セグメント情報の開示作成において知っておくべき会計基準の考え方とルール

セグメント情報の作成において知っておくべき会計基準の考え方とルール

こんにちは、アカウンティングファイターです。

またの名を、哲といいます。

さて今回もセグメント情報に関する記事です。

今回は、セグメント会計基準(適用指針)が定めているルールについて紹介していきます。

以前、こちらの記事でマネジメント・アプローチについてご紹介しました。

セグメント情報の開示を理解するためのポイント

そのため、セグメントについては経営者の思う通りに作れば良いというイメージを持ってしまいます。

しかし、実際はセグメント基準は、こうやってください、これはやらないでくださいということをいろいろと注文しています。

今回はそのような基準のルールを解説していきます。

報告セグメントの決め方

適用指針は具体的に、どのようにして事業セグメントから報告セグメントを決定するかについて、割とガチガチに指針を出しています。

これは、適用指針の、「2.報告セグメントの決定(フローチャート)」というところで掲載されていますので、是非ご確認をお願いします。

ここでは、そのフローチャートにも記載されている論点の中から、紛らわしい話についてピックアップして解説します。

すなわち、2つの「セグメントの集約(結合)」についてです。

ちょうどフローチャートでいうところの、以下の部分です。

出所:適用指針(一部筆者が加工)

【集約】事業セグメントの集約基準(基準11項)

こちらは1つ目の集約です。

この11項の集約は何を言っているかと言いますと、

経営者がマネジメント・アプローチに基づいて識別した「事業セグメント」が複数ある場合、その「集約基準」の要件を満たすものを集約することができるというものです。

これは、「量的基準(10%基準)」のに行うことが出来る1つ目の集約で、全ての事業セグメントが受けることができる集約基準になります。

ただし、集約のためのハードルは、結構高めです(会計基準11項)。

【結合】経済的特徴が概ね類似し、かつ第11項⑶に記載した事業セグメントを集約するにあたって考慮すべき要素の過半数について概ね類似している場合(基準13項)

フローチャートを辿っていくと、量的基準(10%)のに、2つ目の集約話が出てきます。

こちらは、「結合」と呼称されます。

しかしこの結合は、量的基準(10%基準)を満たさない、比較的少額な一部のセグメントだけが受けることができる集約基準になります。

比較的重要性が乏しいセグに関する集約話であるためか、集約のためのハードルは若干緩く(”過半数”というキーワードに着目です)なっています。

量的基準

量的基準は、「10%基準」です。

金額的な側面でみて重要度の高い事業セグメントは、報告セグメントとして確定です。

なので、事業セグメントの多い会社は、報告セグメントは多くて10個くらいになってしまいます。

(なお基準では、セグメントの数が10を超える場合には、企業は、当該セグメント情報の区分方法が財務諸表利用者に適切な情報を提供するものであるかについて、慎重に判断することが必要になると考えられています)

しかも、売上だけではなく、利益(損失)や、資産についても基準に含まれているので、PLだけでなくBSが大きい事業も注意が必要です。

12.企業は、次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示しなければならない。
⑴ 売上高(事業セグメント間の内部売上高又は振替高を含む。)がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上であること(売上高には役務収益を含む。以下同じ。)
⑵ 利益又は損失の絶対値が、①利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額、又は②損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
⑶ 資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること
なお、本項の定めは、企業が、量的基準のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示することを妨げない。

セグメントの区分方法の継続性

報告セグメントをルールベースで決めてしまうと、ある年度では報告セグメントになるが、ある年度ではならないということが起こり得ますが、この点について適用指針は以下のように述べています。

9.会計基準第12項に定める量的基準を適用して報告セグメントを決定するにあたっては、相当期間にわたりその継続性が維持されるよう配慮するものとする。このため、前年度において報告セグメントとされた事業セグメントが当年度において会計基準第12項に定める量的基準を下回るとしても、引き続き重要であると判断される場合には、当該セグメントに関する情報を区分し、継続的に開示する。

堂々と「ある年度から量的基準で下回っても、報告セグメントの開示を継続せよ」と言われてしまっております。

これを言ってしまうと、量的基準とは何だったのか!?と言いたくなりますが、

確かに年度によって開示される報告セグメントがコロコロ変わるのも見づらく分かりにくいですし、そもそもすべては財務諸表利用者のための開示ですので、そこは諦めましょう。

マネジメント・アプローチの考え方の落とし穴

基本的に、経営者視点の数値で開示する

セグメント基準ではマネジメント・アプローチが採用されていますので、基本的に経営者の視点を利用者と共有し、財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることを目指します。

まずはこの大原則の理解が大切になります。

たとえば、会計基準は以下のような要求をしています。

測定方法に関する事項
23.第19項から第22項に基づく開示(利益(又は損失)、資産及び負債等の額)は、事業セグメントに資源を配分する意思決定を行い、その業績を評価する目的で、最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて行わなければならない。

財務諸表の作成にあたって行った修正や相殺消去、又は特定の収益、費用、資産又は負債の配分は、最高経営意思決定機関が使用する事業セグメントの利益(又は損失)、資産又は負債の算定に含まれている場合にのみ、報告セグメントの各項目の額に含めることができる。

これは何を言っているかと言いますと、報告セグメント上の数値は、経営者が使っている数値に基づくのが原則だと言っています。

実際は制度対応上、財務諸表上でいろいろな調整仕訳(修正や相殺消去など)をエントリーしますが、こと報告セグメント上の数値に関しては、経営者がそのような調整仕訳を考慮して使っている場合にだけこのようなエントリーを反映してくださいということです。

まさに経営者の数値が重視されていると言えます。

ただし、利用者を誤らせないこと

上記のように、基本的にマネジメント・アプローチに基づき経営者の使用する数値が重視されているわけですが、それは投資家のメリットになるからであって、かえって投資家に誤解を与えるような情報を出すことは慎まれるべきです。

そこで会計基準上は、基本はマネジメントの自由だけど、開示する数値にあたってはここに気を付けてください、という指示が書かれています。

こちらをご紹介します。

ここはある種の落とし穴ですが、基準の理解として欠かせないところだと思います。

具体的な話について以下触れていきます。

合理的な基準に従って配分

まず、合理的な基準に従った配分について説明します。まずは以下基準の条文抜粋をご覧ください。

測定方法に関する事項
23.(略)ただし、特定の収益、費用、資産又は負債を各事業セグメントの利益(又は損失)、資産又は負債に配分する場合には、企業は、合理的な基準に従って配分しなければならない。

84.(略)最高経営意思決定機関が意思決定のために使用している情報において、合理的ではない費用等の配分がなされている場合には、当該情報が、最高経営意思決定機関が意思決定のために使用している情報であったとしても、財務諸表利用者にとって有用な情報であるとはいえないと考えられる。
このため、特定の収益、費用、資産又は負債を事業セグメントに配分する場合、企業は最高経営意思決定機関が使用する財務情報上、合理的な基準に従って配分する必要がある旨を定めている(第23項参照)。

これは何を言っているかというと、「経営者が見ている数字が明らかにおかしい場合、そのままで開示しないでくれ」ということを言っています。

これまでの説明の通り、マネジメント・アプローチを原則としているところですが、それが絶対ではなくて、むしろ「会社(経営者)がよくわからない計算をしているんだったら、それ自体が問題なので、開示するにあたっては修正する必要がある」ということを言いたいのだと思います。

ここでフォーカスがあたっているのが、「合理的な配分」ですが、確かに実務の中では間接費など部門に直課できない費用と言うのは多数存在します。直課できない項目は何らかの基準で配分するしかないのですが、この配分が合理的でない場合にまで、マネジメント・アプローチを押し出す必要はないとも言えます。

この話は、マネジメントの作成する数字について個別に指示を出すことで拘束する趣旨ではないとは思われますが、管理会計を行う際には、配分の合理性については留意する必要があります。

この点、適用指針では以下のようなアドバイスがありますが、詳細は別の機会に。

11.特定の収益、費用、資産又は負債を事業セグメントに配分することとした場合には、企業は合理的な基準に従って配分しなければならないとされている(会計基準第23項ただし書き)。
例えば、営業費用には各事業セグメントに直接配分できる費用と、直接配分できない費用があるが、このうち事業セグメントに直接配分できない営業費用は、その発生により便益を受ける程度に応じ、合理的な基準によって各事業セグメントに配分する。
また、資産についても、各事業セグメントに直接配分できる資産と、直接配分できない資産があるが、直接配分できない資産のうち、複数の事業セグメントにおいて使用されている資産については、関係する事業セグメントの利用面積、人員数、取扱量(金額)又は生産量(金額)等の合理的な基準により各事業セグメントに配分する。

12.事業セグメント等に配分しないこととした特定の収益、費用、資産又は負債を、それぞれ全社収益、全社費用、全社資産又は全社負債(以下「全社費用等」という。)という。全社費用等がある場合、企業は会計基準第25項に定める差異調整に関する事項として当該全社費用等を開示する。

財務諸表数値との整合性

もう一つ、マネジメント・アプローチに完全に依存しない話があります。

公表財務諸表との整合性です。

会計基準60項.
マネジメント・アプローチに基づき、最高経営意思決定機関の意思決定のために報告されている情報を基礎としている場合であっても、当該情報が財務諸表利用者の判断を誤らせる可能性があると考えられるときには、これを開示することは適当ではない
例えば、複数の企業を介在させて、各企業の帳簿上通過させるだけの取引のように、収益の総額表示が明らかに適当ではない取引について、損益計算書上は純額で処理しているにもかかわらず、最高経営意思決定機関に対して顧客からの対価の総額を報告していることを理由に、セグメント情報上、当該収益を総額により開示することは適当ではないと考えられる。

この60項では、公表されている財務諸表で、収益を純額処理しているにもかかわらず、マネジメントアプローチだからという理由で、報告セグメント上の収益を総額にして開示するのは、正しいことではないという例が主張されています。

本人・代理人の検討により総額表示から純額表示に変更された場合、インパクトは結構大きい場合が多いですが、投資家がセグメントも含めて収益の分析を進めるうえで、収益の規模感に違和感が出て混乱してしまうおそれがあります。

この場合、そもそも、マネジメントが見ている数字が実態をあらわしていないかもしれないことが問題なのだと思います。

このほか、似たような話として、適用指針13項があります。

13.最高経営意思決定機関が、事業セグメントに関する資源配分の意思決定や業績評価を行うために使用している財務情報の各項目について、単一の測定方法を使用している場合には、会計基準第19項から第22項に定める開示項目は当該測定方法に基づいて報告する。これに対して、最高経営意思決定機関がこれらの項目について複数の測定方法を使用している場合には、連結財務諸表又は個別財務諸表(以下「財務諸表」という。)を作成するにあたって採用した方法と最も整合的であると企業が考える測定方法に基づいて報告する。

最高経営意思決定機関が企業の事業セグメントに関する資源配分の意思決定や業績評価を行うために使用している財務情報の各項目について、複数の測定方法が使用されている場合があります。

この、「複数の測定方法」について例を挙げるとすれば、まさにさきほどの収益の「総額」と「純額」の論点があてまるのではないでしょうか。

実際に私も実務の中で、各セグメントの業績を、総額と純額のどちらも用いて評価している事例を見たことがあります。

しかし、あくまで報告セグメントの数字は、財務諸表を作成しているベースで開示するのが、務諸表利用者にとって望ましいと考えられています。

このように、マネジメント・アプローチの考え方には以下のポイントがあると読み取れます。

1.基本的に、経営者の視点による数値を利用する
2.しかし一方で、費用等配分の合理性や財務諸表数値との整合性に配慮し、財務諸表利用者の誤解を防ぐ

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