前回、資産除去債務とは?(1)定義のあてはめが重要!何でもかんでも資産除去債務になるわけではないため、注意!という記事にて、資産除去債務(ARO)の定義と、そのあてはめの重要性について語りました。
ではAROに該当したとして、どのように会計処理すればよろしいでしょうか。
今回は会計処理について触れていきます。
今回のターゲット読者と、読めばできるようになること
■AROの会計処理がよくわからない人・いまいち納得感が得られない人
→何をやっているのか理解していただく
■AROをよくわかっている方
→理解を深めること
Contents
会計処理
タイミング(認識の時点)
資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)
4.資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上する。
認識のタイミングは、「発生時」とあります。
ここでいう債務の発生というのは、「確定債務」のことではありません。
債務の額が確定していなくても、義務として存在しているならば、計上することになります。
例えば、原状回復義務は契約により、アスベストの除去は法律により、それぞれ義務として要求されます。
このような義務がある場合、負債計上を行うことになります。
負債の測定
ではいくらで測定するという点ですが、基準は以下の通り。
資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)
5.資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上する。その場合の負債の計上の処理は、第10項及び第11項に準じる。
6.資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定する。
⑴ 割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによる。(略)
⑵ 割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とする。
ちょっとわかりにくいのですが、順番で言うと、
①将来キャッシュフローの算定
②割引計算
という順序になります。
このうち、①の算定でよく悩むことになりますので、よくある例を紹介します。
A:撤去費用を見積るのが難しいため、または撤去の具体的な方法や範囲が固まってきたので、業者から見積書を入手しその金額により将来キャッシュ・フローとした
B:類似物件で過去に撤去を何回かしているので、その撤去時にかかった実績平均単価を算定し、これをもって将来キャッシュ・フローとした
これら2つがよくある例ですが、一般的にBよりもAのほうが信頼性は高くなります。
Bは恣意性の排除や見積の合理性が重要ですので、ルールを決めることが必要になることがあります。
仕訳(固定資産取得時)
以上を踏まえると、仕訳は以下のようになります。
(借) | 有形固定資産 | ××× | (貸) | 資産除去債務 | ××× |
何だか違和感のある仕訳ですが、
似て非なる仕訳として、固定資産の付随費用がイメージつきやすいと思います。
固定資産の付随費用として、購入手数料を取得原価に算入する時、以下のような仕訳を切ると思います。
(借) | 有形固定資産 | ××× | (貸) | 未払金(固定資産) | ××× |
本質的には、資産除去債務もこれと同じです。簡単なことです。
未払金も資産除去債務も、固定資産を取得した時に、取得原価に算入すべき将来の支払額が確定or見積もることができるなら、これを取得原価に算入しているに過ぎません。
内容の主な相違は負債額が確定していれば未払金、未確定だが義務があるなら資産除去債務という点が一つ。
もう一つは、債務決済までの期間の長さが、未払金は通常1年以内、資産除去債務は長期になることも多い点です。
この2つ目の特徴により、資産除去債務は割引計算により負債計上する必要性が生じます。
仕訳(借方の固定資産)
さて取得時に計上した借方の固定資産ですが、これを当初認識後どのように会計処理するかです。
7.資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える。
資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分する。
非常に単純で、取得した有形固定資産と同様に減価償却計算を実施していきます。
耐用年数は、取得した固定資産と同じものでよいでしょう。
仕訳(貸方の資産除去債務)
では貸方はどうか。
割引計算
固定資産未払金は、通常1か月~6か月くらいあとに、支払って終わりだと思います。
しかし、資産除去債務は、全額決済までの年数が長いことが多いので、割引計算が必要なのが特徴でした。
割引計算を実施するには、キャッシュ・アウト(支払)までの年数を特定しないといけません。
この年数に困難が伴うことが多いです。
つまり、いつ撤去するか、見積れないんじゃないかと。
ここは実務では様々な方法で検討しますが、事業に供する期間、計画、過去の実績等、あるいは資産の耐用年数で見積もることもあります。
大切なのは、「見積れない」と主張するには、相当な事情がないといけないということ。
ここはIFRSの血(見積れないというケースは極めて限定的)を受け継いでいます。
事務所の撤退時期なんて、確かに普通に考えたら根拠をもって見積ることのほうが難しいですよね。
でもそんなこと言ってたら、なんだかんだで言い訳して見積らないケースが多発するおそれがあります。
そこで、合理性があると言える範囲で、年数を見積もることになっています。
ただし、です。
合理的に見積れないケースも想定はされますので、そのような場合は割引計算は諦めて注記で対応します。
見積れない場合、それ相応の注記が要求されます。トレードオフ関係で縛り上げることで、見積り努力を助長しています。
(資産除去債務を合理的に見積ることができない場合)
35.資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積ることが困難であるため、合理的に資産除去債務を算定できない場合がある。このような場合は、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合(第5項参照)に該当し、第16項⑸に定める注記を行うことになる。
利息費用
割引計算で算定した除去債務は、割り戻し計算によって、各期に金利配分されます。
この謎の費用は”時の経過による資産除去債務の調整額”と言われますが、利息費用などとも呼ばれ、固定資産の減価償却費と同じ費用区分(原価、販管費、営業外)に計上します
(損益計算書上の表示)
13.資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
14.時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
履行時の差額
実際に将来支払う額と、想定で計上した資産除去債務では、比較すると通常最終的に差額が発生します。
この差額も、費用処理することになります。
15.資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上する。
ちなみに、このキャッシュ・アウトはキャッシュ・フロー計算書上、投資キャッシュに含まれます。
本日はここまでとします。
★資産除去債務についてお困りの場合は、こちらについてもご確認ください!