【US GAAP】米国会計基準と日本基準との差異で留意すべき10の論点

【US GAAP】米国会計基準と日本基準との差異で留意すべき10の論点

こんにちは。

アカウンティングファイターです。

IFRSへ移行する日本企業が増えています。

しかし、米国会計基準(US GAAP)も、会計界では非常にインパクトの大きい基準で、忘れてはならない会計基準だと思います。今でこそIFRSの影響が大きいものの、会計ビックバンといわれる2000年頃はまだ米国基準を大いに参照して基準開発が進められてきました。

その後USに上場している企業がかなり減少したとはいえ、いまもなおUSGAAPで連結決算を公表している日本の上場企業もいくつかあります。知らない人がいないようなビッグカンパニーばかりです。

そして、これらの企業の有価証券報告書では日米の重要な基準差異が開示されています。

そこで今回は、USGAAPを使用している企業の有価証券報告書を利用して、本当に重要な基準差異ランキングを作成してみます。

これにより、実際どの論点がより多くの企業で調整されているか、理解できます。

これは、主要な基準差異について理解を進めつつ基準の論点を理解し、日本基準がどうなっていくのかという予測にもつながるとと信じています。また実務では、IFRSに書いていないが米国基準では指針がある論点について、IFRS上の判断を行うにあたり、米国基準を参照して解決の一助とする場面もありますので、そういう意味でもある程度押さえておくメリットはあると思います。

なお、ランキングに使用した企業は以下の通りで、19年3月期または19年12月期の情報を利用しました。開示されている基準差異論点に絞って、独自に集計した項目数をベースにランク付けしています。

会社名 市場
ソニー 米国
三菱UFJフィナンシャル・グループ 米国
オリックス 米国
トヨタ自動車 米国
キヤノン 米国
野村ホールディングス 米国
みずほフィナンシャルグループ 米国
㈱小松製作所 日本
オムロン㈱ 日本
㈱東芝 日本
TDK㈱ 日本
富士フイルムホールディングス㈱ 日本
㈱ワコールホールディングス 日本
㈱村田製作所 日本

ランキング発表

第10位:特別損益

特別損益
US GAAPでは、日本基準でいう特別損益はありません。
ただし、①「通常でない(=異常である)」と②「まれに発生する」のいずれかに該当する項目は、PL(継続事業)において、別個の項目として計上するか、あるいは注記によって開示されることになっています(ASC220-20)。
問題は①と②の要件へのあてはめですが、日本基準の特別損益よりも厳しい要件になっています。例えば、固定資産除却損は、これらの要件を満たさない可能性が、日本基準よりも高いと思われます。
IFRSでもUSでもいわゆる特別損益としての開示は想定されませんが、USでは明らかに異常っぽいものはそれらしく開示します(特別損益という名称ではないにしても)。それはそれで筋が通っているように思います。
開示例 ㈱ワコールホールディングス
個別財務諸表上、特別損益として表示される固定資産除売却損益等及び固定資産減損損失のうち、通常の営業活動のために使用している固定資産から発生するものは、連結財務諸表上は営業費用として表示しております。

第9位:圧縮記帳(直接減額)

 

圧縮記帳(直接減額)
US GAAPでは圧縮額を固定資産勘定から直接減額して費用計上するルールはありませんので、組替仕訳にてこれを戻すことになります。

日本基準も通常は剰余金方式で処理している(監査人はそう指導するはず)と思いますが、ポリシーとして圧縮損を計上しているならば、これは戻すしかありません。意外と調整している会社は多かったです。

㈱ワコールホールディングス 19年3月期
個別財務諸表上、買換資産等について直接減額の方法により圧縮記帳した額については、連結財務諸表上は土地等の取得価額に加算し、かつ税効果調整後の金額を利益剰余金に計上しております。

第8位:デリバティブとヘッジ会計

デリバティブとヘッジ会計
USではASC815で処理しますが、日本の金融商品会計基準と比較すると多数の差異があるので、開示上は特に影響があるところについて限定して記載するか、あるいはざっくりと会計基準が異なる点を記載するにとどめる事例もあります。
ここでは書ききれないので、主なものを以下に記載します。
  • USではキャッシュ・フロー・ヘッジのうち、ヘッジ手段の損益のうち非有効部分は損益計上+開示が必要ですが、日本基準では要件を満たす限り、非有効部分も損益繰延が可能です(こちらはIFRSと類似していますね。)。
  • 組込デリバティブの区分処理の要件が異なっています。USでは、組込デリバティブの経済的特徴とリスクが主契約の経済的特性とリスクに「明確かつ密接に関連」しているとみなされる場合、組み込みデリバティブは主契約から区分されないという明確な基準があります。日本基準では、組込デリバティブのリスクが現物の金融資産又は金融負債に及ぶ可能性があるなどの要件を満たすと、区分されます。

野村ホールディングス 19年3月期
米国会計原則では、ヘッジ手段として保有するデリバティブ金融商品を含めすべてのデリバティブ金融商品は公正価値で評価され、評価差額は、損益またはその他の包括利益に計上されます。日本会計原則では、ヘッジ手段として保有するデリバティブ金融商品は公正価値で評価され、評価差額は適用される法人税等を控除しその他の包括利益に計上されます。

第7位:法人税等

法人税等
日本基準との差異として注記されている話は、以下の通りです。
  1. 日本基準と同様に評価性引当金の概念を使用しますが、繰延税金資産(DTA)の回収可能性は、50%超(MLTN=more likely than not)によります。日本基準のような形式的な会社分類(1~5)はありません。
  2. 税率が変更された場合、その他有価証券のような評価差額を資本直入しているケースでも、その影響を損益で認識します。日本基準やIFRS(FVOCI)ではOCIで認識します。
  3. 不確実な税務ポジションです。基準書第740号「法人税」に基づき、税務ベネフィットが50%以上の可能性で税務当局に認められないと考えられる場合には、費用計上することになります。
    *そもそも用語が日本基準で存在しませんが、税務上のポジション=申告書で未確定な判断を要する調整項目等、税務ベネフィット=損金算入効果等とイメージすることができます。
    *昔はFIN48と呼ばれていた基準で、税務調査の結果多額の追徴課税が発生することが背景なのですが、見積りによらざるを得ないため、特に国際課税の影響が大きい会社ではかなり苦労する論点です。
    *IFRSでも、同様の趣旨・内容がIFRIC23号として2019年1月1日以後に開始する事業年度から適用開始しています。参考までに③に関して、事例を引用します。

    ソニー 19年3月期
    税務申告時にある税務処理を採用することによって生じる税金費用の減少が、50%以上の可能性で税務当局に認められないと考えられる場合には、税金引当を計上しています。

第6位:有給休暇

有給休暇
USでは有給休暇は従業員の将来の欠勤に相当する報酬として、要件を満たした場合に負債計上する必要があります。IFRSと概ね同内容です。
事例を以下で引用いたします。
オムロン 19年3月期
当連結財務諸表では、FASB会計基準書第710号-10-25「報酬-有給休暇」に基づいて従業員の未使用有給休暇に対応する人件費負担相当額を未払計上している。

第5位:連結の範囲

連結の範囲
USでは変動持分事業体(VIE)を連結するという論点があるという点に尽きます。日本基準では支配力基準がベースであり、このような考え方はありません。議決権に限らず連結範囲を検討する点はIFRSとも似ていますが、その検討過程はより複雑だと思います。
こちらは書き始めるときりがないので、別に機会を設けたいと思います。
トヨタ 19年3月期
米国会計基準では、連結の対象となる子会社の判定を持株基準 (50%超) を基礎として行っています。また、トヨタが主たる受益者となる変動持分事業体を連結の対象としています。我が国において一般に公正妥当と認められる会計原則 (日本会計基準) では、持株基準による子会社に加え、支配力基準による子会社を連結の対象としています。

第4位:新株発行費

新株発行費

USでは、新株発行費(株式交付費)を資本取引として、資本の控除項目とします(資本剰余金等から控除します)。IFRSと同じですが、日本では損益処理なので、差異となります。

㈱小松製作所 19年3月期
わが国では株式交付費は損益取引として発生時に費用処理が認められているが、当社の連結財務諸表では米国会計基準に従い、資本取引に伴う費用として資本剰余金の控除項目として処理している。

第3位:有価証券評価

有価証券評価
ASC321投資-株式証券というUS基準が差異注記の中心になっています。
こちらは主に日本でいうところの投資有価証券(評価差額を純資産直入)についての取り扱いの差異になりますが、大企業であれば持ち合いも多いことから、GAAP差異を開示している会社が多くなっているのだと推測されます。

USでは、原則として時価評価した結果は損益で処理されます。IFRSでいうFVTPLになるわけです。これは大きな影響ですので、開示している企業が多いです。

なお、持分証券以外の債券にかかる処理はASC320にてルール化されていますが、こちらのほうが複雑ですので、別途の機会にご紹介できればと思います。

キヤノン 19年12月期
持分証券に関しては、基準書321「投資-持分証券」を適用しており、原則として公正価値で測定し、その変動を税引前当期純利益に計上しております。

第2位:退職給付

退職給付

数理計算上の差異の会計処理に関して、USは回廊(コリドー)アプローチを採用。これに尽きます。回廊(コリドー)アプローチは、数理差異を、回廊額(予測給付債務と年金資産の公正価値のうち大きい額の10%と定義される)を超過している場合に、当該超過部分を償却して損益処理するアプローチで、いわゆる重要性に基づく処理の1つの形態です。

日本基準では、年金数理差異等は回廊額とは無関係に一定期間にわたり償却されますので、償却ペースが異なります。IFRSでは現行IAS19ではそもそも償却しません(ノンリサイクル)。

なお、より詳細な基準差異は、こちらがわかりやすいですね。

トヨタ自動車 19年3月期
米国会計基準では、数理計算上の差異は、期首時点の当該残高が予測給付債務と年金資産の公正価値のうちいずれか大きい額の10%と定義される回廊額を超過している場合にのみ、従業員の平均残存勤務期間にわたって償却されます。日本会計基準では、数理計算上の差異は、回廊額と無関係に、一定期間にわたって償却されます。

第1位:のれん・無形資産

のれん・無形資産
1位と2位で迷いましたが、今非常にTopicになっていることから、こちらを1位としました。
USでは、IFRSと同様、のれんと耐用年数が確定できない無形資産は償却をせず、少なくとも年1回の減損テストを行います。
しかし、IFRSで償却再導入が議論されているのと同様、USでも償却論について熱を帯びてきているようです。
(参考)経営財務3433号 FASBコメント募集「のれん等の会計処理」に提出されたコメントの動向の分析(速報)

ちなみに上記記事ではアナリストは償却反対が多いですが、本当の理由がよくわかりませんね。どうせ計算からは除外している部分もあるだろうし、中立なイメージでしたが。株価が下がったら困ると思っているのでしょうかね。
㈱村田製作所 19年3月期
のれんについては、日本会計原則においては「企業結合に関する会計基準」に、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することと規定されております。一方、連結財務諸表上は「ASC350(のれん及び無形資産)」に従い、償却を行わず、代わりに少なくとも年1回の減損テストを行っております。なお、最近2連結会計年度における当該会計処理による税引前当期純利益に対する影響額は、当連結会計年度13,223百万円(増)、前連結会計年度12,145百万円(増)であります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、実際に注記されている内容の件数をベースにランク付けしてみました。

件数が多い方が、より普遍的で、広範囲な影響だと考えたためです。

実際は、もっと多くの差異がありますので、機会があったらまたご紹介したいと思います。

おまけ

なお、今回参照した専門書は、以下です。

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