IASBが繰延税金資産の会計処理の修正を提案

IASBが繰延税金資産の会計処理の修正を提案

ASBJのHPにおいて、IASBが繰延税金資産の会計処理の修正を提案していることが記載されています。

以下、引用します。

国際会計基準審議会(当審議会)は本日、法人所得税に関するIFRS基準であるIAS第12号の変更案を一般のコメントを求めるため公表した。この修正は、企業がリース及び廃棄義務に係る繰延税金をどのように会計処理するのかを明確化している。

IAS第12号は、企業が法人所得税をどのように会計処理するのかを定めており、これには繰延税金(将来において支払うか又は回収する税金の金額を表す)が含まれる。

特定の状況において、企業は資産又は負債を初めて認識する際に繰延税金の認識を免除されている。この免除がリース及び廃棄義務に適用されるのかどうかに関して市場において若干の不確実性があった。したがって、基準の首尾一貫した適用を促進するため、当審議会は狭い範囲の修正を提案した。

修正案によると、本基準における免除はリース及び廃棄義務(すなわち、企業が資産と負債の両方を認識する取引)には適用されないことになる。修正案は、企業がこのような取引について繰延税金を認識する結果となる。

こちらは公開草案という扱いで、現状、こちらに対してパブコメを募集開始したというステータスですが、

そもそも何が論点なのでしょうか。

条文確認

IAS12に記載の、以下の引用条文がポイントとなっています。

15
繰延税金負債が 次のいずれかから生じる場合を除き 、 すべての将来加算一時差異について繰延税金負債を認識しなければならない。
(a)のれんの当初認識
(b)次のような取引における資産又は負債の当初認識
(i)企業結合で はなく 、 かつ、
(ii)取引時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)にも影響を与えない取引
ただし、 子会社 、支店及び関連会社に対する投資並びに共同支配の取決めに対する持分に関連して生じる将来加算一時差異については 、 繰延税金負債を第 39 項に従って認識しなければならない。

24
繰延税金資産は 、将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で 、 すべての将来減算一時差異について認識しなければならない。ただし 、 繰延税金資産が次のような取引における資産又は負債の当初認識から生じる場合を除く。
(a)企業結合ではなく 、 かつ
(b)取引時に会計上の利益にも課税所得( 税務上の欠損金)にも影響を与えない取引
しかし、 将来減算一時差異が 、子会社 、支店及び関連会社に対する投資並 びに 共同 支配の取決めに対する持分に関連している場合には 、 繰延税金資産は第44 項に従って認識しなければならない。

IFRSでは税効果に関して解釈が生じる

イメージすべきは、資産除去債務の税効果です。

当初認識時、つまり資産除去債務を計上した当初において、税効果をどのように考えるか。

日本基準の場合、これは、将来減産一時差異(資産除去債務)と将来加算一時差異(対応する固定資産)がそれぞれ発生し、それぞれに対して税効果を認識するという考え方となっています。

IFRSにおいて、これをどのように考えるかについては、上記基準の文言だけを頼りにすると、解釈の余地が生じます。

それは、「取引時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)にも影響を与えない」という箇所。

当初、固定資産/資産除去債務という仕訳を計上しますが、

この時において、会計上の利益や課税所得が影響を受けるか!?という点については2つの考え方があるでしょう。

解釈1

一つは、影響を与えると考えるもの。

つまり、資産除去債務と、固定資産を、それぞれバラバラに見る考え方です。

資産除去債務は、それだ単独だけ取り出して仕訳だけ見ますと

(借)損益××/(貸)資産除去債務××

と解釈できますが、これは会計上の損益に影響を与えるという見方ができます。

しかし、実際には資産除去債務が損益として計上されたままで終わるのはかなりレアなケースで、

別の仕訳が同時に計上されているはずです。それが以下です。

(借)固定資産××/(貸)損益××

こちらも、単独で見ると損益に影響を与えているように見えます。

このように、それぞれの一時差異をバラバラにとらえると、

取引時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)にも影響を与える

という考え方となり、じゃあ当初から税効果を認識しましょうとなります。

解釈2

一方、もう一つの考え方は、ネットして考えるものです。

つまり、上記の仕訳は同時に計上されると考えれば、以下のような仕訳になります。

(借)固定資産/(貸)資産除去債務

これはBS項目の増減にすぎず、会計上の損益影響はないことになります。

当然、課税所得もこの仕訳だけでは動きません。

そのため、仕訳をネットして考えると、純額では

取引時に会計上の利益にも課税所得(税務上の欠損金)にも影響を与えない

という考え方となり、当初税効果を認識しないという結論になります。

IASBは解釈1を提案(明確化)

この2つの考え方は、各企業の解釈に委ねられることが多かったのですが、

IASBの提案では、一つ目の考え方を提唱しているということになります。

つまり、日本基準でいう資産除去債務の税効果会計と同じような処理をしてくださいと。

資産除去債務だけではなく、IFRS16で認識されるリースについても、そのようにしてくださいと、そういうわけです。

個人的には、これは当然の帰結ではないかと思います。

一時差異はそれぞれ別々で発生していて、その解消スケジュールも別々に動くこともあり得ますので、ネットで考えるというのは、結果しか見ていないというか、税効果会計的に言って本質的なものの見方ではないと思うからです。

解釈によって、IFRS16の税効果をネットの考え方で捌いてきた場合、この公開草案には留意する必要があります。