【新収益認識】IFRS15_英国FRCレビューでわかる開示のポイント

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【収益認識】IFRS15_英国FRCレビューでわかる開示のポイント

英国FRC(Financial Reporting Council:財務報告評議会)は、IFRS第15号の適用後2年目となる企業の開示を総括し,改善点を示したテーマ別レポート(以下,本レポート)を公表しています。

(関係ないですが、IFRS16の初年度のテーマ別レポートも公表されています)

日本でも、2021年4月より新収益認識基準を適用しますが、開示面ではIFRS適用企業を日本語で参照することが多いのではないかと思います。

しかし、そもそもそのIFRS適用企業の開示が、どうなのか?という点に突っ込んだのが今回のマテリアルになります。

参考にならないわけがありません。

ということで、以下学んだことをポイントで記していきます。

  1. 収益認識時期(一時点)Timing of revenue recognition
  2. 収益認識時期(一定期間)Timing of revenue recognition
  3. 変動対価(Variable Consideration)
  4. 収益の分解(Revenue disaggregation)
  5. 契約残高(Contract balances)—–>省略
  6. 重要な判断(Significant judgements)
  7. 契約獲得コスト/契約履行コスト(Costs to obtain or fulfil a contract)

収益認識時期(一時点)Timing of revenue recognition

ポイント 〇良い例 ×悪い例
利用者が、ポリシーと履行義務をリンクして理解できるか 収益は、当グループの履行義務が履行されたとき、すなわち、商品の支配権が顧客に移転したときに認識される。

顧客は、個々の顧客の取り決めに応じて、商品が顧客の敷地内に引き渡され、受領されたとき、または指定場所で利用可能になったときに、商品の支配権を取得する。
Fevertree Drinks Plc, 2019, p73
1.製品Xおよび製品Yの販売による収益は、商品の支配権が移転した時点で損益計算書で認識されます。

2.製品Zの販売による収益は、請求書が発行された時点で認識されます。

実際に商品の支配が移った場合について説明しているか
企業に固有であるか

良い例では、確かに一時点というのは、具体的にはどのような時点なのかについて、企業の具体的な状況をベースに記載されています。

対して、悪い例1.では、基準上の一般的な記載にとどまっている感じがします。また、2.では、請求書発行時点とだけ書いているので、履行義務との関連で理解が難しいです。

支配が移転する時点について、具体的に説明する!

収益認識時期(一定期間)Timing of revenue recognition

×悪い例 どういう点が悪いのか?
サービス契約に関する収益は、サービスが契約条件に沿って実施された時点で認識されます。

Revenue in respect of service contracts is recognised as the services are performed in line with the contractual terms.

・具体的なサービスを特定していない。
・サービス契約の提供の進捗状況を測定するために使用される方法が開示されていない
Method used to measure progress of delivery of the service contracts not provided

・契約条件を参照しているが、それが何であるかを説明していない。
支出された資源と財・サービスの支配権の移転との間に直接的な関係がある場合にはインプット方式を、
契約上の成果物が移転された財・サービスの進捗に基づく場合にはアウトプット方式を採用しています。An input method is used where there is a direct relationship between resources expended and the transfer of control of goods and services and an output method is applied where the deliverables of the contract are based on the progress of goods and services transferred.
・アウトプット法を使用するための基礎の説明が混乱したものになっている。アウトプット法では、契約上の残りの財またはサービスと比較して、既に移転した財またはサービスの顧客に対する価値を直接測定した上で収益を認識する。
Confused explanation of the basis for using an output method. Output methods recognise revenue on the basis of direct measurements of the value to the customer of the goods or services transferred to date relative to the remaining goods or services under the contract.
・どのような状況下で各方法が適用されるのかが不明。
収益は、契約を完了させるための総工数に対する既に発生した工数を参照して、進行基準を用いて認識しております。

Revenue is recognised using a percentage complete method by reference to effort incurred to date relative to total effort to complete the contract.

effort」という用語が定義されていないため、適用されるインプット法が明確でない。「effort」は、消費された労働時間、発生したコスト、発生した機械の時間、またはその他の入力ベースを表している可能性がある。
Lacks clarity about the input method applied as the term “effort” is not defined. This could represent labour hours expended, costs incurred, machine hours incurred or some other input basis.
サービスの提供からの収益は、提供されたサービスの完了時に認識されます。

Revenue from the provision of services is recognised on completion of the services rendered.

財務諸表の他の場所で情報によれば一定期間の基準が満たされているように見える場合に、収益が一定期間で認識されない理由を明確にすべきである(例えば、非常に短いサービスサイクルに起因するなど)。
Should articulate why revenue is not recognised over time (e.g. due to very shortservice cycles) when criteria for over time recognition appear to be met based oninformation elsewhere in the accounts.

ここでは、2つ目のアウトプット法が難しいですね。何となく記載は間違ってなさそうですが、アウトプット法は、その進捗度の測定値が現在までの企業の履行を反映している場合にのみ適用できるというものです。「成果物が進捗に基づく場合」という説明では、顧客に対する価値が考慮されているのかわからず、その進捗が企業の履行を反映しているかわからないし、そもそも具体的にどういう状況でアウトプット法が使用されるのか、説明したことにならないという事を言いたいのかもしれません。

インプット法も、インプットの中身について触れる必要がありそうです。

では、どういうのが良い例なのでしょうか。以下見ていきます。

〇良い例 どういう点が良いのか?
当社グループの主な収益は、ユーザーのセキュリティ、オンラインプライバシー、デバイスのパフォーマンスを保護するデスクトップ及びモバイル向けのソフトウェア及び関連サービスの販売から得ております。
顧客とのライセンス契約には、ソフトウェアのアップデートを含む製品の使用権が与えられる事前に設定されたサブスクリプション期間が含まれています。
典型的なサブスクリプション期間の長さは、1ヶ月、12ヶ月、24ヶ月、または36ヶ月です。アンチウイルスソフトウェアは、顧客に利益をもたらすためにソフトウェアを最新の状態に保つために頻繁に更新する必要があり、そのため顧客はライセンス期間中に更新されたソフトウェアを使用する必要があります。
これは、ライセンスが長期的にソフトウェアにアクセスする権利を付与していることの証拠となるため、収益はライセンス期間にわたって均等に認識されます。
ソフトウェア・ライセンスは、特定されていないアップデートとともに、単一の明確な履行義務を形成しています。
Avast Plc, 2019, p123
履行義務の性質、契約条件、およびソフトウェアライセンスの支配が時間の経過とともに移転する理由について明確に説明されている

 

省略 

TP Group plc, 2019, p70 & 71

1.契約内の各約束が明確である

2.どの一定期間の基準が満たされたか、また完成に向けてどのように進捗が測定されるかが明確である

保守・サポート収益は通常、経過時間に基づいて認識され、その結果、サポート契約の期間に応じた割合で認識されます。
標準化された保守・サポートサービスの下では、当社グループの履行義務は、技術的な製品サポート、不特定のアップデート、アップグレード、機能強化を、利用可能な時に利用可能な範囲で提供する準備を整えることです。
顧客は同時にこれらのサービスの恩恵を受け、消費することになります。
Sage Group plc, 2019, p156*
履行義務の性質は「待機(準備)義務」であり、進捗状況は手配期間にわたって定額ベースで測定されることを明確にしています。
以下について、具体的に記載する!
▶履行義務の内容(顧客に対して何をどうやっている?)
▶進捗度の測定方法
▶アウトプット法・インプット法の中身

変動対価(Variable Consideration)

×悪い例 何が悪いのか?
顧客から約束された対価が変動対価である場合、企業は、企業が権利を得る対価の金額をより良く予測する金額に応じて、期待値又は最も可能性の高い金額のいずれかを用いて、変動対価を見積もることになります。

変動対価の見積額の一部または全部が取引価格に含まれるのは、変動対価に関連する不確実性がその後解消された場合に、認識された累積収益の額の大幅な取り崩しが発生しない可能性が高い場合に限られます。

・方針がIFRS第15号からコピーされたものであり、会社固有のものではない。
・変動対価の性質が開示されていない。
・見積の方法が変動対価の形態にマッチしていない。
・経営者が変動対価の制限をどのように解釈し、適用しているかが不明確。
・変動対価の見積りが制限されるべきかどうかを評価する際に行われた判断についての説明がない。
売上割引およびリベートの取り決めが正味の変動対価となる場合、適切な引当金は販売時点で収益からの控除として認識されている。
当社グループは、リベートの見積りに通常、期待値法を使用しており、これは、そのような契約が類似した特性を持ち、様々な可能性のある結果を 反映していることを反映している。
当グループは、累積収益の大幅な取り崩しが必要とされない可能性が高い範囲で収益を認識しております。
変動対価の制限がどのように適用されるかについて、具体的には説明されていない。

変動対価は、本当にややこしいですね。内容の検討もそうなのですが、開示上もかなりの注意が必要です。

具体的なTipsが示されていたので、まずそちらを理解します。

個別具体的であること – 基準からコピーした文章は参考にならない
対価がどのように変動するかを説明する
経営者が認識された収益が制約の範囲内であることをどのように保証するかを記述する
変動対価が前半部分でコメントする価値がある場合は、財務諸表でどのような開示が要求されるかを検討する
利用者の理解を助けるために例を提供する
IFRS第15号内のパラグラフを参照するのではなく、有用な場合には、会計と基礎となる要件を説明する

まあ、言われれば仰る通りかなとは思いますが、「基準のコピーをとにかくやめろ」という文脈は、場合によってはなかなか厳しい指摘だと感じますね。
「勝手に変動対価というよくわからないルールを作っておいて、よく言うわ」という声が聞こえてきそうですが、しかし変動対価はまさに見積りが大きく介入する余地があるところなので、十分に個別具体的な説明が必要である点は理解できます。
特に、企業がコントロールできない/しにくい要因で対価が変動する場合などは、”制限”の観点から慎重な検討が必要です。監査においても、重要性が高い論点になりがちと言えるでしょう。

では、どういう例ならば、好事例なのでしょうか。以下のように示されています。

変動対価には、開発関連の偶発的なマイルストーンおよび規制当局の承認マイルストーンの形での支払いの見積もりが含まれています。これらのマイルストーンは、最も可能性の高い結果が受領される場合に、取引価格に含まれます。これが確立されると、将来的に収益の大幅な取り崩しが発生しない可能性が高い範囲で取引価格全体が制限されることになります。この見積りは、各報告期間ごとに再評価されます。
Hikma社とのジェネリック医薬品であるGSK Ellipta®ポートフォリオの開発にかかる当初の取引価格は2,000万ドルと評価されており、この中にはデバイス開発サービスの完了に伴う2つ目のマイルストーン500万ドルが含まれています。
2つ目のマイルストーンは、達成の可能性が高いと判断されるまで制約されています(すなわち、認識されていません)。
この500万ドルのマイルストーンが制約されていなければ、310万ポンド(2018年:220万ポンド)の追加収益が2019年に認識されていたでしょう。
Vectura Group plc, 2019, p105*

この例では、マイルストーンの達成可能性に左右される変動対価があって、その達成についての判断について触れられています。この事例では500万ドル分は達成の可能性が高くないとする結論と、仮に達成された場合の利益への影響も記載されていますね。
確かにかなり具体的です。

▶基準の文言のコピペをせず、自らの言葉で語る!
▶どういう風に”変動”する対価なのか、説明する
▶”制限”の範囲内である点について、理由とともに説明する

収益の分解(Revenue disaggregation)

認識された課題 具体例
strategic report(*1)における収益の思慮深い説明と分析は、財務諸表への相互参照されていない ある会社は、最高経営責任者のレビューで、受注の規模別に割合を思慮深く提示し、大きな注文(>1,000,000)は収益のわずか5分の1であるが、小さい受注契約(<100,000)は総収益の4分の3を生成したと説明しています。これにより、収益が資本や予算よりも、主に顧客の事業に依存していたことを実証したので、重要でした。収益構成の変化は、その後、基礎となる経済状況別にリンクします。

別の会社は、収益がその最終顧客のセクターによって影響を受けたことをそのビジネスレビューで暗示した。

しかし、どちらの会社もそれぞれの財務諸表のこれらの基盤の収入を集計していませんでした。

経済的要因が収益に与える影響が十分に考慮されていないように見えることがあり、有用な集計が開示されていないことがありました。 strategic reportの中で、ある企業はcovid-19のオントレード売上高への影響を論じているが、財務諸表ではオントレードとオフトレードの売上高を区分していない。
収益の分解の開示は、事業部構造の意図された変更を反映していなかった。 ある企業では、翌年には市場に特化した新部門を加えた新部門構成を採用するとstrategic reportで報告していたが、利用者の業績評価の助けになったであろう、旧ベース+新ベースでの収益の集計を行っていなかった。
財務諸表よりも、strategic reportのほうが詳細なデータが開示されている。 ある通信会社は、strategic reportでは音声収益とデータ収益の間で収益を分割していたが、財務諸表では総収益の数字だけを提供していた。

(*1) 2013年8⽉、英国2006年会社法(戦略報告書・取締役報告書)2013年規則が承認された。この改正により、英国企業はアニュアルレポートの⼀部として、“ビジネスモデルに関する記述を要する戦略報告書(Strategic Report)”を開⽰することが義務化された(SD:英国における議論_経済産業省)。

これは、何が言いたいかというと、財務諸表以外の開示情報(統合報告書など)で、収益の分析をユニークな切り口で行っているが、財務諸表の収益分解の注記ではそういったベースで記載がされていないということですね。

バトルドッグ
声:(FS以外のところでは)詳しく書いてるじゃん!

これを踏まえ、以下のようなヒントが出されています。

ディスクロージャーのヒント
・戦略報告書および年次報告書以外のコミュニケーション(例えば経営報告書、投資家の提示)で示される情報との一貫性(整合性)を考慮する
・会社の状況に特有のカテゴリーを使用する
・カテゴリーは、収益の性質、金額およびタイミングが最も敏感になるリスクを反映すべきである。
・パフォーマンスを評価するための最適なデータをユーザーに提供する

経理の状況以外の統合報告書等で行っている分析との整合性について留意する

重要な判断(Significant judgements)

企業は,次の2つの事項を決定する際に用いた判断および当該判断の変更を説明しなければならないとされています(IFRS第15号第123項)。

●履行義務の充足の時期
取引価格、及び履行義務への配分額
×悪い例 何が悪いのか?
当社グループは、各商業的取決めについて、IFRS第15号の下で代理人または本人であるかどうかを検討し、それに応じて会計処理を行っております。 評価の結果、どのような結論に至ったのかを特定していない。
当社グループは、収益を認識するための適切な方法を決定するために、顧客との各契約を評価し、履行義務が時間の経過とともに充足されているか、またはある時点で充足されているかを判断することが求められています。 ・提供された情報はごく一般的なものに過ぎない。

・会社は、判断を行う際に何を考慮しているのか、例えば、一時点と一定期間の認識が適切であると判断する状況を明確にしていない。

固定価格の開発やコンサルティングのプロジェクトでは、各プロジェクトの完成率に関する見積りも必要となります。 ・完成率の算出根拠が明示されていない
・特に見積もることが困難なものが特定されていない。
・翌年度に重要な調整のリスクがある残高が特定されていない。
・定量的な情報が提供されていない。
当社グループの価格構造には、複数の直接・間接顧客とのリベート取引が含まれています。
これらは複雑な性質を有しており、リベート負債の引当金の必要水準を決定する際には見積りを必要とすることがあり、特に当社グループが負債の評価時には入手できない可能性のある顧客からの情報に依存している場合には、その見積りが必要となります。
・推定方法が説明されていない。

・定量的な情報が提供されていない。

これを踏まえ、以下のようなアドバイスが提言されています。

▶IAS第1号の下では通常開示の対象とならないような判断についても、IFRS第15号の下では開示が必要となる可能性があるため、重要な判断に関する開示の完全性を確保する。

▶重要な判断に関する開示が、監査委員会報告書や独立監査人報告書のような年次報告書の他の分野の情報と一致していることを確認する。

▶読者が収益に関連して行われた重要な判断があると予想される業界の会社については、そのような判断が重要ではないと経営陣が結論付けた場合に何もしないのではなく、重要性がないと結論付けた場合には、明確にすることが有用である。

判断に重要な見積りの不確実性が含まれる場合には、定量的な開示も提供されていることを確認してください。IAS第1号では、感応度や潜在的な結果の範囲など、このような情報の例を示しています。

もっと言うと、判断を説明しなければならないという場合に、一般的な基準の文言で語るのは微妙だということですね。具体的に記述をしなければならない状況になっています。

ここは、監査人とも協議が必要な場合があるかもしれません。

会計基準の適用における重要な判断
顧客との契約から生じる収益の金額及び時期の決定に重要な影響を与えるものを注記する(収益認識に関する会計基準80−19.)

契約獲得コスト/契約履行コスト(Costs to obtain or fulfil a contract)

こちらは日本基準ではあまり関係ないかもれませんが、IFRSやUSでは非常に厄介になることがある論点です。

おまけ的に、課題となる点についてポイントだけ記載します。

▶契約を取得または履行するための費用の具体的性質を記述していない。

▶IFRS第15号の下で、第三者のライセンス費用がIAS第38号「無形資産」の範囲内に入ると思われる場合に、資産計上していた。

契約コストと契約資産(IFRS第15号付録Aで定義されている)の両方を契約資産として参照してしまっており、話が混乱している。

▶資産の主要なカテゴリー別に契約を取得又は履行するための費用の決算残高を開示していない。

矛盾した開示(ある企業では、契約コストは契約期間にわたって定額法で償却されていると説明していた。しかし、財務諸表の他の箇所では、ソフトウェアの大幅な変更と最適化の期間にわたって償却すると記載されていた。両方の方針が適用されている可能性があるが、それぞれがどのような状況で適用されているのかは不明。)。