今回は、資産除去債務について解説したいと思います。
目的は、聞いたことのない人が資産除去債務を理解いただけるようにすること、
また、資産除去債務を知っている人も、理解を深めて論点を確認することができることを目標とします。
まずそもそも、資産除去債務って何ですかという点からお話しします。
最初に、定義ありきということで、会計基準(日本基準)から定義を引用します。
資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)
3.本会計基準における用語の定義は、次のとおりとする。
⑴ 「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。
この場合の法律上の義務及びそれに準ずるものには、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、有形固定資産を除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれる。
⑵ 有形固定資産の「除去」とは、有形固定資産を用役提供から除外することをいう(一時的に除外する場合を除く。)。除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれない。また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。
はい、何を言っているか全くよく分かりません。
Contents
本質的な内容
まず、資産除去債務を理解するために把握するべき前提・本質的な理解について確認します。
資産除去債務は、その名の通り債務ですから、会計的には”負債”として計上するべきものということになります。
ではどういう負債かというと、これもその名の通り「資産を除去する時に支払うことになる負債」ということになります。
ここの理解がミソです。
もっと言うと、資産を手に入れた瞬間に負うことになる義務(負債)というものがあります。
資産除去債務は、そのような、資産を手に入れた時点で負っている将来支払負債について、「どうせ将来負担する(支払う)ことになるんだから、その義務が発生したときに負債として計上しましょうや」という性質の債務になります。
こちらはあくまでイメージにはなりますが、本質的な話です。
定義の理解
あらためて定義を確認します。
なぜここの定義が重要なのかというと、「似て非なるもの」が存在するから、これらと区別する必要があるためです。
※以下、キーワードに配色していますが、水色=AROに該当するもの、黄色=該当しないものというニュアンスです。
「資産除去債務」とは、①有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の②除去に関して③法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるもの
をいうのでした。
この定義の中には、3つの判断軸が織り込まれています。
1つ目は、債務の発生が、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じているかという軸
2つ目は、資産の除去に伴って発生しているかという軸
3つ目は、法律上の義務・契約上の義務なのかどうかという軸
それぞれ内容を確認していきます。
1.債務の発生が、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じたものか
有形固定資産であること
- 会計基準が対象とするのは、有形固定資産であることが求められています。有形固定資産には、勘定科目としての有形固定資産に加え、有形の建設仮勘定や、リース資産、投資その他の資産が含まれます。物理的に有形の固定資産は対象になると覚えておく必要があります。
- 逆に言うと、無形資産は対象外ということになります。
取得、建設、開発又は通常の使用によって生じたものであること
取得、建設、開発はわかるのですが、通常の使用って何だ?って話です。
基準では、「通常の使用」=有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることとされています(そのまんまやないか・・)。逆に言うと、不適切な操業等の異常な原因・異常な稼働によって発生した債務は対象外ということになります。
ここは少しテクニカルですが、異常な原因で発生した債務を、仮に資産除去債務として認識すると、会計処理として各期の損益に帰属させることになってしまうので、これを避けるために設けていると理解しておくとよいと思います。単にそういう風に理解しておくとよいところと思います。ちなみに実務では通常、あまり論点になりません。
2.資産の”除去”目的で発生する債務か
2つ目の判断軸です。
具体例で理解したほうがわかりやすいです。
以下のコストを比較してみます。
①機械装置を取り換えるため除去する際にどうしても必要となる、将来における除去費用(専門業者への支払等)
②機械装置の正常稼働を確保するために必要となる、将来における修繕費用(部品交換代など)
結論は、会計基準のターゲットは、①だということです。
線引きは、見た通り”目的が除去なのかどうか”、という点です。
①は、費用(コスト)をかける目的が”除去”にあります。
②は、費用(コスト)をかける目的が”正常稼働”にあります。
この”除去”を細かく記載すると、上記基準の定義にもありますが、以下のとおりになります。
除去の具体的な態様としては、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれるが、転用や用途変更は含まれない。また、当該有形固定資産が遊休状態になる場合は除去に該当しない。
3.法律上の義務・契約上の義務か
ここでも具体例で話します。
線引きは、法律や契約による義務があるかどうか、です。
法律上・契約上の負債(義務)は、例えば以下のようなものがあります。
①間借りしているオフィスに設置した建物付属設備(パーテーション)について、賃借契約書で原状回復費用を負担することになっていることから発生する、将来退去時の設備除去費用(業者への支払額)
一方、法律・契約で縛られているとはいえない(自社都合で負担を回避しうる)義務は、例えば以下のようなものです。
②間借りしているオフィスに設置した建物付属設備(パーテーション)について、間借りしている企業の都合で除去することになったことで発生する除去費用(業者への支払額)
→資産取得時に想定していなかった都合であれば、取得時の義務はない。または都合がかわれば負担しない。
③機械装置を企業の方針によって取り換えるため除去する際にどうしても必要となる、将来における除去費用(専門業者への支払等)
→入れ替えは義務ではなく、企業の方針や計画が変われば発生しない
言うまでもなく、定義にある、除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものは、前者(①)を指します。
すなわち、法律や契約によって、対外的に義務を負っていれば、定義を満たす形になります。
ここは迷いやすい・勘違いしやすいところです。必ず定義に戻って確認しましょう。
定義における判断軸まとめ
定義を表に分解すると、以下のように整理できます。
軸 | Yes | No |
1.取得、建設、開発又は通常の使用により発生するか? | ||
2.資産の”除去”目的で発生するか? | ||
3.法律上の義務・契約上の義務か? |
この3つの軸が全てyesとなる債務が、資産除去債務と認定されます。
例えばテレビを買った後、放送法に基づいて負担するNHKに対する受信料は、軸の1と3は満たしますが、2は満たしませんので、資産除去債務ではないということになります。
逆に、家具などの資源ごみ(粗大ごみ)の廃棄時の費用は、これに該当します。大き目の机とか、家具を捨てる際には、コンビニなどで数百円を支払うことになると思います。
あの経費が、資産除去債務です。
あれは、家具を取得しなければ発生しませんし、除去目的で発生しますし、法律や条例でごみを出す人の負担が定められています。
もうイメージではなく、あれは資産除去債務そのものですね。
何となく定義を満たしそうでも、満たさないものは資産除去債務として扱ってはいけませんので、留意が必要です。
資産除去債務の英語名称
asset(資産) retirement(除去) obligation(債務)ということで、現場実務ではよく「ARO(エーアールオー)」と呼んだりします。
まとめ
今回は、定義や名称について解説しました。
次回は、会計処理についてご説明したいと思います。
★資産除去債務についてお困りの場合は、こちらについてもご確認ください!