最近の監査人交代の開示 「任期満了」のみは1件も無し

  • 2019年5月14日
  • 2019年5月14日
  • 監査

監査人の交代理由開示

監査人の交代というのは昔から結構話題になっているところですが、

この10年だけでもいろいろあって、交代の理由については制度のメスが大きく入ってきている印象です。

最初に、税務研究会のサイトより、記事をご紹介します(詳細は経営財務3406号参照)。

監査人交代に関する開示が変化している。

東京証券取引所が本年1月に,「会社情報適時開示ガイドブック」を改訂し,監査人の異動理由について実質的な内容を開示することを明確化。

これまでは単に「任期満了」とのみ記載している会社も多かったが,本年の各社の開示には「監査報酬の増加」や,「継続監査期間の長期化」など具体的な理由が示される傾向にある。

これまでの実務では当たり前だった、「理由は任期満了のみ」の時代がとうとう終わりを迎えています。

記事の中では、以下のような監査人変更理由があげられています。

1.事業規模
2.監査報酬の増加・勘案
3.監査期間の長期化
4.監査法人側の人員不足
5.毎期検討
6.連結グループ会社間での監査人統一
7.不適切な会計処理等
8.内部統制の改善が不十分

どれもそれっぽい理由に見えます。

交代理由を開示された側は、何に気を付ければいいのか?

この手の記事を見て思うのが、こういう情報を公表されたときに、

第3者である投資家や、もっと言えば企業・監査法人関係者(就職を考えている新入社員など)は、

この情報も以て、何に気をつければいいのでしょうか?ということです。

ということで、今回はこの手の情報の使い方というか、注意を要するだろうなあという見方について、

自分なりの考え方を書いていきます。

それぞれのケースについてコメント

企業側が悪そうなケース

まずは7.「不適切な会計処理等」や、8.「内部統制の改善不十分」について。

これはよほどのケースであると思ってよろしいのではと思います。

多いのが、何か企業が不正をやらかして、訂正報告書を出すとか監査のやり直しになるとか大変な事故が起こってしまったケース。

たいてい企業の役員や上席も巻き込んでなされていたりするので、

組織の在り方や文化から改革していかなければ、根本的に解決できないケースです。

ここでいう内部統制というのは、起こってしまった不正そのものに対してもそうですが、

監査人が組織そのものに関する内部統制(全社統制)に著しい不安を感じてしまったとき。

すなわち、もうリスクが高すぎて監査契約できないと判断されるケースというのが一つあるかと思います。

上記以外ですと、組織的な隠ぺいとか、悪質な監査対応とか、とにかく監査人側が「もうこの会社とは契約していられない」と考えた場合に発生する可能性のある事案かと。

ですので、対象企業の状況と、組織として将来本当に大丈夫なのかという点について、投資家は正しく懐疑心を持っていくべきでしょう。企業の公表する改善策等に、きちんと目をとおして投資判断をすることになるかと思います。

一見監査人マターだが、本当にそうなのかと思うケース

4.の「監査法人側の人員不足」というのは、これは個人的にはどうもしっくりこない。

多少人員不足だからって、普通、契約切るところまで行きますか?という話です。

もちろん、最近の監査法人の労働事情から、多少の不足どころではなくなっている可能性はありますが、

普通に考えて、監査をある程度効率的に行えるクライアントであれば苦労して(場合によってはそうでもないかもしれないが)獲得した手放すはずがありません。

何か事情があって契約解除を言い渡した可能性も想定するべきかと思います。

よって、こちらは監査人と企業側、いずれか又はいずれにも事情がある可能性がありますね。

本当のところを聞けるかは不透明ですが、まずは対象会社の言い分(プレスリリース)を聞きつつ、場合によっては株主総会で聞く等の行動が必要になるかもしれません。

どうしても裏の意味があるのではないかと思ってしまうケース

5.の「毎期検討」ですが、これは実務で聞いたことが無いですね。

というか企業取引としての合理性を感じない。

普通、毎期検討って面倒です。

監査って、監査人への説明工数がものすごくかかるのですが、初年度がMAXで、2年目から徐々に工数は少なくなっていくのが通常です。

これは経験によって効率化するから当然かと思います。

しかし、監査法人を毎期検討して、本当に毎期変更になるとすれば、その初年度のMAX工数を毎年かけることを選択することになります。

しかも、監査法人Aが言っていた処理が、監査法人Bによってダメといわれるリスクもあるわけなので、毎期検討を心の底から検討する会社というのは、あまりないのではないかと。

なので、このケースでは真の理由があるならば知りたいところではあります。

まとめ

以上のように、実務家から見たら「?」と思うような理由の開示はあるかもしれないものの、

「理由は任期満了のみ」という状態から一歩抜け出した感じはしますので、

投資家の方は、こういった情報についても監査人からのメッセージと捉える心をお持ちになってもよろしいのかなとは思います。

※ただし、本稿の記載が裏読みをし過ぎただけで、実際のところも開示したままの理由であることも多々あると思われます。そこはご了承ください。