【有価証券報告書 注記の訂正事例でわかる作成/記載要領】ソフィアホールディングス

1月25日にて、株式会社ソフィアホールディングス(ジャスダック)は、過年度有報等の訂正、また内部調査委員会の調査報告書受領に伴う再発防止策に関するお知らせを発表しました。

いつものとおり、本事案から我々が何を学ぶべきなのか、考察していきます(※他の記事と同じく、当方の個人的な推測や判断を含みますのでその限りでお読みください)

訂正内容

連結子会社であるソフィアデジタル株式会社(以下「ソフィアデジ タル」)において、

当時、ソフィアデジタルの代表取締役でもあった当社元取締役の意向を忖度(他人の心をおしはかること。また、おしはかって相手に配慮すること)し、

計上要件を満たさない売上を計上する等の不適切な会計処理が行われた。

発生原因(概要)

① 当社のグループ子会社に対する管理体制が十分でなく、営業活動を過度に優先し、管理部門を軽視した経営が行われていたこと、

② 業務管理に関する規程等が十分に整備されていなかったこと、

③ 会計業務管理に関する全社的な方針と手続きに著しい不備があったこと、

④ 監査役の独立性に問題があったこと、

⑤ 内部監査体制が極めて不十分な状況にあったこと

⑥ ソフィアデジタルの元代表取締役でもあった元HD取締役とソフィアデジタル元監査役の関与が認められており、経営者自らによる内部統制の無視により、内部統制は有効に働かなかったこと

根本的な発生原因の考察

①②③営業に偏重し管理部門を軽視した経営

■連結グループにおいて、遵守すべき職務権限規程や業務分掌規程、稟議規程などの規程等は当時から整備されていたが、ソフィアデジタル株式会社(以下「ソフィアデ ジタル」)においては、職務権限規程や業務分掌規程、稟議規程などの業務管理に関する規程が存在していなかった。

—>連結グループの規程はあったけど、子会社の規程は存在していなかったということのようです。子会社の規模にもよりますが、確かに盲点になるところかもしれません。しかしさすがに職務権限や稟議のルールが明記されていないというのは、組織として機能しないことを許容することと同じではないでしょうか。要するに名実ともに社長が何でも決めていいといった状況だったと推測されます。グループの中で、実は大きな穴があいていたようなイメージです。

■また連結グループにおいて、会計記帳に関する業務プロセスや、検収基準に関するルールが明確に規定されていないなど、会計業務管理に関する全社的な方針と手続きに著しい不備があった。

—>売上の認識基準については、連結グループベースでも明確になっていなかったということかと思います。売上の不正は、規程が無いもしくは運用されていないことからも生じることを示す典型例です。

ルールや規程が明文化されていないという事象は、形式面の議論のように見えて、実は違います。きわめて本質的な議論です。組織の運営には欠かせません。

「ルールが無い=好き勝手やっていいことが許されている」くらいのイメージで捉えておく必要があります。勿論形式面だけ整えればいいということではありませんが、形式が無ければ「言った言わないの話」になるでしょうし、議論を進めることも難しくなります。

■連結グループにおいて、経理や内部監査等の管理部門に十分な人員が配置されておらず、架空売上の計上を見過ごすなど不十分な社内チェック体制となっていた。 このように、連結グループにおいて営業業務を過度に優先し管理部門を軽視した経営が行われていたことが、本件事象の発生につながった。

—>よくある話ですが、規程がないと管理も機能しようがありません。このレベルになってくると、いかなる善良なる営業業務をしていても、さすがに不正が起こるのではないでしょうか。

④監査機能の機能不全

■ソフィアデジタルの監査役が営業担当者を兼務する体制となっており、監査役の独立性に問題があった。

■また親会社監査役とソフィアデジタル監査役の連携が不十分であった。

■監査役監査において、毎月のグループ役員会に出席してグループ子会社経営陣へのヒアリングを行っていたが、子会社内の監督機関が有効に機能しているか否かを十分に確認できなかった。

—>子会社の監査役監査にどこまでの機能を期待するかという議論は置いておいて、子会社監査役が自主監査をやっているなら、さすがにそれはまずいと思います。監査が機能しないどころか、機能しているように見せかけることで逆に不正の温床になりますので。

⑤不十分な内部監査体制

■親会社の内部監査室が知識不足。また他部署と兼任しており内部監査体制は不十分であった。また内部統制報告制度に係る評価業務等の安定的な内部統制制度の運用に比重を置いていたので、十分な実効性のある内部監査が出来ていなかった。

—>兼任については④と同じです。ここではこの下線部が興味深いところで、考えさせられます。

もし、「J-SOXはめんどくさいから、形式的に適当にまわしてラクをしたかった。」という趣旨であれば、基本的には言語道断になると思います。しかし実際問題、これは本音の欲求としては普遍的なものでもあるかもしれません。

J-SOXの仕事をしていると、ものすごく形式的な話だなと感じる場面は確かにあります。

しかしそれは、危機意識の欠如を示しているのかもしれません。

一方で、J-SOXをポイントを押さえた上で合理的に効率よく運用すること自体は大切な考え方だとは思います(やりすぎてもキリが無い)。

そのため、本件は「手を抜くところを間違えた」ケースではないのかなという風にも思います。

そういう意味では、「最初が肝心」で、制度導入時に外部から適切なアドバイスを受けたりできたかどうか、あるいはアドバイスをどこまで斟酌して受け取ることが出来たかが重要だったのかもしれません。

個人的にはそのようなメッセージを読み取っています。

■ また、内部監査人、監査役、会計監査人の間において、連携不足だった

—>連携不足の具体的な意味はわかりませんが、上記のような実態に対して誰もが重い問題意識を持っていなかったのかもしれません。

⑥コンプライアンス意識の欠如

平成 26 年3月期の ARecX6 の販売計画必達を指示した取締役及び本件事業の実務を担っていたソフィアデジタル監査役のコンプライアンス意識が著しく欠如していた

—>これも本件要因としては決定的で、よく言われる「内部統制の限界」というやつです。

気付事項

上記を総合すると、「役員が内部統制を無視する」という根本的な問題意識・テーマとは別に、以下の気付きをあらためて得ました。

やばい状況(1)普通はあるはずの規程が無い若しくは著しく不十分

・・・>どれだけ性善説に立ったとしても、きわめて危険な状況。形式面の話に落としこまれることで、組織運営に関する大切なヒントがうやむやにならないように留意する。規程が文書化されていないということは、組織内の誰にとっても統一ルールが適用されず、誰も財務報告の正しさを追及しない/できない/されないカオス状態を招くことを意味し、いわば無法地帯になってしまう点を認識する。不正な財務報告を防ぐために、keyとなる規程の内容は何なのかという点が十分に議論されているかにも注意する。

やばい状況(2)自己監査になっている若しくは知識不足等で明らかに内部監査が形骸化している

・・・>もはや内部監査に依拠しないことを検討する。「小規模の会社だしそんなこと言われても」「採用や教育を自前でやりにくいからどうしようもない」「そもそも対応する時間やリソースがない」などという妥協や誘惑を誰かが断じていかねば、将来の事故に繋がる可能性がある。結果として真面目にやっている経営者や従業員に迷惑がかかるかもしれない。

 

総じて、上場会社は管理面でも高い要求水準に耐えていく必要があることを再認識しました。

なお本件において再発防止策が策定されていますがここでは触れません。そちらは興味のある方は別途ご参照ください。