【訂正報告書事例】有沢製作所 留保利益税効果(持分法適用会社)

株式会社有沢製作所は、10月26日、H30年第2四半期の決算作業中に、過年度の連結財務諸表において、持分法適用会社である株式会社ポラテクノの留保利益に対する繰延税金負債(DTL)の計上が不足していることが判明したことを発表しました。

影響額は8億円~9億円とのこと。

会社の売上は300億~400億円程度で、経常利益は20~30億円程度ですから、まあ利益への影響は大きいかと。

 

今回取り上げたのは、この会社さんに限らず、留保利益の税効果は実務で誤りやすい項目であるためです。

まずは持分法適用会社の会計上のルールをおさらいします。

持分法会計に関する実務指針 最終改正日:平成26年02月24日

株式取得後に生じた留保利益

27. 株式取得後に生じた留保利益の投資会社の持分額(以下「留保利益」という。)については、連結貸借対照表上の投資会社の投資価額は、個別貸借対照表上の投資簿価と比べて留保利益の額だけ多くなるため、投資会社において将来加算一時差異が生じることがある。留保利益は、配当金として受け取ったとき、株式を売却し売却損益として実現したとき、又は清算により清算配当を受け取ったときに投資会社で課税対象となる場合には一時差異に該当し、税効果会計の対象となる。

ただし、投資会社が、その投資の売却を自ら決めることができることを前提として予測可能な将来の期間に売却する意思がない場合には、次項の配当金により回収するものを除き、留保利益について税効果を認識しない。

留保利益に係る税効果会計の適用に当たっては、連結税効果実務指針第34項及び第37項に基づいて行う。

留保利益のうち配当金による回収

28. 持分法適用会社の留保利益のうち将来の配当により追加納付が発生すると見込まれる税金額を投資会社の繰延税金負債として計上する。すなわち、国内会社の場合には受取配当金の益金不算入として取り扱われない額、また、在外会社の場合には配当予定額に係る追加負担見込税額を繰延税金負債として計上する。

ただし、持分法適用会社に留保利益を半永久的に配当をさせないという投資会社の方針又は株主間の協定がある場合には、税効果を認識しない。

配当金に係る税効果会計の適用に当たっては、連結税効果実務指針第35項に基づいて行う。

以上からわかるように、将来の配当によって投資会社に追加納付(税金費用)が発生すると見込まれる金額はDTLとして認識することになります。

将来発生が見込まれる税金負債だけど、期末で発生したようなもんだから、期末で負債計上しちゃえ!ってなノリが繰延税金負債です。

しかし慌ててはいけません。

逆にいえば、期末で発生したようなものだと言えない場合には、例外的にDTLを認識しないというケースも多いものです。

例として以下では大きく2つをご紹介します。

①配当しないことがわかっているような場合(上記の協定や方針の類がある場合)

②配当したとしても、投資会社に税負担が無いケース

 

まず①ですが、こちらは実務指針に書いてあるとおりで、投資をしておきながら配当で回収しないことが方針付けられているという特殊なケースです。

調べてみたところ、事例にある株式会社ポラテクノは上場会社のようですが、上場会社で配当しない方針をとっている会社というのは一般的にはあまり無いのではと思いますので、上記の協定や方針は子会社が非上場の子会社なんかで多いかもしれません。

何目的で、どういう投資をするかなんていうのは、法のルールに沿っている限り色んなケースがあるでしょうから、それこそ個別の検討が必要です。

監査人的な視点でいえば、配当しないと言いつつ配当しちゃってないか、という点ですね。共同株主などとの間で協定書などがあればまだいいのですが、ただの内部的な「方針」なら、常に動向に留意しておく必要があるでしょう。

 

一方、②は個別的というよりはルール上の例外になるでしょう。

こちらは投資対象会社からの配当によって税負担が発生するかどうかを検討することがポイントになります。

配当に関する税負担が無い例は以下です。

・持分法を適用しているものの、持分比率的に、税務上のルールで配当税負担が発生しないケース(EY税理士法人のサイトにわかりやすい解説があります

例えば33.4%保有なら、持分法は適用されても、配当は全額益金不算入となる場合があります。

・租税条約等が成立していて、外国源泉税が発生しないケース(その分は税効果を認識しない)

・あるいは場合によっては、投資会社に十分な課税所得が発生せず、源泉税相当額について最終的に税金費用とならないと見込まれるケースもあるかもしれません(持株会社などで)

いずれにしても、会社も監査人もこれらを毎四半期で検討し、会社の資本関係や税制改正等に変化があれば税効果の要否を検討することが必要になります。

こういうのは気付くか気付かないかという世界なので、気付ける仕組みづくりが大切ですし、とにかく論点を理解したうえで知っているということが大切です。

 

他人事のように書いていますが、自分自身こそ、気をつけなければならないというのは言うまでもありません。

 

(おまけ)

ところで、親会社が子会社や関連会社から配当の形で資金を吸い上げるにあたり、税金がかかる場合とそうでない場合がありますが、このDTLを認識することで、「ああ、配当してお金吸い上げるだけでこんなに税金が将来かかるのか。勿体無いな。ほかに良い方法ないかな」と気付き、考えるのが経営(税務戦略)なんだと思います。会社というのは常時そのような論点に頭を使っているものです。

また別の話ですが、上記のような配当による税負担のみならず、株式売却を意思決定した時も、留保利益の税効果の必要性に注意しておく必要があります。