【訂正報告書事例】 売上前倒し計上(アピックヤマダ)

アピックヤマダ株式会社は、有報提出期限を延期していましたが、17年7月31日に提出完了したようです。

理由は、不適切会計(売上の前倒し計上)により訂正報告書を提出する騒ぎになっていたためです。

会計監査人であるデロイトも契約終了となり、交代するようです。

 

調査結果報告書(委員長は有名な宇澤亜弓先生)が会社により開示されているので、少し読んでみました。

読んでみると、売上に関して非常に参考になる情報が含まれていましたので、ポイントだけ記載します。(それでも長いので、本当の要点のみ要約してハイライトしています)

  • 【会社の売上計上ルール】あるべき収益認識基準(会社ルールでもある)は、「検収基準」である。この場合の「検収」とは,現地調整が終了し,残件(不具合等)が無い状態において,製品が合格した旨の記載のある作業報告書等に顧客から署名を受けることを意味する。
  • 【本件会社不正実行者の解釈】しかし会社(役員含む)は、社内の売上計上基準の恣意的な解釈に基づき売上の前倒し計上等をした。

恣意的な解釈とは、会社の以下の主張を言う。

主張①:残件がある状態でも,顧客が合格判定を出すことを承諾した場合には,当該製品について売上計上をすることは問題ない

主張②:現地調整が未了であっても,それが工場側の受け入れ態勢が整っていない等,顧客側の都合によるものであり,かつ顧客が合格判定を出すことを承諾した場合には,当該製品について売上計上をすることは問題ない

要は、「残件」があった場合で、「後日何とかします」と会社が言っていても、顧客がそれにOKと言いさえすれば売上計上OK!というのが会社の主張。

  • 【会社解釈への反論】これに対しては、以下の理由から的外れであると指摘。

①:検収基準には一定の例外規程がある。これは製品に残件があるが,その補修又は現地での手直し等が「顧客都合」によりできない場合について定めている。この場合には,「顧客の検収」があれば合格となるが,この「顧客の検収」の意味は,規程上明らかでないが、仮に,この「検収」を一般的な意味での検収,すなわち,残件がある状態での製品の納品を顧客が履行として認容し,今後,その補修又は現地での手直し等を不要とすることについて顧客の承諾がある場合と解したときには,後日に残件について補修又は現地での手直し等を行うことを約するような本件不適切な会計処理には,本条項の適用はないと解される。よって,この規定を,主張①の根拠とすることはできない。

②:本例外規程は,あくまでも,現地調整の結果,不具合が発見された場合の取扱いを定めるものであるから,現地調整がそもそも未了である場合には適用がない。したがって,主張②の根拠とすることもできない。

→要は、「残件」が残ってて「後日何とかします」と言っている時点でダメ。「残件(不具合等)」についても会社は義務を負っていて、ルールにもそれが反映されているので、残件がクリアになっていなければ売上計上はできない!というのが委員会の主張。

  • 【作業報告書の改竄】会社では、現地調整において問題となった事項や,顧客から指摘された事項は,作業報告書に記載され,作業終了時には,顧客担当者がその内容を確認した上で署名を行うものとされる。そして,売上計上の前提として,品質保証部が回付された作業報告書の記載内容に基づき,合否判定を行う等,作業報告書等の記載内容は,真実かつ正確であることが所与の前提とされる。

しかしながら,AYC においては,案件一覧に記載された案件では,案件一覧に列挙された仕様未達の不具合(残件)については,そのほとんどを作業報告書等に記載せず,あたかも仕様未達の不具合(残件)が無い状態で製品が合格したかのような外観を呈する,事実と異なる作業報告書を作成していた。

このような事実と異なる作業報告書の作成は,品質保証部における最終的な売上計上に係る合格判定を得ることを主たる目的としていたものと認められる。

 

これを読んで、「顧客が何に対してOKと言っているか」、「実態として売上は成立しているか」といった視点が重要と再認識したわけですが、ここで重要なのは、会社が「残件は関係ない」と主張しつつも、「残件隠し」をしてしまっている点。言っていることとやっていることに矛盾が生じています。要は「残件は関係ある」と理解しているのです。

このことから、今回の発生原因は「売上の解釈の違い」にあるのではなく、単に「改竄して売上を前倒しした」というのが事実なのだと思います。

本件監査人が交代していますが、経営者である取締役に論理矛盾が生じている時点で、正直しょうがないかなとは思います。経営者は内部統制を無効化できる立場にありますから、圧倒的な監査上のリスクを感じたとしても、無理は無いかと・・・(推測にすぎませんが)。

本件は内部告発により発覚していますが、監査人の手続で発見できなかったのかというところが気がかりです(自分が監査人の立場だったとして)。証票の改竄をともなう検収基準売上の前倒しなので、通常の証憑突合ではリスクに対応できません。まずは予算などと見比べながら、期末月である3月の売上が異様に多いことに気がつかなければなりません。そこから、取引先への質問や訪問まで含めて監査計画を練らなければならなかったのかもしれません。

最後に、本件一番の被害者は訂正報告書の作業に従事した経理マンと監査スタッフかもしれませんね。。。皆さんの苦労を無駄にしたくない気持ちでいっぱいです。