業年度の末日までに是正されなかった理由は、決算業務を適切に遂行するべく体制の構築を進めておりましたが、管理部員の退職等に伴い会社内部での情報連携及び決算処理を適切に遂行するための能力と経験を有した人材の補充が十分でなかったためであります。
事例2(東証1部以外)
当社グループは、平成29年12月期に適切な経理・決算業務のために必要かつ十分な専門知識を有した社内における人材が著しく不足しており、決算・財務報告プロセスの各種資料における整備の不備や数値誤り等が複数発覚し、開示すべき重要な不備を認識しました。
平成30年12月期においては、経理人員の補充を進め、不備の解消に努めてまいりましたが、当事業年度においても、連結子会社の経理担当者の退職など、複数の退職者が引き続き発生し、連結子会社の増加に伴う業務量の増加に対応した経理部内における有効な業務分掌や決算進捗管理体制の構築が平成30年12月末までに実施できず、決算・財務報告プロセスにおいて複数の数値誤りが発生し、監査人より指摘を受ける結果となりました。
事例3(東証一部以外)
当社は(略)監査人より次の指摘を受けました。
・経理実務担当者の退職により、適切な経理・決算業務のために必要かつ十分な知識を有した社内人材が不足していること。
・経理実務担当者の退職により、適切な相互チェック・承認体制を整備するに足る人員が不足していること。
当社は、経理実務担当者5名から退職の申し出を受けた後、直ちに5名の新規雇用により、決算・財務報告プロセスに係る内部統制の整備及び運用を適正にするために必要な人員体制の確保を行いました。当事業年度末までに是正されなかった理由は、経理・決算業務の引き継ぎが十分な時間をもって適切に行われず、外部の専門家に支援を依頼することで会計処理を適切に実施いたしましたが、適切な社内の人材により財務報告の体制を構築することができなかったためであります。
当社は、財務報告に係る内部統制の整備及び運用の重要性を認識しており、決算・財務報告プロセスの見直し、経理部門への人材教育を強化するとともに、外部の専門家等の活用も含め、決算・財務報告プロセスを再構築し、翌事業年度においては、適切な内部統制を整備し運用を図る方針です。また、経理・決算業務のために必要かつ十分な知識を有した人材を、今後3ヶ月以内を目途として採用する予定であります。
事例4(東証1部以外)
当社の2018年12月期の期末決算の過程において、当社の中核的な英国の連結子会社において、開発に係るライセンス費用の期間帰属に係る会計処理の誤り、未払費用の過大計上及び仕訳における通貨種類の選択誤りなどの複数の誤りが、監査法人により発見されました。
これらは、購買時における請求書及び関連書類に基づく会計処理の検討不足、会計処理に関する研究開発部門の理解不足、仕訳計上時における職務分掌の不徹底及び当社のインターナルオーディット部のスキル不足による不十分な内部監査などに起因しており、(略)開示すべき重要な不備があると判断しました。
わかったこと
事例を4つ見ただけですが、いくつか共通するキーワードがあることがわかりました。
①十分な専門知識を有した社内人材の不足
②社内のチェック体制が不十分
③監査法人から指摘を受けている
④組織再編や従業員の退職など、人の異動に起因した混乱が見え隠れしている
正直、①②は多くの上場企業でも課題とするところかと思います。
社内会計士を雇用しようにも、ある程度の給料でないと、動けないのが現実だと思いますので、
経理といえども、上場会社の決算を取りまとめるには相当な専門知識と経験などの力量が求められるということをしっかりと社内でも認識あわせすることが必要なのだと思います。
そして個人的に思ったのは、”④のリスク”と、”④の背景にある従業員が退職したいと思う理由・組織構成員が協業できない理由”が、最大のポイントではないかという点です。
”退職したい理由”まではさすがに開示されていないわけですが、”業務量が偏りすぎていて忙しすぎる”とか、”会社の将来に希望が持てない”とか、あるいは”単に自分のやりたいことでなくなっている”とか、いろいろ考えられます。
でも正直、退職というのはどこの会社でも、だれが在籍していても起こり得るものなので、それ自体を防ぐには限界があるでしょう。
重要なのは、(本当によく言われることですが)業務の属人化を防ぐことだと思います。
リーダー(経営者)は、”そのエースが居なくなっても業務が回る仕組み”を組み立てなければなりません。
”そんなこと簡単に言うな”と言われそうです。
確かに、簡単なことではないと思います。
でも事実、多くの会社が苦心しながら、その体制づくりを目指しているのは事実です。
わかりやすいところで言うと、必要に応じて外部の会計コンサルタントに相談しながら、業務の分担を変えてみることです。
コンサルを動かすと一時的にお金がかかるわけですが、必要なお金をかけずに放置していても、重要な不備のリスクが高まるばかりです。
監査法人に依頼すれば、解決策として良質な外部コンサルを紹介してくれることもあります。
とにかく退職等の非常事態に耐えられるあるべき体制を見据えて、行動を起こすことが重要ではないかと思います。