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収益認識会計基準の早期適用 IFRS適用会社を中心に
経営財務3416号にて、収益認識基準の早期適用事例について紹介がありました。
有価証券報告書または四半期報告書における「会計方針の変更」に係る注記で早期適用した旨を明記した会社が、合計28社であったとのこと。
それらのうち、IFRS任意適用会社が28社のうち16社で最も多かったということです。
IFRS適用会社は、既に実質的に同じ内容の会計基準であるIFRS15を連結上適用しているわけですから、
個別財務諸表において収益認識基準を早期適用した形になります。
となると、日本基準を連結で採用している会社で、収益認識基準を採用した会社がどの程度あるかが気になりますが、
2019年3月期決算で適用した会社でいえば、実質的には1社のようです。
証券,商品先物取引業のジャフコ(東証1部)です。監査法人はEY新日本。
ということで、同社の開示内容を見てみたいと思いましたので、
同社の会計方針の変更注記と会計方針の注記を見てみます。
日本基準から早期適用した事例
会計方針の変更注記
(収益認識に関する会計基準等の適用)
「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 平成30年3月30日。以下「収益認識会計基準」という。)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号 平成30年3月30日)が2018年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から適用できることになったことに伴い、当連結会計年度の期首から収益認識会計基準等を適用し、以下の変更を行いました。
①JAVが受け取る管理報酬の計上方法の変更
管理報酬の収益計上方法を変更し、JAVがファンドから受け取る管理報酬は、JAVの販売費及び一般管理費と相殺した純額のみを収益として計上することといたしました。これにより、当連結会計年度の売上高が1,351百万円減少し、売上原価は512百万円増加し、販売費及び一般管理費は1,863百万円減少しております。
②成功報酬の収益認識の変更
当社が運用するファンドから受け取る成功報酬は、期末時点で将来、著しい減額が発生しない可能性が高いと見込まれる金額を未収収益として計上することといたしました。これにより、当連結会計年度の売上高、営業利益、経常利益及び税金等調整前当期純利益がそれぞれ124百万円増加しております。また、利益剰余金の当期首残高は87百万円増加しております。
収益認識会計基準等の適用については、収益認識会計基準第84項ただし書きに定める経過的な取扱いに従っており、当連結会計年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、当連結会計年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用しております。
ただし、収益認識会計基準第86項に定める方法を適用し、当連結会計年度の期首より前までに従前の取扱いに従ってほとんどすべての収益の額を認識した契約に、新たな会計方針を遡及適用しておりません。また、収益認識会計基準第86項また書き(1)に定める方法を適用し、当連結会計年度の期首より前までに行われた契約変更について、すべての契約変更を反映した後の契約条件に基づき、次の①から③の処理を行い、その累積的影響額を当連結会計年度の期首の利益剰余金に加減しております。
①履行義務の充足分及び未充足分の区分
②取引価格の算定
③履行義務の充足分及び未充足分への取引価格の配分
なお、当連結会計年度の1株当たり純資産額は4.91円、1株当たり当期純利益金額は2.79円、それぞれ増加しております。
重要な収益及び費用の計上基準
当社及び連結子会社は、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 平成30年3月30日)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号 平成30年3月30日)を適用しており、管理報酬については一定の期間にわたる履行義務を充足した時点、成功報酬については収入金額が期末時点で将来、著しい減額が発生しない可能性が高いと見込まれた時点で収益を認識しております。
個人的に注目した点
いろいろと選択することがあるので、長い注記になっています。
証券業ということで、①管理報酬と②成功報酬が収益の柱ということがわかります。
①はもともと期間按分によって発生主義で認識していたが、総額表示から純額表示に変更したものと思われます。
②は履行義務の充足時点を一時点から一定期間に変更したものと思われます。成功報酬が変動対価に該当し、義務の履行に応じて、確実性の高い収益を計上した可能性があります。
そして、個人的に気になっていたのが、初度適用時の影響額の注記の出し方。
遡及アプローチもあれば、この例のように期首利益剰余金で計上するアプローチもあります。
遡及することで、過去の収益との比較を行えるようにすることが多いのかも・・・と思っていましたが、
この1件についてだけ言えば、利益剰余金で調整をしたようです。
しかし、よく考えてみると、早期適用をやっているので、他の会社よりは何年か早いことになりますので、
他の会社が本適用するタイミングで遡及アプローチを適用した場合と同様以上のディスクローズレベルになっていると思います。
さらに同社の場合、以下のような連結範囲の変更に絡めた論点があったようです。
(会計方針の変更)
当連結会計年度より、当社の100%子会社であるJAFCO America Ventures Inc.(JAV)が受け取る管理報酬の収益計上の方法を変更するとともに、同社を連結の範囲から除外しました。
ベンチャーキャピタル業は地域性が高く、親会社が海外での投資活動を支配するマネジメントは適さないため、当社の米国投資は、ローカルのベンチャーキャピタリストから成るチームが独自のファンドを運営し、投資の意思決定も独自に行ってきました。
また、当該ファンド資金の調達は、従来は当社及び当社が国内において設立したファンドからの出資に依存していました。しかし、米国におけるファンドサイズの大型化に対応して、2013年からは独自のファンド募集を実行し、外部出資の割合も高まっています。さらに、米国におけるブランド強化の観点から、チーム名もIcon Venturesに刷新しました。
こうした状況を踏まえ、この度公表された「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)等を適用し、JAVの売上と経費を相殺表示した結果、当社の連結財務諸表に対する重要性が低下するため、JAVを当社連結の範囲から除外することとしました。
連結除外した子会社は、合計の総資産、売上高、当期純損益及び利益剰余金等は、いずれも連結財務諸表に重要な影響を及ぼしていないことを理由として除外されているようです。
従前の日本基準だと収益の金額が大きかったため、連結を外すことが難しかったのかもしれません。
収益認識基準の影響(収益のネット化)の使い方として、このような例もあるのだなということを思わされます。
他には、利益率が大きくなることや、収益が平準化されることで、企業の財務戦略に大きな影響を与えるかもしれないと思っています。
適用準備中の会社は、基準対応そのもの以外に、このような財務戦略上のメリットデメリットを検討しているものと思われます。