【有報 注記の訂正事例でわかる記載要領】セール&リースバックが行われたら注意すべき注記とは?

【有価証券報告書 注記の訂正事例でわかる記載要領】セール&リースバックがあったら開示上注意すべき注記

当ブログの【有価証券報告書 注記の訂正事例でわかる作成/記載要領】シリーズでは、

実際の訂正報告書の事例をもとに、その内容と発生原因をできるだけ具体的に研究し、ご紹介しています。

その特徴は以下の通りです。

◆読者が得られるメリット:

読者は実際のリアルな訂正事例をもとにリスクの高い領域の作成要領・記載要領・作成方法について効率的に学習できます。その結果、有報の作成・監査の精度を高め、訂正報告書発生のリスクを減らすことができます。

◆情報源:

EDINET

◆記事の信頼性:

監査と経理の両方の立場において、多くの開示実務を担当してきた公認会計士が記載しています。

(※ただし、EDINETから得られる情報は限定的であり、推定・推測が入らざるを得ないため、あくまで筆者の経験等に基づく参考情報としてご使用いただくことを想定しております。会計実務は多くの判断を伴うものであり、本情報をもとにしたいかなる損失等についても当サイトで責任を負担することはできませんので、予めご了承ください)

それでははじめていきます。

今回は、訂正事例でも頻繁に観測される、オペレーティング・リースの注記漏れの話から派生して、

セール&リースバックって、要注意だよな・・・という点をご紹介します。

【発行体カテゴリー】

東証1部

【監査法人カテゴリー】

Big4

【訂正箇所】

有価証券報告書>経理の状況>リース取引関係>オペレーティング・リース取引

【訂正内容(何が起こった?)】

  1. オペレーティング・リース取引のうち解約不能のものに係る未経過リース料の注記が、全て漏れていたため訂正した。

【訂正内容詳細解説】

訂正前後の比較(下線部が訂正箇所)

Point

  1. 全て漏れていることから、開示の検討が丸ごと抜け落ちていた可能性がある。
  2. 金額が大きい(当期における借手としての1年間のリース料が12億!)

【発生理由(推測します)】

会計基準

前提として、関連する会計基準をおさらいします。

リース取引に関する会計基準の適用指針

74 オペレーティング・リース取引のうち解約不能のものに係る未経過リース料は、貸借対照表日後1年以内のリース期間に係るものと、貸借対照表日後1年を超えるリース期間に係るものとに区分して注記することとしている(リース会計基準第22項)解約不能のリース取引として取り扱われるものは、第5項(1)及び第6項と同様である。ただし、リース期間の一部分の期間について契約解除をできないこととされているものも解約不能のリース取引として取り扱い、その場合には当該リース期間の一部分に係る未経過リース料を注記する。


5 ファイナンス・リース取引とは、次のいずれも満たすリース取引をいうとしている(リース会計基準第5項)

(1)  リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引(以下「解約不能のリース取引」という。)


6 解約不能のリース取引に関して、法的形式上は解約可能であるとしても、解約に際し、相当の違約金(以下「規定損害金」という。)を支払わなければならない等の理由から、事実上解約不能と認められるリース取引を解約不能のリース取引に準ずるリース取引として扱う(リース会計基準第36項)。リース契約上の条件により、このような取引に該当するものとしては、次のようなものが考えられる。

(1)  解約時に、未経過のリース期間に係るリース料の概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引

(2)  解約時に、未経過のリース期間に係るリース料から、借手の負担に帰属しない未経過のリース期間に係る利息等として、一定の算式により算出した額を差し引いたものの概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引


75 オペレーティング・リース取引のうち注記を要しないとされる重要性が乏しい場合とは(リース会計基準第22項)、次のいずれかに該当する場合をいう。

(1)  個々のリース物件のリース料総額が、第35項(1)に該当するリース取引

(2)  リース期間が1年以内のリース取引

(3)  契約上数か月程度の事前予告をもって解約できるものと定められているリース契約で、その予告した解約日以降のリース料の支払を要しない事前解約予告期間(すなわち、解約不能期間)に係る部分のリース料

(4)  企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額(維持管理費用相当額又は通常の保守等の役務提供相当額のリース料総額に占める割合が重要な場合には、その合理的見積額を除くことができる。)が300万円以下のリース取引(1つのリース契約に科目の異なる有形固定資産又は無形固定資産が含まれている場合は、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができる。)

74項で原則が語られており、5項と6項を参照している形になります。
75項は例外で、開示をpassできる場合になります。

発生理由について考察(推測です)

理由(1):解約不能な状態に該当してしまっているが、これに気付けなかった

このように考えるのは、「解約不能な状態に該当していることを把握していたが、開示していなかった」というのは、通常考えにくいからです。

金額的にも重要性があると思われるので、尚更です。

理由(2):解約不能な状態にあることが、わかりにくい状態であった

ということは、理由(1)がなぜ発生してしまうかというところが重要です。

「解約不能状態であって、注記が必要なステータスであった」と認識できなかったからです。

とはいえ、訂正報告書からは、注記が漏れていた未経過リース料が、どのような物件を、どのような条件で契約していたのかなどの詳細を直接読み取ることは難しいです。

そのため、かなり推測にはなってしまうのですが、個人的な予想を述べます。

個人的には、行われたセール&リースバック取引について、「売却損益をどのように会計処理するか」という会計処理の論点には時間をかけて検討を重ねたが、注記については十分に検討していなかった可能性があるとみています。

真相は結局わからないので、これで話が終わってしまいますが、

以下ではこちらから派生して、セール&リースバック取引の留意点について考えてみたいと思います。

【どのようにすれば防げたか?】

セール&リースバックの注記は、盲点!

まず認識をしておかなければならないコトがあります。
それは、「セール&リースバック取引は、会計処理ばかりに目がいってしまい、注記の検討がおろそかになりがち」という点です。
さきほど示した注記についての基準(適用指針)のように、基準では「オペレーティング・リース取引のうち解約不能のものに係る未経過リース料」としての注記を要求されていますが、
「セール&リースバック」などという文言は登場しません。
これは、リースバックが行われるということは、当然リース契約を抱えているため、通常のリース取引と同じように考えるためかと考えられます。
要するに当然のことなので、わざわざ基準では記載しないのです。
考えが及びさえすれば、「リースバックが行われたら注記に気をつけて下さい」ということを、基準は言ってくれないので、開示チェックリストなんかでもそこまで具体的にアナウンスできなかったりします。
そのため、考えが及ばない場合は、訂正報告書のリスクとなってしまいます。
このブログをお読みいただいたら、「リースバック=注記にも注意」と覚えていただければと思います。

特に、不動産のリースバック取引に注意!

特にリスクのある項目としては、不動産のリースバックが挙げられます。
なぜなら、不動産のリースバックは、多くの場合でオペレーティング・リースになりやすいからです。
特に、土地の場合。
しかも、不動産は金額が大きくなるケースも少なくないため、
いったん漏れてしまうと、そのインパクトが大きくなる可能性があります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は訂正事例から少し話を膨らませて、セール&リースバックの注記についてのアナウンスを記載いたしました。

まとめると、

セール&リースバック取引実行時には、会計処理だけではなく、注記にも十分に留意する!

というメッセージに尽きます。

自分自身、気をつけていきたいと思います。