株主総利回り 有価証券報告書の記載にあたり注意すべき5つのポイント

株主総利回りとは

2019年3月期より有価証券報告書上において開示が求められることとなったTSR(Total Shareholder Return(トータル・シェアホルダー・リターン)こと「株主総利回り」。

その内容は以下の記事をご覧いただければと思いますが、

(19年3月期から有報開示)株主総利回りとは?

適用後レビューを受けた留意点

この初度適用を終えた今、事後レビューが行われているようです。

その中で、やってしまいがちな記載誤りも含めた記載のポイントなるものが見えてきているようです。

今回は、そんな株主総利回りの有価証券報告書上における記載上の注意点についてご紹介します。

開示実務において、数字を作成する方、チェックする方いずれにとっても有益な情報になればと思います。

(1)比較指標を明示すること

株主総利回りの記載においては、比較指標を対比させる形で記載します。

この比較指標は、何か絶対的なものがあるわけではなく、いくつかあるものから選択して記載する実務となります。

実務的には、TOPIXが記載されることが多いようです。

そして、TOPIXには「TOPIX」と「配当込みTOPIX」の2つがあります。

ふだんニュースで見るTOPIXは、「(配当込みではない)TOPIX」です。これは株価(キャピタルゲイン)の変化だけを集めて計算した値になります。

しかし、株主総利回りは、キャピタルゲインだけでは無く、インカムゲイン(配当)も含む概念ですので、

これと対比するためには、配当込みのTOPIXを使用することが多くなっています。

実際に、19年3月期においても、80%以上の会社が配当込みのTOPIXを使用したようです。

ここで、注意すべき点は、「併記したTOPIXについて、配当込みなのかそうでないのかを、明示する」という点です。

2つあるので、どちらを使用したのかを記載しないと、投資家が誤解してしまうという趣旨かと思います。

この記載が無い例があるそうなので、実務担当者は要注意ということになります。

(2)2020年3月期の株主総利回りの計算においては、数値のアップデートに注意すべきこと

有価証券報告書記載にあたっての株主総利回りの計算は、5年前の株価をスタートとして(基準点として)、それ以降各期の利回りを計算します。

具体的には、以下のような計算式になります(開示府令)。

(各事業年度末日の株価+当事業年度の4事業年度前から各事業年度までの1株当たり配当額の累計額)/当事業年度の5事業年度前の末日の株価

この計算の性質上、毎年毎年、基準時点の5年前の株価は、アップデートし続ける必要があります。

これを忘れて、2020/3であれば、6年前の株価をスタートとして計算をしてしまうと、

開示すべき数字から乖離することになってしまいます。

そのため、毎年のアップデートが必要であることを忘れてはなりません。

この点は、金融庁の計算シートにも以下のように注意書きの記載がされております。

株主総利回りの計算に当たっては、基準となる当事業年度の5事業年度前が毎年変わるため(例えば、2019年3月末の基準年は20143月末、20203月末の基準年は20153月末)、毎年計算し直す必要があります。

(3)基準時点が変わること

計算上の基準時点が変わることは、(2)でも記載したとおりです。

基準時点の注意点として、さらに、有報において基準時点そのものを記載する場合に、その更新を忘れないようにすることが大切です。

一部の会社では、提出会社の経営指標の欄外にて、基準時点=××年×月であることを、明示するケースがあります。

そのような開示を選択した会社は、基準時点の記載のアップデートも行う必要があります。

(4)グラフを付記するとわかりやすいこと

いくつかの会社は、株主総利回りの過去5年間の推移について、グラフをつけて開示しています。

たとえば、以下のような要領です。

難しい話は抜きにして、これがあると,単純に非常にわかりやすいと思います。

5年前の水準を100%として、この5年間で比較指標に対してどのようなパフォーマンスをあげてきたか、一目瞭然です。

この例だと、2018年3月期あたりで利益確定していたら、配当込みTOPIXに対してもかなり高い水準で儲かったという話ですね。

かなりわかりやすいので、グラフを付記する会社が増えてくるかもしれません。

グラフ化するメリットとしてはもう一つ、数値の分析ができるということになります。

計算誤りなどで異常な値になっている場合に、それを補正するチャンスが増えるとも言えます。

(5)計算誤りに注意すること

(2)との関連が強いと思いますが、

株主総利回りは、どうしてもそれ用の計算を経なければ算定することができません。

そのため、必ず計算誤りリスクというものが発生します。

しかし、計算ロジック自体は確立されており、エクセルに正確に入力できればよいので、

リスク自体は高くありません。

では、すべての上場企業が間違うこと無く指標を算定できているかというと、そうでもないようです。

いくらかの割合では、明らかに計算ミスと思われるものも見られるようです。

この部分は、監査法人の監査対象ではないこともあり、経理の状況に比べてチェックが甘くなる部分があるのかもしれません。

この点について、当ブログではいくつかのリスクシナリオをたてて、それぞれの対応策について検討してみました。

*「+」ボタンでリスク対応案が展開します。

リスク1:入力ミス
金融庁のエクセルに、誤った数値を入力するリスクがあります。対策として、レビュー担当者を決めておき、チェックすることが考えられます。すべての入力数値について、必ず突合し、レビューを受けることです。株価はどこから転記しているのか、配当は他の注記の配当記載箇所との整合性は取れているのか、入力年度がずれていないかなど、すべての入力数値について転記元も含めて確認しましょう。
リスク2:関数破壊、計算誤りチェック
金融庁のエクセルで設定している関数が、いつの間にか壊されているリスクです。結果、有報への誤った転記に繋がります。これには、関数が入っているかのチェックが有効でしょう。「Shift」+「Ctrl」+「@」のショートカットキーを使用すれば、エクセルのセルの中身が関数か値かをすぐに発見できる画面を利用できるので、値になってしまっていたり、関数がおかしいところがないか、確認しましょう。また、関数で計算しただけだと不安な場合、電卓による計算チェックを入れてみましょう。
リスク3:基準時点
これは上記(2)(3)の内容そのものです。対応としては、①基準時点の株価が正しくアップデートされているか、②年月の列がきちんと更新されていて、年度ごとの数値が正確に転記されなおされているかどうか、などという点を確認することです。
リスク4:正しく有報に転記されていないリスク
最後まで気を抜けません。有報への転記が正しいかは、必ず確認しましょう。特に、ファイルを修正するなどして、数値がアップデートされた場合に、更新漏れが起こりやすいです。

状況に応じて、他にもリスクシナリオは考えられますが、基本的には「入念にチェックする」という点に尽きます。

また、推移などをみて分析することで、異常値になっている場合に気付けることがあるかもしれません。

最近始まった開示内容ではあるため、不慣れな計算を要求されている部分もあると思いますので、入念に確認していきましょう。