関連当事者取引_調査票を作成するときのポイントと調査票のひな型(ひな形)

はじめに

こんにちは

ファイターです。

今回は、関連当事者取引に関する調査票の作成のポイントについて触れていきたいと思います。

ここでいう調査票とは、基本的に役員に送付するものを想定しています。

既に検討が進んだ上場会社であれば従前の調査票をそのまま、もしくはカスタマイズして送付することができますが、これから上場を目指す会社には、普通は調査票が存在していません。

そこで、そのような後者のタイプの会社の担当者様の参考になるような調査票を、事例を見てきた見地も踏まえて記載したいと思います。

調査票の作成実務STEP

本記事では、調査票の作成については便宜上以下のSTEPのとおりとして進めていきます。

STEP1:関連当事者の対象者の特定

STEP2:対象者への調査票の送付

STEP3:回答の入手と重要性判断

記事の最後には、調査票のひな型(案)も提示します。

STEP1:関連当事者の対象者の特定

対象者の特定

最初は、「一体誰に調査票を送るのか」を特定しましょう。

まず、基準に記載されている関連当事者のグループとタイプを羅列してみます。

このうち、帳簿記録では取引を確認できないような相手先についての情報を調査票で確かめるのが基本スタンスです。

これらを考えると、通常は下記の黄色部分が、メインターゲットになってきます。

グループ 基準5項(3)番号 関連当事者のタイプ
1.親会社及び法人主要株主等 親会社
財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(以下「その他の関係会社」という。)並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
財務諸表作成会社の主要株主及びその近親者
2.関連会社等 子会社
関連会社及び当該関連会社の子会社
従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。)
3.兄弟会社等 財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社
財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社(以下「その他の関係会社」という。)並びに当該その他の関係会社の親会社及び子会社
⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
4.役員及び個人主要株主等 財務諸表作成会社の主要株主及びその近親者
財務諸表作成会社の役員及びその近親者
親会社の役員及びその近親者
重要な子会社の役員及びその近親者
⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社

主要株主(ここでは、特に個人)と、役員がメインの調査ターゲットになります。

POINT・・・こんな対象者漏れに注意

実際にざっくりとターゲットが見えてきたところで、実務的に送付先として漏れることのないように、注記すべき相手先について解説しておきます。

役員

役員の定義
4.「役員」とは、取締役会計参与監査役執行役又はこれらに準ずる者をいう(会計基準第5項⑺)。
「これらに準ずる者」は、例えば、相談役顧問執行役員その他これらに類する者であって、その会社内における地位や職務等からみて実質的に会社の経営に強い影響を及ぼしていると認められる者をいい、創業者等で役員を退任した者についても、役員の定義に該当するかどうかを実質的に判定する。

・会長/相談役/顧問

上記の定義にあるように、日本の伝統的な役職である、会長や相談役、顧問などといった呼称をされる方々についても、対象になります。

元創業家一族の方で、伝説になっている方であっても、調査をする必要があります。特にそのような肩書の方については、自ら若しくはその近親者が支配する会社を所有していて、報告企業と取引をしていることもあり得ます。

実際の訂正事例を見ていると、そのような取引について注記が漏れている案件も散見されます。これらの対象者を送付先に含めるだけではなく、正しい回答が得られているかについて要注意です。

・執行役員

執行役員は会社法上の役員ではありませんが、「その会社内における地位や職務等からみて実質的に会社の経営に強い影響を及ぼしていると認められる者」であれば対象になってしまいます。通常はあまり想定されませんが、執行役員を送付対象から外す場合は、役員の定義を満たすことにならない点については慎重に判断し、文書を残したうえで調査を進めるとよいと思います。

・親会社の役員

親会社が上場していれば、親会社の関連当事者調査がされているはずですので、こちらの結果を利用することも考えられます。

親会社の定義については、財規8条3項に以下のように記載されています。

3 この規則において「親会社」とは、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関をいう。以下「意思決定機関」という。)を支配している会社等をいい、「子会社」とは、当該他の会社等をいう。親会社及び子会社又は子会社が、他の会社等の意思決定機関を支配している場合における当該他の会社等も、その親会社の子会社とみなす。

この「子会社」の説明を孫会社の視点から見たときに、孫会社にとっては子会社も親会社も、いずれも親会社と扱うことに注意が必要です。つまり報告企業が孫会社であれば、最終的な親会社についても親会社として取り扱います。

・重要な子会社の役員等

こちらは言葉の問題なのですが、「重要な」が、「子会社」にかかるのか、「役員」にかかるのかで、調査対象の認識に相違が出てしまいます。

正解は、「役員」にかかります。

趣旨としては、企業グループに重要な影響を及ぼしかねない人物が子会社の役員になっている場合に、関連当事者取引があれば検出しようというものです。
しかし、本来懸念すべき場合というのは、以下の21項の例が示すように、「怪しさ」が出ている場合でしょう。これを逆手に、重要な子会社の役員との対象取引を絞り込んでいく手があるかもしれません。

基準21項
検討の結果、関連当事者の開示の趣旨を踏まえ、会社グループの事業運営に強い影響力を持つ者が子会社の役員にいる場合には、当該役員も関連当事者としている(第5項⑶⑨参照)。
例えば、会社グループの中核となる事業活動を子会社に委ねている場合にあっては、当該子会社の役員のうち当該業務を指示し、統制する役員は、会社グループの事業運営に強い影響力を持つものと考えられる。

ところで何度も思いますが、「重要な子会社の役員」は、それだけ読むとかなり読みづらいですね。

というか、日本語おかしいですね。これは確かに誤解のもとです。

そういう意味だったら、日本語的には、当時のパブコメに指摘があるように、「重要な子会社役員」などとすべきなのでしょう。

当時のパブコメとそれへの対応について、以下引用しておきます。修正するとされているのは、あくまで説明のところだけで、「⑨ 重要な子会社の役員及びその近親者」というキーワードは残っています。企業会計基準委員会は何がそんなに修正を拒む要素があったのでしょうかね。

■コメント
関連当事者か否かの判断は、子会社の重要性によるのか、役員個人の重要性によるのかを明確にしていただきたい。
(理由)通常「重要な」は「子会社」にかかるものと思われる。しかし、「企業グループの事業運営に強い影響力を持つ者が子会社の役員にいる場合には」とあり、「重要な」は「役員」にかかるようにも読める。いずれが正当であるか、誤解のない表現に修正する必要があると考える。
・基準案5 項(3)⑨「重要な子会社の役員及びその近親者」の「重要な子会社の役員」の意義が明確ではない。この重要な子会社の役員とは、基準案によると、子会社の役員のうち重要な者という意味であり、重要な子会社における役員ではない。しかし、「重要な子会社の役員」という言葉からだけでは、どちらを指すかが明確ではなく、誤解の生ずるおそれがある。そこで、この用語を「重要な子会社役員及びその近親者」などに変更し、子会社役員のうち重要な者ということを明確にすべきである。

■回答
本会計基準案では、「重要な」は「役員」にかかるものと考えており、その旨が明確になるよう、会計基準案第20 項(基準では第21 項)の表現を修正する

STEP2:対象者への調査票の送付

POINT・・・こんな取引漏れに注意

・ストック・オプションの行使

以下の記事でも触れていますが、ストック・オプション(SO)の行使は関連当事者取引の注記対象になります。

【有価証券報告書 注記の訂正事例でわかる作成/記載要領】関連当事者_役員ストックオプションの行使注記漏れ2

発行は対象外ですが、行使は対象になります。ややこしいですが諦めましょう。

・役員が代表者となっている法人(法人として集計)

ややこしいのですが、以下の取引は、それぞれ別物です。

  1. 議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社(基準5項(3)⑩)
  2. 財務諸表作成会社の役員が関係会社等以外の会社の代表を兼務している会社(適用指針33項)

調査においては、②を忘れてはいけないところです。

以下、詳細ご参照ください。

関連当事者との取引に関する開示を理解するための4つのポイント

その他

以下の取引は、ぱっと見、集計しなくてもよいと思ってしまいがちですが、対象取引になります。

そのため、漏れないように集計が必要になります。

・無償取引

・形式的に第三者を経由した取引

・資本取引/債務保証

 

STEP3:回答の入手と重要性判断

POINT:個人取引は10百万円が基準値→時間を無駄にしない

対個人取引は、重要性の閾値が10百万です。

そのため、これを下回る場合は、結論として注記は不要になります。

ですので、結論がわかっているならばこれを念頭に検討を進め、時間を使い過ぎないようにしましょう。

調査票のサンプル

さて以上を踏まえて、調査票の例について作成してみました。
(注意)こちらはあくまで一般例を想定したサンプルであり、常に調査票として必要な要素を具備しているとは限りません。個別に監査人と相談するなどして、あくまで自己責任でご利用ください。

見栄えが悪くなりますが、コピペができるように、こちらの記事にベタ貼りしていきます。

■関連当事者取引の調査票

調査回答者
対象期間          YYYY/MM/DD~YYYY/MM/DD
回答日                      YYYY/MM/DD
対象期間中に行われた取引(期の途中で開始または終了した取引も含む)について以下、ご回答ください。

Q1:●●株式会社と、私または私の近親者との取引があります。
□Yes
□No

※「近親者」とは、二親等以内の親族、すなわち、配偶者、父母、兄弟、姉妹、祖父母、子、孫及び配偶者の父母、兄弟、姉妹、祖父母並びに兄弟、姉妹、子、孫の配偶者をいいます(以下、同様)。
ここで、例えばこちらのような二親等の図を挿入すると、より丁寧で回答者が理解しやすいと思われます。

Q2:Q1でYesとなる場合、以下の項目についてご回答ください。

私または私の近親者
(氏名)
近親者の、
本人(私)との続柄
取引内容
(※)
取引金額/円(税抜)


※ 本調査票における「取引」には、財またはサービスの売買取引のみならず、不動産の賃貸借、債務保証(被保証)、担保契約、資本取引、金利、ストック・オプションの行使、その他一切の取引を含みます(以下、同様)。

※ また「取引」には、「形式的・名目的に第三者を経由した取引で実質的な相手先が●●株式会社であることな明確な取引」や、「無償取引」についても含みます(以下、同様)。

Q3:●●株式会社と、(1)私または私の近親者が代表者となっている法人、または(2)私または私の近親者が支配している法人との取引があります。
□Yes
□No

※(1)「代表者となっている法人」は、●●株式会社の関係会社(別紙)以外の法人についてご回答ください。
※(2)「支配している法人」とは、私または私の近親者が他の法人の議決権の50%超(過半数)を所有している場合の法人をいいます。なお、「支配している法人」が子会社を有している場合には、当該子会社も対象となります。

Q4:Q3でYesとなる場合、(1)(2)の会社それぞれにつき、以下の項目についてご回答ください。

法人名 議決権等の所有(被所有)割合(%) 法人所在地
(市区町村)
事業内容 資本金
又は
出資金
出資者氏名 ●●(株)との関係 ●●(株)との取引内容 取引金額
/円(税抜)